病弱黙示録おいげん 魔の闘病記

おいげん

第1話 2000秒後の君へ

 お疲れ様です、おいげんです。

 ここしばらく、というか現在進行形で地獄を味わってます。

 せっかくなので、読者様サービス……になるかは疑問ですが、私の愚かな十二月をお贈りしたいと思います。


 皆さま、健康にはご留意くださいませ。


―—


2024 11月末


 とある片田舎の総合病院。

 俺はいつも通り、持病であるクローン病の診察にきていた。


「おいげんさん、ちょっと炎症値が高いっすね。このまま鉄剤処方しててもいいんですが、一回入院してみます?」


 またか、と。

 その前にクローン病って何ぞやっていうところから始めよう。


 大腸に縦走潰瘍と呼ばれる、えげつない裂傷のようなモンができ、慢性化……つまりは一生治らない国家指定難病だ。

 放置しておくと出血、腸閉塞、お陀仏という嬉しくない未来予想図が待っている。


「またですか。ノリちゃん先生、なんとかなりませんか。退屈なんですよ、入院」

「そんなこと言えてる今だから、ですよ」


 主治医であるノリちゃんの目は笑ってない。

 しょうもない軽口で流そうとした自分を見透かされて、とても居心地が悪くなった。今さらながら腕組みをして深刻そうに考えてるふりをするが、きっと俺のような不真面目患者なぞ容易に丸め諭してくるだろうね。


「ご存知の通り、この病気は高価な薬を使用してますので、簡単に薬剤変更はできないんです。もし変更して前よりも悪くなった場合、戻すこともできません」

「でしたね。その……そんなに数値やべーんですか?」

「そっすねー」


 口調は軽いが、ノリちゃんはいつもド真ん中に投げてくる人だ。

 女性特有……というと昨今のセンシティブ表現にひっかかりそうだ。

 だが、男性患者。しかもおっさんの俺からすれば、女医さん=優しいという図式が頭に刷り込まれている。


「ま、サクっと入院して大腸検査しましょうか。同意書今印刷しますんで」

「わかりました。どれくらいの期間になりますかね」

「うーん、四、五日ってところっすね」


 ならいいか。

 数日の入院なんぞ手慣れたもんよ。禁煙だと思って耐え忍ぶとしようか。


「はーい、じゃあこの同意書にサインお願いしまっす」

「ノリちゃん、いつも元気っすね」

「医者の不養生は嫌いなので、せめて心持ちからでもと」


 カチカチとPCを操作して、ノリちゃんは俺の入院期間と検査日を予約していく。

 仕事が早い👺


 ちなみに俺は診察室にいない。

 救急処置室とかいうクッソ物騒な場所でいつも診察されるのだ。

 病床からはうめき声が聞こえてきていて、煉獄のオーケストラの生演奏を聞けるというリッチなスペースである。


―—


 カクヨムの近況ノートに入院のことを書き込む。

 またかよおいげん、そろそろ人居なくなるぞ、といつも脳内の現場猫が叫んでいる。でも事実だからしゃーない。


「今のうちに吸い溜めしとくか。あいてて……」


 俺の病状っつか状態として、デフォルト設定されてるものがいくつかある。

 腹痛・下痢・嘔吐・発熱・偏頭痛だ。

 既にこの時点で二倍役満なみのデバフがかかってるが、気にしたら負けだと思っている。


「タバコタバコ……と。ああくそ、腹いってぇ!」


 部屋で執筆するというのも、実はそれだけで膨大なカロリーを持って行かれる。

 常時痛いか、常時発熱してるので集中力が続かないんだ。

 それを昭和が誇る気合と根性と社畜魂で折り曲げて進むのが生き様よ。


「駄目だ、我慢できねぇ。踏ん張ってくるか」


 とてもお聞かせできない音。つまりは妖精や精霊の戯れが聞こえる。

 個人的には水っぽくとも、最後の『キレ』を重視するスタイルだ。なのでマヨネーズをカッチリと出し切るように、絞りを入れてフィニッシュ。


 ビト、ドロ。


 あっあっあっ。

 待って、この音知ってる。

 この生暖かく、粘性のある液体、おじさん知ってるの!


「くそ、やっちまったか……?」


 水で流すとピリっと痛い。

 痔持ちではないそうなので、これはつまりアレよ。


「やっぱり出やがったか……よぅ、五か月ぶりだな……!」


 トイレに咲いた鶏頭の花を見下ろし、俺は頭を抱える。

 これ……長くなる奴かな、入院。

 なんとなく嫌な予感ってのはあったし、そういう時は大抵当たる。


 俺は水洗で渦巻き状に流れていくマイブラッドを見送りつつ、いつもより多くの着替えをボストンバッグに詰める決意をしたのだった。


―—


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