【超越魔法の研究者】落ちこぼれ錬金術師は無自覚に最強を創る ~“分解と再構築”のチートを使って、破滅フラグをすべて溶解します~

昼から山猫

第1話

 放課後の化学準備室で、一人黙々と器具の片付けをしていた。

 とはいえ、俺は完全に雑用係だ。周囲から浮いた存在だからこそ「どうせ暇だろ?」と任されるわけで、こりゃ自業自得かもしれない。

 だけど、こういう地味な時間が意外と嫌いじゃない。試験管を拭いていると落ち着くっていうか、なんとなく頭がリセットされる感じがするんだよな。


 そんなことを考えながら棚を整理していると、隅っこのほうに古びた書物を発見した。

 表紙はボロボロで、文字も薄れていて読めない。まるで時代劇に出てくる巻物みたいなオーラを放っていた。


「おお、これは……? 学校の備品にこんなのあったっけ?」


 誰にともなく口にして、本をそっと手に取る。と、その瞬間。


 眩しい光が俺の周囲を包み、目の前が真っ白になる。まるで雷に打たれたようなショックが走って、足元がぐらついた。


「な、なんだっ……」


 思わず声を上げる間もなく、視界が完全に光に塗りつぶされる。


 ……次に気がついたとき、そこは見知らぬ空間だった。白衣を着た研究員らしき男たちがワサワサと俺を取り囲み、奇妙な道具を持って俺を覗き込んでいる。


「こいつ……やっぱり失敗作か? まさか何も考えずに本を触って呼び出されたのか」

「前例のない結果だな。もっと優秀な錬金術師を召喚する予定だったんだが……」


 さんざんな言われようだ。しかも、ここがどこなのか、そして何がどうなっているのか、頭が追いつかない。


「えっと……すみません、ここはどこなんすか?」


 俺が恐る恐る尋ねると、研究員の一人が呆れたようにため息をつく。


「この研究所だよ。あんたを錬金術師として召喚したらしいんだが、どうやら儀式は大失敗ってわけさ」


 召喚ってなんだよ。どういうSFだよ……いや、ファンタジーか? 混乱する俺を見て、さらに別の研究員が吐き捨てるように言う。


「まあ、口答えできるだけの知能はありそうだが、この結果じゃあ価値はない。とっとと登録だけ済ませて、余りものとして扱うしかないな」


 余りもの? しかも、ここが研究所? どうやら完全に俺は予期せぬ形で異世界へブッ飛んできてしまったようだ。


 手続きされるがままに、俺は錬金術師としての登録証を手渡された。革製の小さなプレートで、名前の欄には初めから俺の顔写真っぽい魔力映像が表示されている。


「訳わかんねぇけど……どうするか」


 と、そのとき慌ただしく扉が開き、一人の女の子が飛び込んできた。茶色のロングヘアをサイドで三つ編みにまとめていて、まさに日本の女子高生然とした可愛らしさがある。


「あなたも……日本から来たの?」


 お互い目が合った瞬間、二人して「うわっ、本当に同じ制服!」と驚いて声を合わせる。


「俺、高校三年の……」

「わ、私も高校生なの。桜庭レイナっていうの。さっきここの人たちに『錬金術師』として登録されたばっかりで……」


 どうやらこの子も同じような状況でここに飛ばされ、訳も分からぬまま錬金術師登録をさせられたらしい。


「まさかこんな形で日本人と遭遇するとは。いやマジでびっくりだ」


 俺たちがなんとか落ち着こうとしていると、研究員たちがこちらに冷ややかな視線を投げる。


「同郷だろうと関係ない。失敗作は失敗作。研究所内で騒ぐなら出て行ってもらうぞ」


「もういいよ。とりあえず外に出よう」


 レイナがそう囁いてくれたので、俺も同意して研究所を後にすることにした。

 なんか脳が追いつかないけど、とにかく外に出て環境を把握しないとな。


 玄関ホールを通りかかると、壁に大きな張り紙がしてあって「転移者名簿」なるものが書かれていた。シオンとかカルミラとか、それらしき名前がいくつか載っている。


「これ、もしかして……」

「うん。私たち以外にも日本から来た人がいるってことだね」


 レイナは不安そうに眉をひそめる。しかも、二人の名前の横には“行方不明”の文字が……。


「シオンとカルミラ……どこか別の場所に飛ばされちまったのかもな」


 よくわからないが、同じ“召喚失敗組”として仲間みたいなもんだ。まずはこの二人を見つけたい。そのためにも、研究所の周辺で情報を集めるしかない。


「よし、行こうぜ。街に出りゃ、なんとかなるっしょ!」


「うん、そうだね。私もなんとかしたいし……」


 こうして俺たちは、とりあえず研究所を抜け出す。扉を出た先には、石畳の道が広がり、ファンタジーっぽい街並みがうっすらと見えていた。


「これが……異世界、ってやつか」


 心のどこかでワクワクが湧き上がる。失敗作呼ばわりされたままで終わるのは癪だし、チートかどうかはさておき、錬金術師の力とやらを見せてやろうじゃん。


 そんな意気込みを胸に、俺はレイナと一緒に最初の一歩を踏み出したんだ。

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