俺は極悪貴族なのか? 〜ここは物語の世界らしい。自称『勇者になる男』がいきなり襲ってきたんですが、どうやら俺が勇者のようです?〜
あるべると・のいでん
第1話 俺は極悪貴族なのか?
「アルフレッド・ガートナーだな!この極悪貴族め!」
突如背後から怒声が響く。
敵意を感じて振り向くと、そこには俺を狙った拳が迫ってきていた…
あ、このままだと俺の人生、15歳で終わる…のか?
――――――――――――――――――
「ここで失礼します。行ってらっしゃいませ、アルフ様」
「ありがとう。アンナ。」
専属メイドに見送られ、穏やかな朝日が降り注ぐ中、新しい環境に期待を寄せて学園の校門から入学式を行う講堂まで歩いていた。
今日に限っては王族だろうが、貴族(いや貴族以外もそうだが)の護衛は校門から別ルートで講堂に入る。
この学園の設立意義に合わせ、身分に関係なく学園内では平等に学んでいく第一歩として、入学式の校門から講堂までは学生一人で歩いて向かうことになっている。
同じように一人で歩く新入生が他にもいて、俺もこの王立学園の生徒になったのだ、と実感する。
案内表示を見ながら、様々な施設があることと、それが学園生には自由に使えるという好待遇に喜びを感じる。幼いころなら図書館があれば他はいらないと思っていたかもしれない。だが、演習場などで訓練ができると思えば、それはそれで楽しいし、魔道具開発の研究室もあるようだから、何か新しい魔道具開発をしても良いかもしれない。ともかく領地から離れ、穏やかに3年間過ごせれば、領地に戻り領民のための領地運営を、父上を手伝いながらやることになるだろう。それまでは自分の思い通りに羽を伸ばす時期だ。両親からも「思う存分楽しんで来い」と言われているし、自由を謳歌しよう。
そんなことを考えながら、わずか100mほどの距離をややゆっくりと歩いていたのだった。
「アルフレッド・ガートナーだな!この極悪貴族め!」
突如背後から怒声が響く。
敵意を感じて振り向くと、そこには俺を狙った拳が迫ってきていた。
(やばいっ!)
咄嗟に、左手に魔力で圧縮した空気の盾を作りガードする。
と、想像以上の衝撃を受けた。衝撃だけでなく大きな音がして、何人かは振り向いているし、一部女生徒に至っては悲鳴を上げている。
え?これガードしなかったら、頭と身体がお別れするレベルじゃねーか?
予想以上の力で殴られた事で、踏ん張りが効かず身体ごと飛ばされてしまった。
(この先は…確か校舎の壁があったよな…)
と飛ばされる方を向いた途端に、目を見開いて固まっている美少女と目が合った。
「あ…」
このまま飛ばされて、俺と壁にサンドイッチされる美少女なんて見たくねぇ!
咄嗟に美少女の頭と背中を胸に抱き抱え、体を捻って背中から壁に激突した。
豪快な音と共にヒビ割れる校舎の壁。
「グッ…」
さすがにこの勢いでは咄嗟に背中に作った空気の盾では衝撃を吸収しきれなかった。思わず美少女を抱えた手の力が緩む。そして勢いが殺しきれず、慣性の法則に従って少女が動く。腹から胸にずり上がってくる二つの柔らかな膨らみと、甘い香りを感じて、美少女が顔から壁にぶつかっていく状態を想像してしまう。
(止めなければ!)
その一心で抱き抱える腕に力を入れると…
唇に柔らかな感触が…
え?
何が起こった?
この唇の感触は?
ま、まさか…
目の前で顔を真っ赤にして、口元を手で覆った美少女とまた目が合った。
「す、すまない!これは事故だ。」
これが王立学園の入学式の日、後に『聖女』と呼ばれるマリアベル・ストレインとの出会いだった。
「大丈夫か?申し訳ない。何やら巻き込んでしまったようだ。」
とりあえず、暴れる心臓を無視して声をかける。
自分の顔が赤くなっているだろうことは想像できる。
とにかく自分の心臓がうるさい。バクバクと大きな音を立てている。
「は、はい。助けていただいてありがとうございます………私の……勇者様…」
そこに消え入りそうな声が聞こえる。最後の方はよく聞こえなかった。
(『私の…』なんと言ったのかな?)
まだ心臓がうるさい。
まぁ、良い。
頬を染めたまま、透き通った緑の瞳は視線が落ち着いていないが、ひとまずは大丈夫そうだ。
壁の破壊による土埃も収まり、周囲が見えるようになってくると、美少女の灰色がかったプラチナブロンドが輝きを見せる。その後方に目を向ければ、学園の警備兵によって、俺に殴りかかったと思しき赤髪の男が左腕を後ろに極められ、地面に抑え付けられていた。なにやら喚いているようだ。
「あいつは極悪貴族のハズだ!だから俺が成敗しようと…」
「やかましいっ!他の人間も巻き込んでいただろうがっ!それにいきなり暴力に訴えるのは、どう見ても頭がおかしいとしか言いようがないぞ!
お前のやってることはただのテロだっ!」
遠巻きに『何が起こったのだ?』とか言う声がチラホラ聞こえる。流石に正確に何が起こったのか把握している人間はごく少数のようだ。
警備兵は人が集まる前に素早く襲撃者を連行し、騒ぎを最小限に抑えていた。
しかし校門から講堂までの僅かな区間ではあるが、新入生の護衛が外されるこのタイミングで、同じ新入生を刺客として仕掛けて来るとは…
我がガートナー子爵家にダメージを与えるための襲撃タイミングとしてはベストなタイミングだな。もっとも鍛えていた分、俺自身へのダメージは皆無に等しいが。こうなるとあの『お転婆』に連れ回されても大丈夫なように、と鍛えたのは間違いではなかったということか。
しかし油断していたな。殺気がなかった分、襲撃に気づくのが遅れたのは反省点だ。おまけに同い年の人間に、ここまでの力を持つ者がいることを想定していなかったのは少し傲慢になっていたかもしれないな。これも反省点だ。
…師匠に怒られるな…
ともかく、こうして望んでいた平穏な生活とは程遠い、波乱万丈な俺の学園生活が始まった。
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と言うわけで、初作品を公開してみます。
まだ10話程度のストックはありますが、いつまで続けられるか…
正直、ネタバラシになるところまでは持っていきたいところ。
遅筆なのは自覚しているので、気を長くお待ちください。
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