辺境領主になった俺は、極上のスローライフを約束する~無限の現代知識チートで世界を塗り替える~
昼から山猫
第1話
頭がガンガンする。
さっきまで車のハンドルを握っていたはずなのに、気づけば柔らかいベッドの上だ。
しかも見慣れない天蓋付きのベッドで、部屋の雰囲気はどう見ても中世ヨーロッパ風。
いや、そもそも俺、確か交通事故に巻き込まれたはずじゃ……?
しばらく呆然としていると、ドアが開いて年配の男が入ってきた。
ローブを羽織っているあたり、この世界で言うところの執事か使用人のようだ。
そして俺を見て目を潤ませながら、「ご無事で何よりです、エルフリード様」と言った。
エルフリード……?
俺の名前は確か――いや、違う。どこかで聞き慣れない名前だ。
「エルフリード様、目覚められたのですね。お体の具合はいかがでしょう」
そう問われても、頭の中はパニックだ。
けれど、この人の表情は心底ホッとした様子。どうやら俺がここで倒れていたらしい。
ひとまず体を起こすと、奇妙な記憶が一気に流れ込んできた。
エルフリード・ハヤカワという名の、十八歳の青年。
それが、この世界における俺の新しい身元らしい。
「えっ……ちょっと待てよ。ここ、どこなんだ?」
部屋の窓を開けると、広がるのは石造りの町並みと、遠くに見える荒れ果てた畑。
人々がやせ細った顔で行き交い、活気がまるで感じられない。
ああ、なんかすごく寂れた場所に来ちまったな――そんな印象が脳裏をよぎる。
使用人から説明を聞けば、この屋敷はとある辺境領の領主の住まいで、前領主が亡くなったため、若きエルフリードが急遽跡を継いだらしい。
しかも領地には莫大な借金があると言うじゃないか。
聞けば聞くほど破滅フラグ立ちまくりの状態だ。
「マジかよ! こんな最果ての領地を継いだ上に借金まで抱えてるなんて、どうすりゃいいんだ?」
俺の嘆きに対し、使用人はすまなそうに俯く。
どうやら前領主は散財しまくって領民を見捨てた挙句、借金だけ残してくれたらしい。
その時、頭の片隅で“俺は現代日本の知識を持ってるんだよな”という思いが湧く。
交通事故に遭う前の記憶と、このエルフリードの生まれ育ちが混ざり合っている。
だったら、それを最大限に活かすしかないだろう。
「よし……もう、やっちまうか。俺の知ってる方法で、この領地を立て直してやる!」
騎士が飛び交う世界だろうが、剣と魔法が支配する世界だろうが構わない。
俺は前世で培った“現代知識”をフル活用して、一から改革を始めてやる。
そう決意を固めた矢先、「失礼します」と甲高い声が響いた。
入ってきたのは、重厚な鎧をまとった大柄な男。
銀色の胸当てに帝国の紋章が刻まれ、その鋭い鷲鼻が見るからに生意気そうだ。
「エルフリード・ハヤカワか。私は帝国騎士団長のイグナート・ローエン。貴公の領地が抱える借金について、返済を求める勅令を携えてきた」
そう言うとイグナートは、おもむろに書簡を取り出し、俺の目の前へ突きつけた。
内容をざっと読むと、返済期限はかなり近い。
ぶっちゃけ今の状態で返せる額じゃない。
「ちょっと待った! そんな大金、ポンと出せるわけないだろ。猶予はないのかよ!」
俺は思わず声を荒げる。だがイグナートは笑みすら浮かべず、「それが帝国の方針だ」と冷たく告げる。
「期限までに返せなければ、領地を差し押さえる。お前の身分だって保障できんぞ」
なんだと? つまり、俺の領地を没収するってか?
そんな無茶苦茶なやり方で弱小領地を取り込みたいんだろうが、こっちだってそう簡単には屈しない。
「分かったよ。期限までに返せばいいんだな? やってやるよ、見とけって!」
頭に血が上った俺は、ついそんな啖呵を切ってしまう。
イグナートは鼻で笑い、「面白い。ならば期待しておこう」と言い残して堂々と出ていった。
バタンと扉が閉まった途端、屋敷の使用人や周囲の家臣たちが一斉に深いため息をつく。
それもそうだろうな。さっきの騎士団長、いかにも高慢な貴族気質で手強そうだし。
でも俺は“なんとかなる!”って信じている。
借金の山だろうが、ここで培った知識チートを使えば打破できるはずだ。
試しに領内を少し歩いてみると、やっぱり村の様子は荒れ放題。
特に畑がカラカラで、作物がまともに育っていない。
村人たちの顔にも疲労感が漂い、未来に希望が持てないようだ。
「よし、まずは水だな。水源確保と畑の整備から始めよう。そうすれば食糧も増えるし、みんなの生活も安定するはず!」
俺は思わず声を張り上げ、近くにいた村長らしき初老の男性に方針を告げる。
彼は驚いた様子で口を開いた。
「エルフリード様、本当にそんなことができるのか? 水源など、とても遠くにしか……」
「やってみなくちゃ分からねえ! 土地の地形を確認して、水の通り道をどう確保するか考えるんだ。俺にアイデアがあるから、みんなで協力してくれ!」
いつもなら絶対に無理だと思われることかもしれない。
でも、この世界には魔法や独自の素材だってある。
前世の土木工学の基礎を応用すれば、きっとやれないことはない。
村長は不安げにうなずきつつも、「分かりました。エルフリード様を信じましょう」と言ってくれた。
いいぞ、その調子だ。とにかく俺は“自分の望むスローライフ”を掴むためにも、この領地を豊かにするんだ。
どんな障害があろうが、俺の知識チートでぶち破ってやる!
こうして俺は、突然転生した異世界の辺境領地で、新米領主としての一歩を踏み出した。
前世の記憶と現世のエルフリード、二つの人生を抱えながらも、やる気だけは十分。
借金取りの圧力なんか蹴飛ばしてやるんだ――そう心に誓ったのだった。
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