第7話 【深淵】の世界は思ってたより広大でした……(楓)
【深淵】。
ここがそう呼ばれるようになったのはごく最近のことだった。
シンジュク・ダンジョンを含めた世界各地のダンジョンの最深部に存在する
日によって転移場所が変わり、今までのダンジョンのような洞窟から、木々が点在する草原、廃墟とはいえかつて王国があったような城と城下町、はたまた近代的な機械が存在する工場のような場所まで。
規則性も、統一性もないこの異空間はいつしか深淵として、私たちの認識していった。
☆@☆@☆
シンジュク・ダンジョンの最深部のゲートをくぐった先に転移したのは敷き詰めれば、約30人程が入るような小さな木製の教会だったからだ。
(えっ!?、教会!?)
辺りを見渡すと目の前には参拝者のための長椅子に奥には扉。
後方には教壇に首と片腕の落ちたマリア像のような石像。
そして、ここの宗教と思わしき聖剣のような剣と盾に青白い鎧を身につけたまるで勇者のような人物と修道服のような白い衣装を身にまとった聖女のような人物が光に照らされたステンドグラスがそこに存在していた。
「なんでしょうかね。これ?」
>はて?
>勇者と聖女っぽいなにかかな?
>もっと情報が欲しい
>ゲートの先はこうなってるだ
様々な考察や感想のコメントが異様な速度で流れていく。
深淵の攻略探索配信は世界規模で見ても貴重だし、場所も
「これでヨシっと」
「何してるの?。渚ちゃん」
「ん?。ここの〔冒険者の書〕に私と
「えっ!。それって書いて大丈夫なの??」
「うん、大丈夫。何故か分からないけど、この本に名前を書くと、次にゲートをくぐった時にまたここに来られるのよね」
「何それ初耳!?」
今、私の目の前では世紀の大発見がなんの脈絡もなく、当たり前のように繰り広げられていた。
>何それ!?
>何そのゲームのセーブ機能みたいなの!?
>いろいろと当たり前が崩れていく…
>世界の迷宮機関が努力はいったい…
全くである。
世界各国が血眼になっている安定した深淵探索をこの子――渚ちゃんはそれを前々からやってたような口ぶり……、多分やっていたのだろうなっていう感じなので……。
「あぁ、それと。楓にコレ渡しておく」
「コレは?」
「深淵探索用の
「どうしてコレが必要なの?」
「あぁ!。説明してなかったね。なんでか分からないけど、深淵の世界と私たちの世界ってなんか時間のズレがあるっぽいのよね。コレはそのための時計」
「…………」
「もしかして初耳?」
「えぇ……、はい」
もう驚かない自信はあったはずなのに……、所詮は人一人の考える予想外。
そんなものは壮大で広い世界ではちっぽけであっさり覆してくる。
理不尽。
>ほぇー
>もう何も驚かん
>強がりはよせ 俺は予想してたけどな
>嘘乙
コメントも充分に盛り上がってる。
まあ私も初耳な情報も多かったからねぇ……。
「それじゃぁ、行こっか」
「い、行くって何処に?」
「もちろんレベリングのために」
「あっ……」
すっかり忘れてた。
そうだった。
そのためにここに来ただった。
あまりにも新情報の数々に頭が一時的に処理を止めてた影響がこんなところにまで……。
「ちなみにどこでやるの……?」
「うーん、この村に近い〔草原〕かな?」
「へぇー……、〔村に近い草原〕かぁ……。ん?。村に近い草原!?」
私は慌てて教会の扉を開けて外に出た。
そこには木の板で作られた小さな家々と僅かな森林と田畑。
小さな木の柵が村を外周しており、澄み切った青空が広がっていた……。
そう、
「わぁ……」
>話には聞いていたがここまでとは…
>青空って ジオフロントにしてはやけに地上の空と同じ感じじゃない!?
>コレが深淵かぁ…
>わぁ…
うん……。
みんなそう思うよね。
私もそう思ったよ……。
「どうしたの?。楓」
「いやぁ……、綺麗な青空だなぁ……って思って(棒)」
「そうでしょ。たまにドラゴン飛んでたりするからヤバいよね」
「えっ!?。待って、ドラゴン!??」
「そうドラゴン」
「ドラゴンって
「そう、その
「わぁ……(棒)」
コレが【深淵】の片鱗か。
通りで深淵って呼ばれる訳ですよ。
地球空洞説がさぞ当たり前のように適応されてるよこの
そして村を出た私たちは近郊の草原にやってきた。
草原と言っても点在する木々と草花が見えるファンタジーゲームで出てくる背景のような場所。
「楓にはここで【草原のスライム】を相手にレベリングをしてもらおうと思います」
「【スライム】……」
【スライム】といえば、地上に近い上層で最初に出くわす敵モンスターで、ダンジョンの
ここ【深淵】においても、その
「楓にはここのスライムを一撃で討伐できるまでレベリングしてもらうから覚悟してね」
「だ……大丈夫。スライムくらい……」
今にて思えば、ここで強がり言わずに素直に渚ちゃんに甘ていれば良かったと後悔している……。
ここ【深淵】の
モンスターよりももっとヤバいのが隣いることなど、この時の私には思いもしなかったのだから……。
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