魔法少女マギアギア☆エリス

おきな

プロローグ

 死にたくない。

 誰か、助けて。


 ☆   ☆    ☆                        ★


 西から昇ったお日様が、東に沈んだ夜の世界。

 その暗闇を炎が焼いた。この時ばかりはカエルも歌うのをやめた。稲作の天敵であるザリガニも体をつの字にして逃げ去った。

 そうしなければ、ほら。あの水田のように蒸発させられてしまうから。

 炎の中には二つの人影。

 一つは全長三メートル。牛頭の怪物―――ミノタウロス。頭部に生やした二本の角。全身を分厚い筋肉の鎧で包んだ、まさに野性が生み出した戦士。

 対峙するのは一人の〝乙女〟。

 あまりにか弱い。そのシルエットは随分と小柄で、ミノタウロスの巨体と比べると頭一つ分ほども小さい。華奢な体を包む紅蓮のセーラー服。掴んだ希望は幻想のタクト。灼熱の焔がスカートを揺らし、その下に隠れた純白が恥ずかしそうに顔を出す。

 乙女はまさに炎の化身。そして、この世界に流れ落ちた流星のともしび


「これが魔力……魔法の力か」


 乙女の身体を神秘のエナジーが駆け巡る。

 巡り、満たし、爆発的なパワーでその命を世界のくびきから解放する。

 輝く。紅く、熱い閃光が、この世に縛られし憐れな炎を踏み潰す。

 乙女は跳んだ。弧を描き、地上の炎が決して届かぬ星空に、その軌跡を焼き付けた。

 逆転し、今度は見上げる側となったミノタウロス。干からびた水田に掛かった橋状の装置の上で、熱に炙られた月を背に直立する、孤高の姿。

 この世界を睥睨するがが、目覚めるよう輝きを放った。

 いや―――起動した。


 それは神秘のエトワール。

 ウィッチでエッチなウィザードリィ。

 魔法仕掛けの魔道人形マギアギア


「魔法少女マギアギア・エリス。完成だぜ☆」


 その声は鋼鉄の乙女の中から―――


 彼女を操る〝少年〟の声だった。



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