終人

@matcyakari

第一話【拒絶し束縛する】

嫌いだ。

男が嫌いだ。女が嫌いだ。

人間が嫌いだ。

そうやって捻くれている自分も嫌いだ。

自分を形成する骨も、肉も、神経も何もかも。

全部嫌いだ。

そんなことを言って本当の気持ちを抑えていた。

こんな私にも彼氏が出来た。

私の話を聞いてくれて、とても優しかった。

この人なら信じれると思った。

彼はいつも私より早く帰ってくれる。

「ただいまぁー」

家のドアをこれまでのように開ける。

リビングに2人の人影があった。

ひとつは私の彼氏。

ふたつめは私の姉。

別にそれだけではなんてことないがヤッてることが悪かった。初体験を奪われた以前に私の思っていた擬音とは違った。

ブシュッ

ブチィッ

ゴリッ

明らかに一般的な音ではなかった。

姉が彼氏を食べていた。

さながら蟲の交尾のように。

姉がカマキリに見えた。しかしそれは生き残るためではなく、快楽のためのように見えた。

「ヒ、ヒッ…」

足がすくんで、腰がぬけて、動けなかった。

でも。

それでも。

彼の為にと。

私は立った。

「う、うわぁぁぁ!!」

むやみやたらに突っ込む。

姉の人差し指が私の方向へ向く。

気づいても、もう止まれない。

グスッ

ブシッ

どばばばば

「----------!------------------------------!!」

声にならない声が出る。

左の目玉をえぐられた。

姉は人差し指にある私の眼球をべロリと舐める。

「ヒ、ヒィィィィ…」

「あ”あ”あ”あ”あ!」

逃げた。

逃げた。

逃げ続けた。

屑だ。

やっぱり私は屑の捻くれ者だった。

私は心を鎖で縛る。

もう二度と開かないように。

無意識の内に。

「もう……無理だな…」

あはは

あははははははは

生きてて苦しい。

生き続けようとして、もがき、もっと苦しくなる。

そんな永い苦しみを耐えた私なら一瞬の痛みなど誤差だ。

車用信号は青に切り替わる。

私はスキップで歩き出す。

あちこちからなるクラクションが五月蝿い。

ドゴッ

グシャッ

あぁ、死ねた。

やっと解放された。

もう悩むこともない。

今は楽しかった。人生最高の瞬間だった。




どろっとした感触が手に伝わる

視界がぼやける

はは…やっとか…

「意外と呆気ないな……」

しかしなんというか私を縛る鎖は切れてくれなかった。




「やぁ…随分と大胆だねぇ。何かあったのかい『死に損ない』。」

煙草をフカしながら彼女は私に話しかける。

「うーん人目につくところはまずいなぁ。」

そういうと私をヒョイっと持ち上げて路地裏へダッシュした。

「よっし到着っと。」

「さぁいつまで死んだフリをしている死に損ない。」

さっきから一体この人は何を言っているのだろう。

死に損ないとか死んだフリとか実際死んでいるのに。

「君はバカなのか?そんな独り言を呟いていて死んでいるわけが無いだろう…」

「え?」

「なっ…なんで!私車に跳ねられて…え!?」

「やっぱ成り立てだったのか…私の予測は外れてなかったな!」

「なんで私は死んでないんですか!この苦しみから解放させてくださいよ…」

「それは無理だね私たちは縛られている。」

「その証拠にほら。」

彼女は触っただけでも切れそうなナイフを自分の胸につき当てた。

「な!何してるんです!?」

彼女の胸元から血が吹き出す

しかし彼女がナイフを抜くと胸元に「一切」の傷が無かった。

「え!?どうしt…」

胸の辺りに奇妙な感触を感じる。

何故か分からないが私の胸元から赤黒い液体が流れ出していた。

「……」

私は沈黙の後、その場に崩れ落ちるように死んだ。死にたかった。

「…すごいなお前。2回目と言えどそんなにサラッと逝くやつは初めて見たな…」

「とりあえず起きろよ。」

死んでいるのにクリアに見える世界、幻だったかのような胸の傷、死に損なった現実。

「まだどっか痛いのか?」

ベシッ

彼女が差しのべた手を自分なりに優しく左にずらす。

「う”るさい!!」

「なんで死なせてくれなかったの…」

「そりゃ死ねないからな。しょうがない。さっき実践した通りだ。」

「お前も私も。」

「永遠に死ねない。」

「お前は見た感じだとrevival…つまりは不老不死の中の【復活】だな。」

私は一旦、冷静に物事を受け取る。

1:私はなんらかの理由で自殺の時から不老不死の体になった。そして恐らくこの女性も私と同じく不老不死だろう。

2:さっき「不老不死の中の〜」と言っていたためいくつか不老不死にも種類があるのだろう。

3:【復活】の名の通り私はその場で何事も無かったかのように生き返る、ゲームで言うリスポーンに似た感じだと思う。そして恐らく彼女の種類は…


「…ん?そっかまだ言ってなかったか…」

「私は哀河遊。哀れみの哀に河川の河、遊ぶの遊で「あいかわゆう」と読む。」

「お察しだと思うが私はreflection、【反射】だ。」

「これからよろしくな!ええと…お前の名前は?」

「矢黒波奈って言います。これからよろしく…?」

「なんで私が貴方について行く流れになってるんですか。」

「いや…だってこのまま社会に出たって不老不死がバレたらお前終わりだぞ?」

確かにそれは有り得る話ではある。人体実験とかされる可能性も大いにある。

「…いいですよ。さて、「これから」と貴方、いえ遊は言いましたが何をするんですか?」

「私の方がお姉さんなのにタメ口使われた…ま、まぁとりあえず他の不老不死を見つけて保護しないとな。この不老不死から抜け出せる方法も見つかるしな。」

「とりあえず今分かっている不老不死の種類は波奈と私合わせて5種類だ。」

「 【復活】 【反射】 【拒絶

】 【記憶】 【遡行】 」

「この5つだな。」

「相手も意志を持ってるが故に戦闘になる場合もある。」

「その時は武力行使でいくがいいな?」

私は黙って頷く。

「流石だな。」

「よっしそれじゃ向かうぞー!」

「え?行くあてとかあるんですか?」

「おーあるぞあるぞー!」

意外だな。正直ノープランだと思ってた。多分誰だってそう思うだろう。

「最初の目的地はー…ドルルルルルル」

彼女のセルフドラムロールからか、何故か心配を覚える。

不覚にもこの予感は的中するのだが。

「デデン!刑務所でーす!」

スタートの1から不安しかない旅が始まった。

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