昨日までは師匠だったが
綾波 宗水
第1話
好きだ。付き合ってくれ。
頭の中でさえ口にしなかったその二言が、スマホのメモアプリにはいとも容易く表示される。まるで自分の気持ちではないかのように。だが、告げられる相手にとっては、そこに毎夜の葛藤があろうが、反対に全く他人事のような熱量であろうが、返事はイエスかノーの二択なのである。
仮にも中学三年生の堀江
一介の家庭講師に告白されて、うかうかとハイと答えるような人間ではない。だからこそ、私は惹かれた。告白でもしたならば、英文を訳してみろと当てた時のように、目をやや泳がせつつ、自分の中の湖で言葉を探して、浮かび上がってこないだろう。そのまま、私は返事は今度で良いとでも言って、何も無かったかのように課題を解かせると思う。
そうして授業時間になる頃には私にとっては既に過去のこととなり、彼女にとっては今後のこととして、また何も答えずに私が模範を示す。そんな展開が予想されるからこそ、愚かにも告白などという行為には足を踏み入れることはない。この場合、社会的には足を踏み外す、と表現するのだろう。
そもそも、イエスと答えたとしたら、私はどうするのだろう。現に交際している女性もいる。でも、未成年に告白した段階で二股以前に犯罪になるだろうから、別に悩むことでもないのかもしれない。
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