神々との交渉法
「それで、午後はどうする?」
カップ麺を啜りながら、恭介が訊ねる。
「罠設置の続きをやってもいいけど」
「そちらも、別に急ぐってわけでもないしね」
遥は頷いた。
「午前で半周くらいはいったと思うけど、いってもいっても森の中で、ぐるっと一周して様子が変わるとも思えないし」
「だったら、住居の方を先にやるのも手だなあ。
昨日泊まった建物、数日ならともかく、長く住めるような状態ではないし」
「壊れかかってたのに手を入れて、どうにか中で寝泊まり出来ている状態だしね」
その傍らでは、彼方が通信で生徒会長と連絡を取っている。
念のため、先ほどの賢鳥の件を報告しているのだ。
「あ、恭介。
なんか、会長さんがもっと詳しいこと訊きたいって」
「了解」
そう受けて、恭介は空中に画面を呼び出し、小名木川会長との通話機能をオンにする。
「どうも会長、馬酔木です」
恭介はまず挨拶した。
「それで、どういったことをお訊きになりたいのですか?」
『全部、片っ端から』
小名木川は即答する。
『といいたいところだけど、まあ、表面的な事態の推移については、宙野の方から聞いているわけでな。
それで、いくつか疑問に思った点があるので、それについて教えてほしい』
「了解しました。
疑問をおっしゃってください」
『ええと、なにから訊ねればいいかな。
相手が土地神であると厄介だそうだな。
なんで厄介なんだ?
それと、どうしてその賢鳥が土地神ではないと判断できた?』
「まず、土地神ではないと判断した根拠に説明しますね。
賢鳥様自身が、そういってました。
空の下すべてが自分の住まいである、と。
裏を返せば、特定の土地に縛られている存在ではない、ということです」
『そうなるのか?』
「そうなるんです。
さらに、おれたちが居るこの森に、あまり執着しているようでもありませんでした。
で、土地神がなんで扱いが難しいのか、といいますと。
まあ、文化の問題になってくるから、ですね」
『文化、か。
そんな要素が、ここで絡んでくる?』
「相手が土地神のたぐいであれば、特定の土地で祀られ、崇められている存在になります。
ということは、いいかえれば、地元住人と間に濃い交流があるってことです。
長く触れていれば自然とその住人の文化に染まるし、そうなると、交渉するプロトコルが独特なものになっている懸念がある」
『プロトコル?
なんでそんな言葉がここで出て来るんだ?』
「手順、手続きって、いいかえてもいい。
とにかく、そうした文化に根ざすものは、場所によって大きく違って来ます。
対しておれたちは、この世界の文化についてはまるっきり無知ですから」
『神様と交渉する手順がわからない、ってことか?』
「そうです。
こちらの意図とは違って、ちょいとしたことで相手を怒らせる可能性も出て来る。
神様ってのは、特に実際に力を持つ神様ってのは、怒るし祟るし呪うんです。
ともすれば、理不尽な理由でも。
おれたちの世界では、そうした怒れる神々は神話や伝承の中にしか存在しません。
だけど、ここは異世界ですからね。
実際に存在する可能性もある」
『つまり、今回は相手が鷹揚な神様でよかった、ってことでいいのか?』
「結果的に、そうだったってことですね。
運がよかった」
恭介が頷く。
「あの賢鳥様は、おれたちの考える神様とはちょっとニュアンスが違う気もしますが。
いずれにせよ、ご機嫌を損ねないように扱っておいた方がいいです。
触らぬ神に祟りなし、っていいますか」
『だから真っ先に禁忌、してはいけないことについて確認したのか?』
「そうです」
恭介は頷く。
「ああいうオカルトチックな存在は、敬して遠ざけておくのが一番ですよ」
『この先、他のプレイヤーたちがあの手の存在と接触した場合、どうすればいいと思う?』
「まず、怒らせるのは論外ですね。
丁重に扱い、挨拶をし、なにかを貢ぐのもいいでしょう。
ですが、なんらかの取引を持ちかけられても断っておく方が無難です。
特に、相手から持ちかけられる取引は」
『それは、なんでだ?』
「会長、三つの願いって小話、知りません?
あれにも様々なバリエーションがありますが、結末は決まってバッドエンドです」
恭介は説明する。
「それで、おれたちの世界において、その手の取引をわざわざ持ちかけてくる超自然な存在は、だいたい悪魔と相場が決まっています。
超自然な存在がおれたち矮小な人間をわざわざ相手にしようとして来るときは、こちらを陥れるためだと思っておいていい」
『あー。
結論としては、遭遇したら丁重に扱う。
距離を置く。
なにかを差しあげるのはいいが、取引はしない。
こんなところでいいのか?』
「まあ、それでよろしいかと」
恭介は頷く。
「そうしておいても、相手のご機嫌を損ねる場合もありますが」
『それはまた、どうして?』
「基本、神々っていうのは、気まぐれで理不尽なものなんですよ。
深入りせず、遠ざけておくのが一番です」
小名木川会長との通話を終えた恭介は、目線をさげて、ぼやいた。
「麺、すっかり伸びちまったな」
情けない、声だった。
「そんでね、キョウちゃん」
そんな恭介の肩に手を置いて、遥がいった。
「彼方ともはなしたんだけど、午後は家づくりに入っていいかな、って」
「そうしよう」
恭介は頷く。
「やることはいっぱいあるし、順番に片していくしかない」
「穴を掘るのはぼくの土魔法でいけるから」
彼方はいった。
「建材はだいたいマーケットで買える。
あと、セメント練る水は……」
「水魔法は、今のうちに全員で取っておいた方がいいと思う」
恭介はいった。
「どこへいっても、水は必要となるからな」
「了解」
さっそくステータス画面を表示して操作しながら、遥がいった。
「あと、必要な物は?」
「だいたい、マーケットで揃うみたいだね。
具体的が手順としては……」
彼方が土魔法でかなり深い穴を開けた。
三人とも、作業着に着替えている。
「この上に、H形鋼刺して」
「了解」
軍手を填めた恭介と遥が、H形鋼のはしを持って大きく持ちあげる。
大きく、かなり重たいH形鋼だったが、軽々と持ちあがった。
普段、あまり意識することはないが、レベルアップによる身体能力の向上は著しい。
「はい、これで垂直になった」
H形鋼に水平器を当てていた彼方がいった。
「しばらくこのまままにしててね」
彼方はそのまま、あらかじめ作っていた木枠をH形鋼の周りに組み、釘を打って固定する。
「はい。
固定終了」
彼方は続ける。
「あとは、あの船の中にセメントと砂をぶちまけて水でこねて、それをこの穴に入れます」
「はいはい」
遥はセメントの袋をあけて、船の中にあけた。
「砂とセメント、同量でいいのか?」
砂の袋を船の中にあけながら、恭介が確認する。
「そのはず」
彼方は頷く。
「で、水入れて練って」
「はいはい」
鍬に似た工具で船の中を攪拌しながら、遥がいった。
「なんか、泥遊びみたいで楽しいね」
「そうか?」
恭介は首を傾げる。
「思ったよりも疲れないけど、楽しくはないかな」
「で、練ったコンクリを、この中に、っと」
彼方がスコップで生コンを掬い、H形鋼の根元にある穴に入れていく。
他の二人も、それに倣う。
「これで丸一日くらい放っておけば、コンクリが固まるはず、なんだけどね」
彼方は二人に告げる。
「ぼくたちは別にプロではないから、細かいところは手を抜いていこう。
同じ要領で、今日中に何本かH形鋼の柱を立てます」
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