第10話
大都市の交易市での大成功を収めた俺たちは、莫大な売上金を手にして意気揚々と領地へ戻ろうとしていた。
大量の荷車には木工品や薬草の残り在庫、新たな商談で手に入れた品々も積まれている。
このままトラブルなく帰れれば、借金の返済も大きく前進する――そう信じていたのだが。
門を出て間もなく、街道沿いにあの肥満体型の大柄な中年男が現れた。
隣国の商人、オットー・トバだ。モノクルを片目に挟み、ニヤリと薄笑いを浮かべている。
「おやおや、エルフリード殿ではないか。大儲けしたと聞いて、私も鼻が利くものでね。ぜひ我が商会で独占的に買い取らせてほしいものだが、どうかね?」
オットーはいやらしい笑みを浮かべながら、一歩踏み出した。
俺はげんなりした気分で首を横に振る。
「悪いが、俺は自由な取引を望んでるんだ。独占契約で縛られるつもりはない。必要以上に安く買い叩かれたくもないしな」
「ほう……ずいぶん強気じゃないか。せっかくの好意を蹴るとはね。まあいい、そういうことなら別の手段を使わせてもらうだけだ」
その言葉が不穏極まりない。
オットーは「ふん!」と鼻を鳴らし、どこかへ立ち去っていったが、その背中からは明らかな敵意がにじみ出ている。
セリカが眉をひそめ、「オットーは帝国とつながっているって噂があるの。用心したほうがいいわ」と警告する。
ラヴィアもなんだか落ち着かない面持ちで、「嫌な感じだよぉ……」と呟く。
ノノカは「私、何かあった時のために治療道具をすぐ使えるよう準備しますね」としっかり者らしさを見せる。
そして予感は的中する。
帰路の中盤あたり、森に差し掛かったとき、突然あたりに潜んでいた盗賊の一団が襲いかかってきたのだ。
どうやらオットーの差し金か、あるいは帝国の一部勢力か……いずれにせよ悪質な強奪だ。
「なんだよ、またかよ! この金と商品だけは絶対に渡さねえからな!」
俺たちは慌てて荷車を固め、セリカとラヴィアが警戒態勢に入る。
ノノカは少し下がった位置で、万が一の救護役を引き受ける。
「こっちは数が多いわ。エルフリード、どうする?」
「逃げるわけにはいかない。ここで物資を奪われたら借金も返せなくなるし、何よりもうプライドが許さねえ!」
俺は木製の棒を握りしめ、仲間に目配せ。
セリカは冷静に「敵は一斉に襲いかかってくるタイプ。包囲される前に、こちらから動くわよ」とアドバイス。
その通り、奇襲を仕掛けられる前にこちらから突破口を開くべきだ。
「よし、ラヴィア、あの岩陰から一気に敵を撹乱してくれ! セリカは別ルートを回って指揮官っぽい奴を仕留めてくれ! ノノカは後方支援頼む!」
「了解っ!」
ラヴィアが身軽に木々の間を跳ね回り、敵の注目を引く。
白ニーハイが目にまぶしく、踊り子としての華麗なステップが戦闘にも応用されているのがすごい。
敵があっけに取られている隙にセリカがスッと姿を消す。
「そこよ、甘いわね……!」
低い声でささやくと同時に、セリカは背後から敵の指揮官らしき男を顎下にナイフで突きつける。
完全に動きを封じられ、他の盗賊も戸惑って攻め手を失う。
俺はラヴィアが稼いでくれた時間を生かして、先頭の敵数名を棒で叩きのめし、残りを追い払う。
彼らは思ったより組織的に動いているが、強さそのものは雑魚レベルだ。
セリカの腕前、ラヴィアの俊敏さ、ノノカのバックアップ、そして俺自身の気合――すべてが噛み合った結果、盗賊団は総崩れとなった。
「何が“別の手段”だよ、オットーの野郎。こんな卑劣なやり方、絶対に許さねえ!」
俺は倒れた盗賊の一人からひったくるように懐を探り、紋章入りの紙片を発見する。
見たこともない紋章だが、セリカは一目で「これは帝国の一部貴族の家紋ね。やはり彼らが裏で糸を引いていたのかも」と呟く。
オットーが帝国の一派と繋がっているという噂は、どうやら事実らしい。
「くそっ……でも、これで俺の領地を踏み台にはさせない。絶対に叩き潰してやる!」
奮起する俺の横で、ノノカが「大丈夫ですか? 怪我を見せてくださいね」と柔らかい声をかけてくる。
ラヴィアも「エルフリード様、あんまり無茶しちゃダメだよぉ」と心配そうに覗き込む。
セリカは「今回は撃退できたけど、相手が本気を出してきたら……私たちも戦略を考える必要があるわね」と腕を組む。
ともあれ、奪われる前に撃退できたのは大きい。
これで無事に領地へ戻れれば、借金返済への道が大きく進む。
ただし、帝国の一部勢力やオットーが今後どんな手を使ってくるのかは分からない。
次こそはもっと巧妙な罠を張ってくるかもしれないけれど、それでも俺は引き下がるつもりはない。
スローライフを勝ち取るには、まず外敵を蹴散らすことも必要なんだ。
仲間たちと一致団結して、この領地を絶対に守り抜く――そう燃え上がる俺だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。