第17話
「さーて、終わった終わった」
夕食の配膳を終え、ひと段落ついた。
客室の案内も控えてなさそうだし、部屋に帰ろっと。
デクはフロントでおとなしく待機していた。
流石に私の後ろをほっつき歩くのはまずと思ったんだろう。
あくまでお客さんを装い、運ばれてきたお茶を嗜んでいた。
「仕事が終わったからご飯食べに行くけど、あんたも食べるんでしょ?」
「む、ご飯を…?いや、そんな失礼なことはできない」
…どの口が言ってんの?
今日1日「失礼」の限りを尽くしてきたあんたが、何を畏ってんだ…?
「佐知子さんが準備してくれてるから、言葉に甘えたら?」
「しかし…」
「時間がもったいないからさっさとして。通路を渡ったところに食堂があるから」
「わ、わかった」
旅館の敷地は広くて、本館の他に、別館がいくつかある。
外が見える渡り廊下を渡って、職員用のスペースがある西館に入った。
今日の献立は何かなー
夕食は日帰りで変わる。
お客さんへ提供する料理の残りもので作るため、ご飯と味噌汁以外は決まったものがなかった。
大抵は魚とか漬物とか、日本料理のアレ。
料理長の坂もっちゃんが作る料理は絶品だった。
お米は地元で取れた新米を使ってるから、もう最高で。
「ご飯は自分でついでよ。そこに味噌汁もあるから」
「…すまんが、スプーンはどこかにないか?」
「スプーン??箸がそこにあるでしょ」
「…箸は使ったことがなくてな」
「使ったことがない??あんた日本人でしょ?!」
衝撃の事実なんだけど。
アメリカにずっといたのはさっき聞いた。
でも、日本語は?
そんなに喋れるんだったら、少しくらい日本で生活したことあるんじゃないの?
「日本語は独学だ。日本にいたのは3歳くらいまでで、あとは海外で暮らしている」
「独学!?独学って、両親は?」
「両親はいない。殺されたんだ。生まれてからすぐにな」
「…なんか、ごめん」
「気にするな。両親など、所詮は遺伝子的な配列の上に立つ“関係者“に過ぎない。見方が変われば、赤の他人も同然だ」
「ハハッ、何それ。面白いこと言うじゃん」
「どこら辺がだ?」
「親なんて、所詮血が繋がってるだけの関係でしょ?もし決めれるんだったら、私は違う親がいい」
「ふむ。ずいぶん嫌っているようだが、何かあったのか?」
「…何も。ご飯が不味くなるからこの話はやめ。スプーンは多分ウォーターサーバーの近くにあった気がする。探してみて」
「気遣い感謝する。ちなみに、この食事に関しての代金だが…」
「いらないよそんなの。ちゃんとあとでお礼は言っといてよね。残り物って言っても、坂もっちゃんが愛情込めて作ってくれてんだから」
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