第5話

「……今すぐ手を離して下さい」


「交渉成立だね」




そう言ってふんわり微笑むと、青年は容赦無く私を引き上げた。


そのゴチャゴチャしたピアスが連なった耳は飾りなのかと問いたい。話聞いてましたか?



だけれど仮にも死にかけていた私の足は、平衡感覚を取り戻してもなお、ぷるぷると震えて動くわけもなくて、――そんな調子だったから、救けてくれたその人に悪態をつく元気なんてどこにもなかった。




「さて。これで晴れて俺はお前のカミサマになったわけだけど、」




生まれたての小鹿の如く足を震わせる私の肩にぽんと柔らかく手を添えるその人の笑顔に、一切の邪気が感じられないのが逆に怖い。




「だから前述の通り、セックスしようね?」




IQ2くらいしかねえなこいつって確信できたと同時に、よりにもよってとんでもなく面倒くさそうなやつに命を拾われてしまったと、滝のような汗がブワアっと吹き出した。


やっぱ死にたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る