第14話
「あら、アズサさん。おかえりなさい」
旅館の女将さん、姫乃佐知子さん。
二十代の頃からこの旅館を取り仕切ってて、今年でもう30年目になる。
家出をした私を迎え入れてくれた人で、恩人だ。
多分、私が人生で出会った中でいちばん“綺麗な人”。
“気品のある日本の女性”を、絵に描いたような人だった。
「ただいま、佐知子さん。この男のことは放っておいていいから」
「お友達?」
「全然違う。ただの不審者」
「堂島龍生と申します。突然のご訪問となり、大変申し訳ない」
改まった態度で佐知子さんの前に立ち、さも自分が礼儀正しい人間かのように振る舞っている。
佐知子さんの目を誤魔化せると思うなよ。
あんたなんて、門前払いを喰らうに決まってんだから。
「あらあら、ついにアズサさんにも彼氏ができたのね」
「全然ちがーーーーーう!!!!佐知子さん正気!?」
「ずいぶんとイケメンで、アズサさんにぴったりじゃない」
「違う違う違う。よく見て??どっからどう見ても不審者でしょ?」
佐知子さんなら1発でわかると思ったのに、あろうことか“彼氏”??
コイツの外ヅラに騙されちゃだめ。
言葉使いが丁寧でも、頭の中はすっからかんなんだって!
「俺は彼女にとって、そういう存在ではありません。ただの使用人です」
「そうそう、そういう存在じゃない………って、使用人???」
言ってることは間違いじゃないが、説明が不足しすぎ。
それじゃ私があんたを連れ回してるみたいじゃないか。
あんたが勝手に付いてきたんでしょ??
ちゃんと説明してよ!!
「そんな隠さなくてもいいのに。さ、どうぞ上がって」
「いやいやいや、佐知子さん!?上がらせちゃだめだって!」
「あら、どうして?」
「どうもこうも、コイツは勝手に付いてきただけであって…!」
「そういう言い方は良くない。俺はキミを護るためにここまで来ている。“付いてきている”のではなく、警備している。言葉としては雲泥の差がある」
…コイツ
その口どうにかなんないの??
私たちのやり取りに佐知子さんはクスクスと笑ってた。
玄関口だとお客さんが来るからということで、中に入ることに。
佐知子さんがいなかったら鍵を閉めてやるところだったんだが、生憎私は「居候」の身だ。
そんな身勝手なことはできなかった。
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