没落貴族なのに領地改革が止まらない~前世の知識で成り上がる俺のスローライフ~
昼から山猫
第1話
朝、目が覚めると、俺は見たことのない天井を眺めていた。
しかもやけに古びた木の梁が軋みをあげ、ほこりっぽい空気が鼻を突く。
まどろんだ頭を振り払いつつ起き上がると、ざらついたシーツが背中に張りついていて気持ち悪い。
昨日までは確かに日本で会社勤めをしていたはずなのに……なぜかボロいベッドで寝ている自分に違和感しか覚えない。
しかも部屋の調度品はどれもガタが来ているし、壁にはカビのような汚れがこびりついている。
まるで廃墟みたいだと嫌な汗がにじみ、胸の奥がざわついた。
「ちょっと、夢オチ……じゃねえよな? 勘弁してくれっての」
俺は自分の頬を遠慮なくつねってみたが、痛みはリアルに走るばかりで目が覚める気配はない。
ということは、どうやら夢ではないらしい。
そう確信した瞬間、一気に寒気が襲ってきて心臓がドキドキと鳴り始めた。
仕方なく部屋を出ようと扉を開けると、目の前にあるのは長い廊下だった。
しかし、その廊下すら壁紙が剥がれ落ち、床板の一部が軋んでいる。
俺は恐る恐る廊下を進み、窓から外を覗いてみる。
すると視界に広がったのは、荒涼とした大地だった。
草もまばらで、まるで長い間手入れされていない放置された畑のような……いや、畑ならまだしも、ただの荒野にしか見えない。
「どこだよここ……」
声にしっかりと出してみたけれど、当然答えてくれる人はいない。
俺は手近な扉を開け、部屋を探してみることにした。
何か情報があるかもしれないと期待したのだ。
開けた先の部屋には、乱雑に放置された書類の山があった。
ホコリまみれの机の上、椅子の上、さらには床に散乱した紙の束。
そこに書かれている文字は、なんとか日本語に近い……いや、いやに古風な書式だが読める内容が混じっているのに気づいた。
「――歴代領主の記録、か? ここって領主が住む館……ってことか?」
紙を拾い上げて読んでみると、「この領地は数代にわたり、財政難が続いている」「現在の状況は極めて危機的」など、なんだか穏やかじゃない情報がたっぷり。
税収の減少、畑の荒廃、領民の逃亡、借金の山……と、負の要素が目につく。
まさに“没落領地”と呼ぶにふさわしい暗い内容だった。
「待て待て……ってことは、俺はここの領主ってヤツか? しかも没落中?」
信じられない思いで頭を抱えたが、紙束の片隅に書かれていた名前が、どうやら今の俺の名前らしい。
要するに、今の俺は“この国の貴族の一人”として扱われている可能性が高い。
しかもかなり下の位か、あるいは中央から左遷されたような扱い……そんな予感がビンビンに伝わってくるのだ。
ひとまず頭を冷やそうと思い、外へ出てみることにした。
大きめの玄関を押し開けた先には、瓦が剥がれかけた屋敷の門。
そしてその向こうには、広がる荒野。
陽の光が眩しく照りつけるが、風景は全然明るくない。
「……やばいって。ちょっと笑えねぇぞ、これ」
領地と言っても、到底まともに経営できるような土地には見えない。
しかも屋敷は荒れ放題、畑もなく、村らしきものも見当たらない。
俺の心は不安でいっぱいだが、それでも逃げる当てもない以上、何とかするしかない。
「やるしかねぇ! こうなったら徹底的に立て直すしかないだろ!」
俺は拳を握りしめ、ぎゅっと歯を食いしばった。
とにかく、ここでくじけても状況は好転しない。
日本で学んだ知識を活かせば、少しは変えられる可能性がある……そう信じるしかないのだ。
――朝起きたら没落貴族になっていた。
それは現実離れした出来事だが、今この瞬間に起きている紛れもない事実。
この国や領地がどんな仕組みで動いているのかさっぱりわからないけれど、やるしかない。
そう思えたのは、俺が前世でギリギリまで踏ん張る癖をつけていたからかもしれない。
「よし、今はとにかく動こう。始めるぞ、領地再建を!」
そう決意を固めた俺は、ボロ屋敷の門を思い切り押し開けた。
まだ見ぬ村人たちが、そしてこの土地が、俺を待っているのかもしれない。
そう信じながら一歩を踏み出す。
――こうして俺の“没落貴族ライフ”が幕を開けたのだ。
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