腐りかけのきみと

五月七日結里

Die the Death

 視界は良好。空と自分の間に、遮るものはなにもない。


 だから、神様には視えているはずなんだ。


 血に溺れた、死にゆく小さな命の存在を。


 なのに、助けてはくれない。


 それは、存在しないから?


 今まで祈りを捧げてきた意味はあったの?


 ないか。だって、心から信じたことなんて、一度もなかったんだから。


 死に際に、今更ながら神頼みをするなんて、みっともない。


 でも、愚痴や未練くらいは言わせてほしい。

 

 だって、脳以外まともに動かせないんだもの。


 四肢が繋がっているかすら怪しい。


 突き刺さるような冷たい感覚。


 限界を超える痛みは、痛がることさえ出来ないことを痛感する。


 ただ体が凍えているのみ。寒い………


 刻一刻と迫りくる終焉までの一時も、走馬灯を見ることしか許されない。


 死に際はベッドの上で、家族に看取られたかった。


 でも現実は残酷。体は瓦礫の上。これ以上ない最低の寝心地。


 見舞うのは家族でも天使でもなく、人を狩る鉛。また爆発音が聞こえた。


 もはや現実なんて、見たくもない。


 妄想の世界へ逃げるために、瞼をゆっくりと閉じる。


 今度は幾多の思い出や、したかったことの映像が浮かび上がった。


 今更こんなものを見せられても、もはや叶うことなんてないはずなのに…


 まだまだやるべきことはたくさん残っていたのに…


 せめて最期に…あの人にもう一度会いたかったのに…

 

 どんな形でもいいから、神様…


 あなたが本当に存在するなら、どうか奇跡を…


 死に…死を与える奇跡を………!

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