第5話:野宿

 おしくらまんじゅうという遊びを知っているだろうか?


 簡単に言うと、複数人が円状に集まりそのまま後ろに下がりながら、お尻や肩で押し合う遊びだ。

 身体が密着すると温かいので、特に寒い冬場にやることが多い。

 僕も幼稚園児や小学生の頃は友人とよくやったものだ。


 そして、一緒に遊びに参加した若い女の先生の、お尻に触れる度にドキドキしたものだ。

 ひょっとすると、僕のお尻好きの原点はここにあるかもしれない。


 さて、何故僕が性癖の原点である、おしくらまんじゅうの話をし始めたかと言うとだ。


「みんな! 囲まれたから、背中を合わせて一ヵ所に集まって!」

「ファイアウルフねぇ……一匹一匹は弱いが群れで囲まれてると厄介だねぇ。パイラ、フリット。相手に背中を見せるんじゃないよ。あいつらは、背中から襲ってくるんだ」

「はーい。じゃあ、みんなでおしくらまんじゅうね」

「……ありがとうございます、アイリスさん」


 現在、ヒルダさん、アイリスさん、パイラさん、僕でおしくらまんじゅう状態なのである。

 いや、正確には背中合わせにして、ファイアウルフの群れに背中を向けないようにしているだけだが。


 しかし、おしくらまんじゅうだろうがそうだろうが関係ない。

 尻が、お尻が、デカケツが、僕の顔の両隣に、後頭部のすぐそばにあるのだ。


            (パイラ)

             尻

 図にすると (ヒルダ)尻  尻(アイリス) といった形になる。

             僕 


 そして、何より背の低い僕から見ればこうも近寄れば、尻以外が目に入らない。

 なんなら、母性溢れるお尻の仄かな温かみすら感じられる。

 これがマイナスイオンというやつだろうか?

 今すぐにでも抱き着いて、甘えたいが当然それは出来ない。


「いい? ファイアウルフは群れで獲物を囲むの。それから、ヒットアンドアウェイを繰り返して、徐々に獲物の体力を奪っていって仕留める魔物よ」

「おまけに、全身の炎の熱で相手を炙ってくやつだ。近づかれたら、酸素も少なくなるしな」


 僕達はファイアウルフに囲まれているのだ。

 そして、ヒルダさんとアイリスさんの説明の通り、ファイアウルフは厄介な魔物だ。

 一匹、一匹は弱いが群れになると、凶悪な性能を発揮する。

 かと言って、こちらから近づいて倒そうとすると円を維持したまま、下がっていく。


「あらあら、どうしましょう。このままじゃ、食べられちゃうわ」


 桃太郎が入ってそうな桃尻を揺らしながら、パイラさんが困ったわぁと呟く。

 僕の愚息も、桃太郎の父親になりたいと息まいて困ったことになっている。


「心配すんなって、この手の奴らは群れである以上必ずリーダーがいる。アタシらにとってのヒルダみたいにな。だから、そいつを狙う」


 そう言って、ヒルダさんが斧を大きく振り上げる。

 それと同時に、お尻の筋肉がキュッと引き締まって、ビキニアーマーはTバック状になる。

 思わず、その素晴らしい尻肉に礼拝したくなるが、次の瞬間に訪れる衝撃を考えれば、黙って身をかがめるしかない。


Gigantギガント Schockショック!!」


 大地に斧が振り下ろされ、振動が走り抜ける。

 地面が揺れて隆起する。3人のデカケツがドタプンと揺れて僕が勃起する。


「そんでもって陣形が乱れた、所を狙う! ヒルダ!」

「ええ、分かってるわ」


 突如として地面が割れたため、面を喰らって陣形を見出すファイアウルフ達。

 ヒルダさんはそこを逃がさず、群れの中で最も大きい一匹に一瞬で迫る。

 慣性の法則で、乳、尻、ふとももが大きく揺れる。

 そして。


「悪いわね」


 ヒルダさんは、群れのリーダーの首を一太刀で刎ね落とす。

 当然、群れ全体に大きな動揺が走る。

 ヒルダさんのズボンの下で、ギュッと捩じられた尻肉を凝視しながらも、僕はそれを逃さない。


「母なる水よ、荒れ狂う飛沫となりて、穢れを流しされ―――ギガ・ワッシャー!」


 ウォーターレーザーを発射して、近くにいるファイアウルフを撃ち抜く。

 すると、リーダーを失い仲間もやられたファイアウルフ達は、散り散りになって逃げだしていく。


「あらあら、逃げられたわねぇ」

「構わないわよ。変に深追いして、追い詰めると死ぬ気で反撃してくるから」


 パイラさんの言葉に、戦闘はこれで終わりと言いながら、ドロップアイテムを拾うヒルダさん。

 屈むことで、白いズボンに包まれた尻がより強調されて、僕の股間に苛立ちが積もる。


「これは……油? ファイアウルフってこんなものを落してたかしら?」

「見たことねぇな。料理にでも使えんのか?」


 そして、拾われたものは何かの油。

 狼なので、てっきり毛皮か牙が落ちると思っていたので、これには僕も驚く。

 狼の油って何だろうか。


「あー、きっとそれはファイアオイルよぉ。とっても珍しいアイテムよ」

「ファイヤオイル…ですか?」


 ポンと手を叩いて胸を揺らしながら、パイラさんが答えを言う。


「名前からして、炎がよく燃えるんですか?」

「その通りなんだけど、これは少し特殊なのよぉ、フリットちゃん。体にそのオイルを塗って火をつけると、オイルは燃えるんだけど、体は燃えずに熱くなったりもしないの。ほら、さっきの狼ちゃん達も燃えてたけど、自分達は平気だったでしょ? それにファイアオイルを元に魔法薬として調合すれば、火山の中でも動ける薬が作れるわよぉ」


 なるほど、ゲームでありがちな炎系のステージに行くためのアイテムという訳か。

 というか、パイラさん詳しいな。


 僕はオイルと言えば、日焼け用オイルしか思いつかなかった。

 水着で出来た、日焼けした部分とそうでない部分の白と黒のコントラスト……いいよね。

 特に、その部分が人体で最も日に当たらない尻であれば、なおいい。


「詳しいのね、もしかしてパイラって薬も作れるの?」

「一通りは作れますよぉ」

「心強いわね。これからすぐにお世話になりそうだわ」


 どうやら、パイラさんは魔法薬なども作れるらしい。

 僕も一度試してみたことがあるが、普通に医者レベルの知識がいるので断念した。

 しかし、医者と言うのならナース服を着たりしないのだろうか?

 スカートでもパンツスタイルでも、どちらでもお尻がパツパツになってとても似合うと思う。


 機会があれば、是非とも着て欲しいものだ。

 そして、可能ならば僕の股間の腫れがなくなるまで、優しく治療して欲しい。


「そう言えば、今目指している南の四天王のレッドフェニックスは炎を使う魔物として、有名でしたね」

「ええ、よく覚えているわね、フリット。偉いわ」


 そう言って、僕の頭を撫でてくれるヒルダさん。

 当然、目の前に立つことになるので鼠径部の形がクッキリと目に映る。

 僕の愚息も頭をえらいえらいして欲しいと、ローブの下でしきりにアピールしている。


「四天王ですかぁ……」

「魔王城には結界が張って合って、それを破るには東西南北の四天王を殺さないといけないの」

「ま、そんな緊張することじゃない。こっちには、がいるからな」

「アイリス……油断大敵よ」


 この世界、ゲームよろしく魔王城に向かうには、まずは四天王を倒さないといけない。

 それにしても、魔王は外に出たいときはどうしているんだろうか?


 僕の感覚で言うと、魔王城はちょっとコンビニに行くのに、電子ロックと指紋認証、通常の鍵に加えて南京錠が必要な家というとても面倒な物件だ。

 絶対に自分では住みたくない。


 もし、魔王が頻繁に出かけたりするのなら内側から鍵を開けた隙に、忍び込めるのに。

 どうやら、そういうことが出来るわけでもないらしい。

 案外、自分からは出てこれなかったりして。


「さて、そろそろ暗くなってきたし、野宿の準備をしましょうか」






 唐突だが、僕は野宿というものが嫌いである。

 いや、野宿なんて大概の人間が嫌いだと言われれば、そうなのだが。


 と言っても、僕の場合は寒いとか。地面が硬いや、寝ずの番が辛い。

 と言ったことでもない。

 僕が野宿が嫌いな理由は1つ。


 そう――



 ―――興奮する愚息のイライラを沈められないことだ。



「ううん……」


 交代制での火の見張りをしながら、周りを見る。

 まだ、野宿になれていないのか、毛布を被って少し寝辛そうに寝返りを打つパイラさん。


「すー……すー……」


 毛布で体をくるみ、体を木に立てかけていつでも動けるような状態で眠るヒルダさん。

 一度、近づいたことがあるのだが、すぐに起きたので恐らくは浅い眠りなのだろう。


「グー…ゴー…」


 毛布を蹴飛ばして、豪快な寝相でいびきをかくアイリスさん。

 そのくせ、敵が接近すると飛び起きるので、戦士というものの凄さを感じる。


(クソ……対して露出もしてないのに、目の前にデカ尻熟女が寝ているという事実だけで、股間が熱くなる!)


 故に、彼女達を起こさずにこっそりと、愚息を慰めることは難しい。

 これだけの御馳走が目の前にあるというのに、俺は何もできない。

 なんなら、目をつぶって彼女達の寝息を聞くだけでも、十分なおかずになる。

 だというのに、野宿では僕の愚息の苛立ちを収めることが出来ないのだ。

 ああ、なんという悲劇。このまま、夢の中で無為に白き命達を散らすしかないと言うのか。


(トイレに行くと離れようにも、その場合は必ず他の人に伝えるルールだから、じっくりと時間をかけて慰めることも出来ない)


 トイレに行くために離れる際は、必ず伝えなければならない。

 1人で居るときに魔物に襲われる可能性があるからだ。

 そして、当然帰りが遅ければ探しに来る。

 プライバシー? 命の危機より優先されるものか、それ? とは、アイリスさんの言葉だ。


(町を出てから3日。旅に出る前に、ムチ無知シスターに大きく腫れ上がってしまった体の一部を優しく治療してもらう妄想で、5回は白く濃い膿を出したのに……自分の若さが今ばかりは恨めしい)


 一応、3人のデカ尻に愚息をいい子いい子してもらう妄想で、極限まで股間にバフをかけた状態を維持して、トイレに向かうと同時に白い水魔法を放つという手もある。そうして、下半身に巣くう煩悩を全て捨て去って、賢者に転職することが出来ればどれだけ楽だろうか。


 だが、僕の矜持としてそれはしたくない。


(これだけ、素晴らしいデカ尻が目の前にあるのに、あっさりと終わっていいのか? それは余りにも尻への敬意を欠く行為じゃないのか?)


 僕は愚息には、コソコソと逃げ回る夜盗のようにはなって欲しくない。

 あくまでも、堂々と正面から愚息には勝利を掴み取って欲しいのだ。

 決して、将来、早漏れになって『サラマンダーより速い』と言われたくないからではない。

 己にとっての真の勝利求めているだけだ。


(仕方ない……こういう時はあれをやろう)


 自分に嘘をつくことは出来ても、デカケツへの愛には嘘はつけない。

 故に、僕は妥協を許さずに我慢する道を選ぶ。


(3人を起こさないように静かに……)


 極力、3人のわがままボディを見ないように瞳を閉じる。

 そして、手の平に魔力を集中して、それを少しずつ放出していく。

 僕がこの世界に来て、しばらくして気づいたこと。

 それは、MPつまりは魔力を空っぽになるまで放出し続けると――



(魔力の放出を行う)



 ―――疲れ果てて、勃起が治まるということだ。





(また、やってんねぇ)


 アイリスは微かな魔力の流れを感じ取って、薄く目を開ける。

 すると、そこには予想通りに目を閉じて、何かの衝動を耐えるように歯を食いしばって魔力を放出するフリットが居た。


(野宿の時はいっつもこれだ。いや、宿で一緒に寝る時もいつも、抜け出して


 アイリスは、いや、ヒルダも知っている。

 フリットは夜になると、ほぼ毎日をやっていると。


(常に鍛え続けてないと不安なのかねぇ……)


 フリットは森の中で拾った。

 いくら、彼が才能があったとはいえ子供が1人で居たのだ。

 恐らくは、親は魔物に殺されるか何かされていなくなったのだろう。

 そうでなければ、子供一人で森の中に居ることはない。


 きっと怖かっただろう(異世界転生でテンション上がってました)。

 きっと心細かっただろう(実はいつでも町に行けました)。

 きっと、母親の温もりに飢えていただろう(ムラムラから)。


 そして、その恐怖や不安を払拭するために鍛える。


(若い頃のアタシを見てるみたいだよ)


 アイリスも過去に、夜中に飛び起きて斧を振ったことが何度もある。

 今は、年を取ってメンタルをコントロール出来ているが、忘れたわけではない。

 ヒルダと出会うまでは、1人孤独に生きていた。

 だからこそ、フリットを放っておけないのだ。


(空っぽになるまで魔力を使って、ぶっ倒れるように寝る。そりゃ、ガキの頃からそんな生活してたら、あれだけのMP量になるわな)


 一般的にHPやMPはレベルアップで上がると思われているが、それだけではない。

 筋力と同じだ。筋肉は別に魔物を倒さなくても、畑仕事をするだけでもつく。

 フリットがやっていることは、その魔力版だ。


 筋繊維が切れるまで鍛えて、超回復で筋肉量を上げる。

 それを魔力でやっているだけである(全くの無自覚)。

 故に、フリットのMPは未だに成長が止まらない。


 それは本来ならば喜ばしいことなのだろう。

 しかし、やり方がよろしくない。

 己の中の生命を削るように、毎晩毎晩。


 内なる衝動と戦うかのように。

 何かに縋るように、祈るように。


 フリットは一心不乱に魔力を放出し続ける。


(何か言ってやりたいけど、言葉じゃ届かないのはアタシが一番良く分かってる。だから、アタシが出来ることは見守ってやること。そんでもって、愛情を注いでやることか)


 止めてやりたい。

 ヒルダともそう話し合ったが、自分で乗り越えるしかないと結論は出た。

 だから、彼女達はいつも気づかないフリをして見守る。


(今度、久しぶりに全員同じベッドで寝てみるか。アタシ達がついてるって、抱きしめてやろう。パイラもフリットの不安を消すためって言ったら、付き合ってくれんだろ)


 故に、すれ違う。

 とうのフリットは孤独や不安などまるで感じていないことに。

 そして、何よりも――



(うぉおおお! 沈まれ! 沈まれ! 僕のイライラ棒ッ!!)



 4人で同じベッドで寝るなど、逆効果にしかならないことに。


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