クラスメイトとお風呂に入る

 お湯を張り終え体を洗っていると、湯船の方からの視線が気になった。


 藤咲さんのわがままで結局一緒にお風呂に入ることになった私たちは、交代で体を洗っていた。私はタオルでゴシゴシと体を洗ってどうにかして気を紛らわせようとしたけれど、どうしても彼女の視線が気になる。


「そんなにジロジロ見られると恥ずかしいんですけど……」

「いいでしょ、減るもんじゃないし」

「考え方が男子中学生のそれと一緒なんだけど」


 指摘しても外れない視線に私は背中がかゆくなりながら体を流して、湯船に浸かった。入れ替わるように藤咲さんが湯船から上がり、頭を洗い始める。


 彼女の髪は長いから洗うの大変なのかな、なんて思いながら自分の髪の毛を撫でる。


 私のそれは彼女の半分ほどの長さしかなく、洗うのに苦労したことはない。

 ほどなくして藤咲さんが湯船に足を入れ、私の向かい側に座った。さすがに二人で入るには窮屈でお互いの足がぶつかってしまう。


「やっぱりちょっと狭いね」


 少し苦笑いになってそう言うと、藤咲さんが何か思いついたように、そうだ、と言った。


「それじゃあ、私もそっちに行っていい?」


 そっち、と言うのは私の方ということだろうか。余計に窮屈になりそうなものだが、断る理由もないから私は頷いた。


「やった」


 笑顔でそう言うと藤咲さんはくるりと半回転し、私に背中を向けて足の間に座り込んだ。ふわりと私のシャンプーの香りが鼻を掠める。同じシャンプーを使っているのだから当然のことだけれど、私よりもいい匂いがしている気がする。


 そして彼女は顔を上げ、下から見上げるように私の顔を見るとにこりと笑った。


「これならさっきより狭くはないでしょ?」


 私は戸惑いながらも笑顔で返す。彼女を支えるように肩を両手で持つと、びくりと少し震えたような気がした。


「大丈夫?」

「うん。ちょっとびっくりしただけだから」


 私からすれば彼女の行動の方がびっくりするのだが。

 私の中で膝を立てて座る藤咲さんの肩はすべすべで、触り心地が良かった。色白できめ細やかでもっちりすべすべな彼女の肌は、私とは違う生き物なのではないかと錯覚する。


「藤咲さんの肌って、すべすべだよね。何かやってるの?」

「え? いや特にはやってないけど」

「え、何もやってないのにこれはずるいよ」

「そんなことないよ。千代田さんだって触り心地いいよ?」


 そう言って藤咲さんは肩に乗せている私の手を撫でてきた。猫を撫でるようなその手つきがなんだかむずがゆくて、私は手を引っ込める。


 なんだかさっきから藤咲さんとの距離が異様に近い気がする。物理的に近いというのもあるが、心の距離が以前よりも近い気がする。私に心を開いてくれていると言えばそれはいいことなのだが、そうではない何かを感じる時がある。


 自意識過剰かもしれない。それでも、明らかに態度が変わってきているし、もしかしたら何か別の感情があるのでは……。


 そんなことを考えていると、藤咲さんが急に体を捻って後ろを振り返ってきた。


「千代田さんって……」


 考え事をしていた私と、急に振り返ってきた藤咲さんの顔が一気に近づく。鼻と鼻が触れ合いそうなほどに近づいてきたその顔はとてもかわいくて、思わず見惚れてしまいそうなほどだった。


 吸い寄せられるように目が合い、ほんの一瞬、私たちは時が止まったように見つめ合う。遅れて私は距離を取るように頭を退かせると、ゴツンと鈍い音を立てて壁に打ち付けてしまった。


「いってて……」

「大丈夫!?」


 ぶつけたところを抑えて悶えていると、藤咲さんが抑えているところに手を当てて撫でてきた。


「たんこぶとかになってなければいいけど……」


 心配そうな表情でぶつけたところを見つめる藤咲さんの顔が、近い。さっきよりも近くにある顔の細部までが私の目に映る。


 ハの字に下がった眉毛に茶色い綺麗な瞳。小ぶりな鼻と口が彼女の可憐さを際立てている。私の鼓動がドッドッと少しずつ早くなっていくのを感じた。


 ――え? なんで……。


 意識すると途端に恥ずかしくなって、藤咲さんの肩を押して私の体から引き剝がした。


「だ、大丈夫だから。ちょっとぶつけちゃっただけだし、冷やしてればすぐに治るよ」


 何でもないことのようにそう言って、明るい表情を作る。

 さっきから顔が熱い。のぼせちゃったのかな。


「そろそろ出よっか」


 私はのぼせた頭を冷やすため、頭がくらくらしてしまうほど暖まった浴室を出た。

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