干支の語り

永寝 風川

辰から巳

「ふわぁ....おい、巳。そろそろ交代だぞ」


襖が開いて、長い深緑の髪色を靡かせ、金色に近い色の中国の龍の角を持つ、180cmぐらいの背丈のある女性が目を擦り大きな欠伸をしながら、中にいる布団にくるまった少女にそう言った。


「んっ...もう...12年たったの....?」


伸ばしたボサボサの薄緑色の髪をもつ少女は目の前の女性にそう聞く。


「そうだ。だからはよ起きろ。我はもう眠い」


「んー...しゃぁ.....まってねー....」


布団から出た少女はまだ眠いのか、ゆっくり立ち上がって鏡台の上に置いていた赤い輪ゴムで髪を束ねポニーテールにすると12年振りに部屋から出る。


「ふわぁ...まだ眠ぃなぁ...卵食べたいのぉ....」


「貴様。起きてすぐそれか...まぁそう言うと思って我が買ってきておいたぞ」


「ありがとぉ....」


「こら!抱きつくでない!!我はもう眠いのだ!」


辰はそう言って巳を無理やり剥がすと自分の部屋に入っていく。


「そこのメモに書いてあるちゃんと見ろよ。ふわぁぁ....」


「ピシャリ」と音が鳴ると同時に襖が閉じた。

巳は辰が書いたであろう可愛い文字で書かれているメモを確認し、キッチンに向かった。

お湯を沸かし冷蔵庫から卵を数個取り出すと、沸騰させたお湯の中に割れないよう卵を入れた。


「これでいいかの、さて。あやつがメモに書いていた事をするか」


机の上に置いていた箱を開け板状の携帯電話を起動して辰が用意してくれた説明書を元に設定していく。


「しゃぁ...めんどくさいのぉ....」


四苦八苦しながらも設定を終えて、キッチンに再び戻りお湯に直接手を入れて卵を取り出して、卵の殻を慣れてる手つきで剥いて1つを口の中にそのまま放り入れ丸呑みする。


「美味しいのじゃ〜!」


お皿の上に残りの卵を乗せて、ウキウキした様子でリビングに戻る。


「うむ...この1年どうしようかの、とりあえず夜が開けると共に人々に紛れお参りにでも行くかの?」


そんな独り言を呟きながら細長い舌を卵に巻き付かせて再び丸呑みする。


「帰りに卵をたくさん買ってくるか!あ、次いでに辰が買っておくよう言っていた物も買わないとな」


そう言って、その少女はリビングに置いてある辰が買ったであろう漫画を見て夜が開けるまでケラケラ笑うのであった。

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干支の語り 永寝 風川 @kurabure

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