第4話 写真部始動!

 春の気候は心地よく、思わず深呼吸をしたくなる。

 肺いっぱいに空気を吸い込むと、体中に力が満ちてくるような気がした。

 

「ふ――――っ」

 息を吐ききり、職員室のドアをノックした。

 今、僕は職員室に呼び出しを食らっていた。

 

 ――コンコン。

「失礼します」

 ドアを開け、一番近くにいた名前の知らない先生に声をかけた。

 

「深澤先生はいらっしゃいますか」

「んー、あれ?さっきまでいたんだけどな。まあ、席で待ってたら?」

 

 背の小さな優しそうな女性が答えた。その言葉に従い僕は深澤の自席へと歩みを進める。


 深澤の席には、飛行機の写真とパソコン、そしてお菓子のゴミが乱雑に置かれていた。

 

「おい、勝手に入るなよ」

 深澤がニヤリと笑う。強面だが、どこか憎めない。


「いや、席で待ってろって……」

「冗談だ。全部聞こえてたぞ。で、頼みがあってな。週末の授業参観、うちのクラス何もなくて困ってんだ。写真でも貼ろうと思って」

「写真、ですか?」

 

 深澤は話を続ける。話の展開がよめたため、卓上にある飛行機の写真に目を向ける。

 

「お前、写真部だろ?なんか適当に写真を撮ってきてくれないか?」

「今日、木曜日ですよね?授業参観は……あさってじゃ」

「今日の放課後辺りにでも撮りにいけばいいだろ」

「はぁ」

 思わず気の抜けた返事をしてしまった。

 (いきなりすぎるだろ)というセリフを喉に留める。

 

「一条には、次の授業で伝えておく。頼んだぞ」

 

 こうして、貴重な昼休みの時間が奪われた。


 ◆◇◆◇

 

「えっ、美月ちゃんも部室にくるの?」

 深澤からの指示を猿(田中)に伝えたところ、猿は手をパンと叩き立ち上がった。

 

「へー、写真部ってちゃんと活動してるんだ」

 横の席から陽菜が身体を乗り出し僕らに割り込んだ。

「陽菜ちゃんもサッカー部サボって、写真部に来ても……エエんやで?」

「んー、今はサッカー部の皆、公式戦に向けて頑張ってるから無理かな。ごめんね」

「そっか、残念やな……じゃあさ、今度暇なときモデルになってよ。スマホで撮るよりキレイに撮れるぜ!」

「いいね!また、今度お願いするね」

 

 田中は陽菜の言葉に小さくガッツポーズをした。

「やった!約束だからね。陽菜ちゃん!」

 陽菜は、田中に微笑みで返事をした。


 ◆◇◆◇

 

 僕と田中は写真部まで足を運び、ドアの窓を覗いた。

 教室の中には、纏まりのある髪を背中まで伸ばした女の子が姿勢を正して席に座っていた。


 ――ガラッ。


「ウェーイー」

 猿の鳴き声である。

 田中は勢いよく教室へ入り込んだ。

「こんにちは」

 一条さんは髪を耳にかけ田中に返事をした。

「こんちは」

 その気品さに圧倒され、僕は声を弱めてしまった。

 

 部室には、長机が置かれており、猿は一条さんの対面の席に腰をかけた。

 一条さんが座っている席は入り口付近にあるため、一条さんの隣の席の方が座りやすいのだが、僕は田中の隣に座った。


「美月ちゃん、久しぶりやな。1年生の体験入部以来やっけ?」

 猿のエセ関西弁が飛び出す。


「そうね。写真部って、普段はほとんど個人活動だから、こうして集まるのは珍しいね」

 一条さんの言う通り写真部の主な活動は、写真コンクールと文化祭で写真を提出するだけなので、部員が集まるのは1年生の体験入部や文化祭などのイベントぐらいしかないのである。


「5時間目の英語の授業で、深澤先生から写真を撮ってほしいと頼まれたのだけれど、鷹司くん細かいこと聞いてる?」

「あ、うん。今週末さ、授業参観あるじゃん。それで、僕らのクラス掲示物がないから、それで深澤に写真撮れって言われたの。巻き込んじゃってごめんね」

 僕は、一条さんに軽く頭を下げる。


「ううん、いいのよ。私、写真撮るの好きだし」

 一条さんは、手を振り笑顔で僕に語りかけた。


「美月ちゃんわかるー!おれも写真撮るのすきー」

 僕は(お前が写真撮るところろくに見たことないぞ)と心の中でツッコミを入れた。


「鷹司くんも、写真撮るの……好きだよね?」

 確認するかの如く、一条さんは僕の顔を覗き込んだ。昨夜の出来事を思い出し、身体がこそばゆくなった。


「まあ、それなりには」

 照れてしまうとテキトーな言葉で返事をしてしまうのは、僕の悪い癖だ。

 

「私ね、結構飛鳥くんの写真が好きなの。去年、文化祭の時に展示してたハイビスカスの写真!夕陽がバックですごくキレイだなって感動して今でもハッキリと覚えてるの!」

 珍しく一条さんが興奮気味で話を続ける。

「だからね、気になるの。田中くんもそうだけど皆が何を思ってどんな写真を撮るか」


 急に一条さんから褒められてしまったため口を閉じていると、田中が興奮気味の一条さんに応戦する。


「俺はね、美しいと思ったものにカメラを向けてるかな。だから、この部室の雰囲気とか、窓から見える景色とか……そうだ、美月ちゃんも入れた構図で撮ったら面白い写真になりそうだな。」

 田中は、机の上のカメラを手に取り、電源を入れると、すぐに一条さんへカメラを向けた。


 一条さんは驚いたように目を丸くし、田中から目線を外した。


 田中はカメラを下げ、目を見開き一条さんの様子を黙って見ていた。


「あっ、取り乱してごめんなさい。私、撮られるのは苦手で……」

 一条さんの長くキレイな指と手が震えていた。


「いや、こちらこそいきなりごめんなさい」

 田中は珍しく真面目な口調でそう答えた。

 

 気まずい沈黙が3秒……


 いや5秒続いた。我慢しきれなくなり、僕は口を開いた。


「今日は、3人別々で写真を撮って、撮影が終わったら部室で写真を見せ合うってのはどうかな?」

「そうしましょうか」

「了解」

 一条さんと田中が間髪入れずに言葉を続けた。そして、各々カメラを手に持ち教室を出た。


 

「じゃあ、1時間後部室で」

 そう僕が伝えると、2人は無言で頷き、それぞれ逆方向へ歩き出した。



 気まずい空気を部室に閉じ込め、携帯を確認すると田中からメッセージが送られてきていることを通知欄で確認した。

 メッセージの内容が通知欄では読めなかったため、その通知をタップした。

 

『 (´;ω;`)ウゥゥ 』


「いや、平成か!」

 

 携帯にツッコミを入れ、僕は外履きに靴を履き替えた。

 

 昇降口を出ると、体格のいい1人の男と目があった。僕は、その人物がすぐに誰か分かったためすぐに目をそらした。

 しかし、その男は僕を逃がしてくれはしなかった。


「おおー、飛鳥!久しぶり!相変わらず、写真やってるのか?」

 体育会系の高校生ならではの声量に圧倒され、再び目をその男に向ける。


「お久しぶりです、近衛先輩……」


 そこには、陽菜が憧れている近衛翼このえつばさの姿があった。

 

 


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【あとがき】

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