第9話 作戦会議
村を出発し、細い道を進んでいく。村長の言う通り魔物は全く見当たらない。時折小さな魔物が現れるが、こちらに気がつけば怯えたように逃げ去っていった。冷たい風が吹き抜けるたび、地面の草が揺れる。草が揺れる音が何かの足音のように聞こえ、その度に後ろを振り返った。しかし、その先は草が揺れているだけで、何もいない。太陽はてっぺんを譲り、西へ沈み始める。俺とケインさんの影が縦長に伸びはじめていた。
「ユウさん、シロタマモドキをどう討伐するご予定ですか?」
ケインさんに問われ、俺は答えた。
「罠埋めて、かかったところを攻撃。を繰り返そうかと……思ってます」
シンプルで理想的過ぎる作戦を口にするも『本当に大丈夫?』『罠かかってくれる?』と心配事がぽんぽん浮かび上がる。左手に持つ盾を意味無く何度も持ち直す。
「繰り返す必要はありません。一撃で決着をつけましょう」
提案の内容と、口調の軽さのギャップに戸惑った。
「……無理ですよ。一撃で倒せるほど、俺は強くないです」
「私の魔法でサポートしますよ。身体能力を強化する魔法がありますので、その時は自信を持って剣をおおきく振り下ろしてください」
大振りは隙だらけだ!危ない!そう俺の頭は警鐘を鳴らす。ただ、ケインさんは俺の事を真っ直ぐとみて、真剣な面持ちで伝えてきた。
「それよりも、問題は罠の方です。結界を張って、戦場を狭めるにしても、最終的には罠に誘導させる必要があります」
「結界で…戦場を狭める?」
「魔物を決壊内に閉じ込めれば、行動範囲が狭まるでしょう?」
閉じ込めるのは確かに魅力的だ。だが、相手はかなり素早い魔物だし、上手く誘導できると思わない方が良いかもしれない。もっとより、行動の選択肢を狭めさせなくては。
「結界って、上からみて長方形に作れたりしますか?横幅はこの罠が発動する距離で。ちょっと狭いですけど」
「可能ですよ」
「そしたら」
俺は一度立ちどまり、そこら辺にある石ころを俺、ケインさん、シロタマモドキに見立てて説明する。石で地面に長方形を描き、これを結界に見立てる。そして、俺達とシロタマモドキとの間に、短い線を1本引く。即席戦略図だ。
「こんな感じで俺達とシロタマモドキの間にも壁貼れますか?一時的に空間を分けて」
俺は俺達と壁との間の空間を指さす。
「この辺りに俺が罠置きます。その後に仕切りを外して、シロタマモドキが罠にかかる……って感じで」
ケインさんは図を覗き込みながら、ふむと考え込んだ。
「承知いたしました」
「え、意外とあっさり?結界発動の時間とか、耐久力とかって大丈夫なんですか」
「ご安心ください。発動には数秒かかりますので、その時間を稼いでいただく必要はありますが」
「す、数秒?!」
驚く俺、相変わらず落ち着いているケインさん。俺は、 その数秒を稼げるのだろうか。いやそれ以上に、結界がものの数秒で張れるって、この人は本気で言っているのだろうか。
「……ケインさんって何者なの?」
思わず質問してしまう。勝算のないことする人ではないと一度は信じたのだが、習得している魔法やら、今の発言が何一つ虚勢でなかったのだとしたら、始まりの町にいるにしては強すぎる。
「ただの優秀な冒険者僧侶ですよ」
彼は微笑みさらりと答えた。だが、その自然さが逆に、違和感を助長させるのだった。その違和感を俺は、彼のようにさらりと流して良いのだろうか。
俺は頭を振った。今はシロタマモドキだけに集中しよう。奴と対峙すれば明らかになることだ。ケインさんの実力も、俺の覚悟も、なにもかも。
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