第7話 脅しと言う名の交渉
今のこの場所はブルボン帝国から馬車で2時間程度の街ゴーラニアだ。
人類側の大きな国という意味では、ホーリー聖教国、ルードニア王国があり、ブルボン帝国を含み三強国と呼ばれている。
その他にも異種族が住む国や小国が沢山存在する。
そして、人類の最大の敵魔族が住む国が魔国ルードラだ。
アイシャさんの境遇を考えれば、ホーリー聖教国は魔族と対立しているから最悪。
ルードニア王国も勇者認定国となり、ホーリー聖教国を支援しているから余りよくない。
となると、帝国領である、この場所は住みやすい場所と言う事になる。
だが、俺にはまだその先がある気がする。
魔国の近くの小国には魔族怖さに中立や、魔族との戦争に参加しない国もある。
特に隣接した国の傍には両方の種族が入り混じっている国がある筈だ。
つまり、大国に拘らなければもっと過ごしやすい場所はある筈だ。
最悪、その辺りに移住するのが良いかも知れない。
だが、それより……今の俺には試したい事がある。
◆◆◆
アイシャさんと今後について相談したら『フドラくんの好きにして良いよ』と言う事で、冒険者ギルドに来た。
此処からはある意味戦争だ。
「フドラ様、今日はどう言ったお話ですか? 素材の買取りでしょうか?」
受付嬢が挨拶してきた。
「いや、此処暫くこのゴーラニアを中心に活動しようと思っていたんだけど、なかなか住みにくいから拠点を移そうと思って、その挨拶に来たんだ」
「えっ、アイドラが移転するのですか? 折角パーティを結成したばかりなのに……」
受付嬢の顔色が変わった。
さぁどうでるかな……
「ああっ、妻であるアイシャさんの風評が酷いから住みやすい場所に移動しようと思ってね。 この際だから帝国領を出て魔国に隣接しているような中立国や交流がある国に行こうと思う」
「あの……ゴーラニアから居なくなるそう言う事でしょうか?」
可哀そうに汗迄掻きはじめた。
そりゃそうだこの世界にS級は聞いた話では8人位と聞いた事がある。
そのうちの4人はドルマン達だ。
残り4人は自由気ままに暮らしていたり、王族や貴族のお抱えだったりして動きは読めない。
その下はA級だが、これも恐らく10名前後。
つまり、実際の所俺達二人はこの世界で冒険者として20名に入る冒険者。 いや、下手したら8人の下で10本の指に入る実力者になる。
当然、俺達が居る事で、強い魔物の素材が手に入ったり、他の冒険者が討伐出来ない魔族の討伐……更に難しく塩漬になっている依頼を頼むなど沢山のメリットがある。
また、魔族と揉めているいま……A級冒険者二人がここに居るメリットはこの地の領主にも大きなメリットがあし、中立国に行ったら、魔族に対しての戦力が減る事を意味する。
アイシャさんを馬鹿にしているが騎士団と共に魔王と戦った実績がある。
魔王城で魔王と戦ったのだから、並の魔族より強いし、貴重な情報も持っている筈だ。
俺はこれでも『元勇者パーティ』同じく貴重な存在だ。
どうでるか……手放して良いのか?
ゴーラニア最大の戦力を。
「住みにくい場所に誰もが住みたいと思わないでしょう?」
「ですが、アイシャ様は元は帝国の王族、帝国領に居たいと思う筈です」
「そんなわけあるか! 王族から籍を抜かれすべての人間に嫌われた状態なんだ。他に行くだけで幸せになれる。 出て行くのが普通ですよ」
『魔王の愛人』と言うのはどれだけ嫌われるんだ。
転生者の俺には全くわからない。
この街や帝都、王都にもスラム街はある。
俺は知らないでアイシャさんと結婚した。
だが、結婚すれば養って貰えるのだから、ただ、アイシャさんと結婚するだけで貧困から脱出でき、世界は変わる。
すぐにスラムから脱出出来て、暖かいベッドで寝てご馳走を食べられる生活が待っている。
そんな最高のチャンスすら捨てる。
乞食の生活からいきなり幸せになれるのに誰もが選ばない。
その嫌われる要因『魔王の愛人』VSこの街最大の戦力。
果たしてどちらを選ぶのか。
これはこの街での俺達の賭けだ。
負けたら勝てるまで違う、街を選んでいけば良い。
俺の真剣さが伝わったのかかなり慌てだした。
「あの、本当に出て行くのですか……」
「此処が住みにくい場所だからな……」
さぁどうする。
「私にどうにか出来る事でないのでギルドマスターに相談して頂けないでしょうか?」
これで最初のカギはこじ開けた。
次は、どうなるかだ。
◆◆◆
「元、勇者パーティのフドラだな?」
「そうだ!」
豪華な特別室。
お茶とお菓子が用意されている。
そして、筋肉ダルマの男性。
多分、この人がギルマスだ。
「私がゴーラニアのギルドマスターゴードンだ! それで、この街を二人して去ると聞いたのだが本当の事かね?」
「どう考えても生活がしにくいからな」
「ふむ、状況は知っているが、それはアイシャのミスのせいでギルドやこの街の人間は関係ないのではないか?」
「そうですね……だが出て行く自由はある。 冒険者は何処で暮らそうが自由だ。 それに依頼を受けるのも受けないのも自由だろう?」
「それは遠巻きに、脅している様にとれるのだが、確かにこのギルドには君達を除くならば、C級冒険者が一番上になる。 そうすると確かにこのギルドは困る事になるし、この街を領地にしているコルド伯爵も悲しむ事になる……だが、この状況を一体どうしろと言うんだね? 嘘の噂なら正す事も出来る。だが、真実である以上どうする事も出来ない」
いや出来る筈だ。
「いや、上位冒険者は優遇するのはギルドとして当たり前の事でしょう? 事実、俺の居たパーティでドルマン達は優遇されていた。違いますか?」
「だが、こうも知れ渡った状態でどうしろと言うんだ」
「簡単ですよ! 今後、このギルドでアイシャの悪口を言った者は『殺す』そういう触書を出すのは如何でしょうか?」
「こ、殺すだと! そんな事出来る訳ないだろうが?」
いや、これは出来る。
「冒険者限定なら出来ますよね? 『冒険者の命は自己責任』そのルールに則って、俺が殺すだけです……ねっ、何も問題ない? 悪口が聞こえて来た瞬間に俺が斬り殺す。 死体を数人山積みにすれば、きっと誰も文句言わなくなりますよ」
「本当に、そんな事をする気か……お前は頭がおかしいのか!」
「いや、法律って良いよな? 本当に楽で良い。 同じパーティメンバーを貶す事は俺のパーティに喧嘩を売っているという事だ。 冒険者なら殺されても文句ないよな? 自己責任なんだから」
顏が青ざめている。
「本当に……やるのか?」
「やる……試しに数人見せしめの為殺せば……きっと次からは無くなる」
俺は殺気を込めギルマスを睨んだ。
「ちょっと待ってくれ!」
「待って良い事はあるのか? 無いよな!」
「だが、ギルマスとして冒険者を殺す事など許せない……仕方ない出て行って……」
此処で終わったら本末転倒だ。
更に、もう一押ししてやる。
俺にはまだ『使える切り札』がある。
「そうですか? ギルマスは俺が元勇者パーティだというのを忘れていますよ? 俺は嫌われて離団したんじゃない。能力が届かないから離団しただけだ。まだ交流はある。 その時の伝手で俺はローアン大司教やロマーニ教皇にも面識がある。 そこでこの街の悪口を伝えたらどうなりますかね?」
「なっ……」
「『かって魔王と戦い敗北して犯された女性がいた。 世界の為に戦い傷ついたのに街ぐるみで迫害した』そう伝えます。 勿論、勇者であるドルマンにもね……この世界中にそれが伝わったらどうなりますかね? この街を治める領主様も、この街の人間もきっと困るんじゃないですか」
「本当にそこ迄するのか!」
怯んだな。
「ああっ!? やる! 冒険者ギルドは上級冒険者を優遇する義務がある。 まして魔王相手に戦って傷を負ったA級冒険者を迫害するなんて間違っている。違いますか?」
「確かにそうだが、それじゃ一体どうすればいいんだ。はっきり言え!」
それを考えるのはギルドだ。
「めんどくさい……取り敢えず、俺は下に降りて酒でも飲むか? 悪口が聞こえてきて、その相手が冒険者なら、女子供でも容赦なく殺す......それが嫌なら自分で考えるんだな」
「まっ待ってくれ! なにか考える……考えるからな!」
「それじゃ、すぐ考えろ……待っていてやるから!」
ギルマスは通信水晶でどこかに連絡をとっている。
俺は、仕方なく冷めた紅茶を啜っていた。
小声で話していたが、どうやら話が終わったようだ。
「いま、コルド伯爵様と話が終わった。今後、アイシャを貶める様な事をした者は『鞭打ち100回の刑に処す』という触書きを出す事が決まった。これは冒険者以外にも適用する。またこれから、アイドラを優遇するようコルド伯爵様に正式に言われた。 だから、このままこの街で頑張って欲しい……此処まで譲歩したんだ良いよな?」
「それなら、今後頑張らせて頂きます」
これで少しは住みやすくなるな。
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