第2話 突如浮かんだメッセージ
俺は一時間ほどだろうか、ボーとしていた。
突然頭の中にあるメッセージが浮かんできた。
『図書室へ行きなさい』
図書室に行かなくちゃいけない。
俺はその命令に疑うこともなく立ち上がった。
外に出て辺境伯家の家令に断りを入れ、図書室を見せてもらった。
図書室に入ると古い本の匂いがした。
かび臭いような酸っぱいような。
そこに混じる温かな革臭さと焦げたような匂い。
なんとなく漂う香水。
家令の監視のもと図書室を歩き回る。
四十人クラスの教室二つ分程度の広さだ。
決して明るくはない。
が、本を読むのに十分な程度の明るさはある。
「これか?」
俺にはどの本を読むべきか、すぐにわかった。
数冊の本が光り輝いているのだ。
本は台の上に太い鎖に繋がれてあった。
表紙には見たことのない文字が書かれてある。
俺はその本を手にとった。
「それらは当家に古くから伝わる古代書です。古代語で書かれてあると言われておりまして、解読不能なのですが」
そばにいる家令が俺に説明する。
本はかなり大きい。
三十cm✕五十cmほどあるだろうか。
B三用紙サイズ程度の大きさはある。
勿論、ずっしりと重い。
俺は台に本を置いたまま、表紙を凝視した。
突然、本がまばゆく発光し、周囲に霞がかかる。
すると、本の向こう側に妙齢の女性が立ち上った。
「え?」
女性は物凄い美人だった。
いや、オーラが眩しくて直視できない。
ただ、美しいということが伝わってくる。
『蒲生兼人よ。私は女神アプロティーナです。この世界の管理者をしています。落ち着いて私の言葉に耳を傾けなさい』
おお、なんという涼し気な声。
心が洗われるようだ。
自分を女神だという。
『蒲生兼人。あなたは前世で生を失い、魂がこの世界に転生しました』
は? 生を失って転生?
『そして、この世界のレナルドという少年の魂に上書きされたのです』
何を言っているんだ?
『ステータスオープンと口に出してみなさい』
え? ステータスオープン? おおおっ!
【ステータス】
氏 名 レナルド・フェーブル(旧名蒲生兼人)
種 族 異世界人
性 別 男
年 齢 十二歳
スキル 多言語
これは。
異世界転生すると表示されるステータス。
まるでゲームみたいだ。
俺は滅多に小説を読んだりゲームをしない。
その俺でもその程度は知ってる。
それが俺の前に展開した。
まずは氏名。
レナルド・フェーブル(旧名蒲生兼人)。
俺はレナルドであり蒲生兼人でもあるのか?
『魂は蒲生兼人のものです。ただ、レナルドの記憶や身体はそのまま受け継がれます』
だから、俺には二人分の記憶があるのか?
ま、とにかくだ。
なぜ、俺なんだ。
『私は転生者を必要としていました』
転生者を?
『ええ。転生時に次元渡りをすると、それに耐える強靭な精神力が魂に付加されます』
強靭な精神力?
『その強靭な精神力により頑強な力を獲得できるようになります』
頑強な力?
『今、貴方は
そうなのか? 全く強さが感じられないが。
『現状ではまだ人並みの力しかありません。これからどんどんと力が授与されていきます』
それは嬉しいが、なぜ俺を選んだ?
『貴方は前世で生を失ったあと、次元の狭間で漂っていました』
そういや、さっきも言ってたな。
俺は死んだということか?
『そうです。通常であれば生を失った魂は次元の狭間でしばらく滞在して新たな生を受け取る準備をします』
『そうです。しかし、貴方は輪廻の
迷子?
『私はさまよう魂をすくい上げ、この世界に転生させました。逆にいうと、通常であれば私の力をもってしても魂を
ふむ。誘拐のような形で俺を無理やり転生させたわけじゃないのか。むしろ、俺を救ってくれたわけだな。感謝すべきなんだな。そうして俺を転生させて何をさせたい?
『この世界は私が管理する世界。しかし、歪みが生じ始めています。あなたにその歪みを直してもらいたいのです』
世界の歪みを治すだと?
俺は一個の個人に過ぎないぞ。
世界の歪みを治すなんて話がでかすぎる。
『確かにあなたは一個の個人です。しかし、ご自分で考えるよりもずっと大きな潜在力を持っております。それが転生者というものなのです。そして、転生先も誰でもいいというわけではありません。所々の条件をなんとかクリアしたのがレナルドなのです』
なんとかクリア? どういうことだ?
『百%適合する、という存在は見つかりません。いろいろと
レナルドの何をあきらめたのだ?
『レナルドというかフェーブル家は性格的に問題があります。現在のフェーブル家の人格的な質はこの世界では最低クラスでありましょう。ですから、この世界の人々からは大変憎まれております。あと、容姿も現状ではよくありません』
まて。
『逆にいえば、レナルドは性格と容姿以外は誠に申し分がないのです。レナルド以外では転生を失敗する可能性が高かったのです』
そんな。
『この先、容姿と性格は改善の余地が十分にあります。貴方が正しい目的と方法を駆使すれば、ですが』
だとしても。
『ただ、貴方は莫大な潜在力を手に入れましたが、それでも一個人の力に過ぎません。力を見せれば逆効果ということもありましょう』
逆効果になる?
『強すぎる一個人。しかも、
あ。確かに。下手しなくても恐怖の対象。
『レナルドの父親以上の存在になるでしょう。脅かすつもりはありませんが、魔王認定されるおそれもあるのです』
魔王だと?
『ええ。冗談ではありません』
魔王ってことは、俺は勇者に討伐されるとか。
『可能性がある、というだけです。まあ、強い可能性ですが』
強い、って。
まさか勇者候補のディオンに俺はやられのか?
今日みたいに。
『いいですか、ポイントはその強すぎる力でもって周囲を改善していくのです。そのためには仲間を、信頼できる仲間をどんどん増やしていきましょう』
微妙に話をかわされたな。
仲間か。
正直、不得意なんだよなあ。
というか、俺、人間不信ぽいんだよなあ。
『貴方ならできます。力を周りに分け与えるのです。そして、ゆくゆくは私を主教とする女神教会を救ってほしいのです』
女神教会?
『女神教会は本来この世界の主たる宗教でしたが、真実教会に取り込まれようとしています。それを阻止することがこの世界の歪みを正す第一歩なのです』
真実教会か。
レナルドの記憶にもしっかり残っている。
胡散臭い名前だ。
しかし、王国で教会といえば真実教会をさす。
この世界とか教会とかの歪みを治せ、って。
ホント、無理なんだけど。話がでかすぎんよ。
『真実教会は王国のみならず、この世界最大の宗教団体です。国以上の力を持つと言われています』
なんだか、真実教会って悪者っぽくね?
『本来の教会の教えからは逸脱した部分が多いですね』
ていうことはさ、真実教会も歪んでるってことだよね? 下手すると真実教会と対立しなくちゃいけないってこと? 宗教なんておっかなすぎる。自分の教会なんでしょ? あんたがやればいいじゃないか。この世界の管理者だって言ってたよな?
『彼らの信仰する神は天界にはおりません』
え?
『偽物の神なのです』
まじか。
そんなの放っておいていいのか。
『残念ながら、私は直接この世界にタッチできないのです。そこで、転生者というわけです』
あー、断ったら?
『レナルドしか転生先の候補はありません。ですから、次元の狭間に戻ることになります。未来永劫、虚無空間で孤独にさまようことになります』
え、なんでだよ。
俺、前世でなにか悪いことしたのかよ。
『断ることはいつでもできます。とりあえず、この世界で頑張ってみてはいかがですか。お嫌でしたら、いつでも次元の狭間に戻れます』
なんだ、それ。
選択肢はないに等しいじゃねーか……
わかったよ。
『ありがとうございます。それでは、この図書室にある光り輝く本を開いてみてください。それは古代書と言われていますが、神の言葉、神聖文字で書かれており、自動的にあなたに本の内容が書き加えられていきます』
本は五冊ある。
当初は表紙の文字が読めなかった。
今は読める。
「魔法概論」「魔導具技術」「薬師技術」
「農業技術」「料理技術」。
そういえば、スキルで『多言語』ってあったな。
その御蔭なのだろうか。
『多言語スキルのおかげではありません。これは天界言語。私を介して貴方に情報を開示しています』
なるほど。
よくわからん。
『現状では初級の段階のスキル・魔法を貴方に授けることができます。これをバージョンアップするには、フェーブル伯爵邸、つまり貴方の実家の地下室に天界言語を習得する巻物が隠してあります。それを読んでみてください』
伯爵邸?
レナルドの実家、つまり俺の家の地下室にあるわけだ。
でも、レナルドの記憶にもひっかかってこない。
『今は隠蔽魔法がかかっております。貴方が鍛錬を進めれば自然と見られるようになります』
ほう。
『それを含め、優秀な古代魔導具もそろっております。扉が開きましたら、一度、訪れてみてください』
とにかく、俺は一冊の本を開いてみた。
『うっ』
一瞬、気が遠くなった。
そして膨大な情報量が脳に流れ込んできた。
俺は次々と本を開いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます