悪徳領主家の嫌われ貴公子に転生した~火炙りの未来をぶち壊そうとする少年たちの成長物語
REI KATO
転生その1 十二歳
第1話 転生した
俺の名前は
ソフトウェア会社の開発者兼経営者であった。
順調に業績を伸ばしていた。
さらなる飛躍となるビッグな案件も受注した。
順風満帆な業績上昇に有頂天でいた。
だが、好事魔多しとはよく言ったものだ。
突然の闇が襲いかかった。
共同経営者に裏切られてしまったのだ。
親友と思っていた男である。
その彼に会社を奪われてしまったのだ。
婚約者も奴に寝取られるというおまけつきで。
婚約者に別れを告げられた夜、俺は深酒をし酔いつぶれてしまった。
そこまではいい。
いや、いいわけではない。
絶望やら怒りやら頭がパニック状態なんだが、問題はその先だ。
気がつくと、俺は
何を言っているのかわからないが、それどころじゃない。
手足に食い込む縄。
俺を囲む大群衆。
徐々に立ち上る熱と煙。
「な、なんだ、これは!」
白日夢なのか?
それとも、俺は気が狂ったのか?
瞬時に頭の中を誰かの半生が駆け巡った。
その男の名前はフェーブル伯爵家長男レナルド。
「誰だ? いや、そんなことはどうでもいい! この状況はどういうことだ!?」
熱と煙は限界点を越え始めていた。
「ウガー!」
俺は耐え難い業火に絶叫した。
そして、俺は煙にまかれ意識が遠のいていった。
◇
目が覚めたと思ったら目の前には俺を心配そうに見つめる二人の少年がいた。
「は?」
俺は汗びっしょりだった。
手が小刻みに震えている。
手足や体に食い込んだ縄の感触。
足元から徐々に立ち上る煙と熱気。
足から徐々に焼けただれていく。
熱さに気が狂いそうになりながら、喚くばかり。
俺はその感覚に支配されていた。
「あ、レナルド坊ちゃま! 大丈夫ですか?」
「坊っちゃん、問題ないか?」
俺は混乱した。
こいつらは何を言ってるんだ?
レナルド坊ちゃま?
あ、火炙りのときに頭を駆け巡った誰かの半生。
名前はフェーブル伯爵家長男レナルド。
そうだ。
俺はレナルドだ。
では、俺を心配そうに覗き込む二人の少年は?
うむ。俺は彼らのことをよく知っている。
口調の丁寧な小柄な少年はスキニー。
茶色がかった黒目、黒髪の持ち主だ。
偉そうな口調の大柄な少年はジャイニー。
アッシュの髪と目を持っている。
二人共レナルドと同年齢。
レナルドの取り巻き、悪く言えば腰巾着。
「レナルド、もうボクにつっかかってくるんじゃないぞ!」
そう叫ぶ三人めの少年が俺を指差し叫んでいる。
随分と整った顔をしている。
燃えるような赤色をした髪と目が目立つ。
レナルドより一つ上の年齢だ。
そして、その横には可憐な美少女が。
グリーンエメラルドの長髪、翡翠色の目の持ち主。
彼女はレナルドの婚約者だ。
名前はエレーヌ。
彼女も年齢はレナルドの一つ上。
ああ、そうだ。
レナルドはこの少年ディオンに殴りかかったんだ。
実はエレーヌが婚約破棄を主張。
ディオンを新たな婚約相手としたのだ。
とんでもない話だろ?
仮にも貴族家同士が正式に婚約してる。
それを僅か十二・三歳の子供が破棄する。
そして新たに婚約を主張する。
ところが、周りはその話を祝福状態なんだ。
確かに、単なる政略的な婚約だった。
婚約者と言っても親が決めたことだ。
顔を合わせるのも年に数回あるかどうか。
一方、レナルドはディオンと相当相性が悪い。
二人は顔を合わせれば喧嘩ばかりしていた。
まあ、レナルドが一方的にアヤをつけたんだが。
ディオンは勇者候補らしい。
この会合で初めて顔を合わせたのは二年前。
それ以来、勇者風を吹かせるディオンが気に食わなかったのだ。
そして、レナルドは決闘を申し込んだ。
女性をかけて決闘をする。
この野蛮な風習は王国では美談とされる。
騎士道の美しい行いとして、王国中の女性を熱狂させる。
結果、レナルドはいとも簡単にのされた。
命を取られてもおかしくなかった。
「そこまで! 勝者、ディオン!」
審判員の判定が下る。
決闘とはいえ、極力命のやりとりは避ける。
それがこの世界の決闘。
わきあがる歓声。
とにかく、落ち着こう。
レナルドは負けた。
俺は立ち上がり、謝罪した。
経緯はどうであれ、負けたんだからな。
「負けを認める。すまなかった」
「え?」
ディオンは驚いたようだった。
「「「え?」」」
ジャイニーとスキニー、エレーヌも同様だった。
「レナルド、頭でも打ったのか?」
ディオンは困惑した表情でそう尋ねる。
「坊ちゃま、しばらく動かないほうがよろしいのでは?」
「そうだぜ、坊っちゃん。安静にしてなよ」
「すまんが、少しの間、黙っててくれないか」
「ああ、すみません!」「頭でも痛いのか?」
スキニーとジャイニーは俺を心配そうに気遣う。
が、俺はそれどころじゃなかった。
俺は構わず、そのままその場を離れた。
俺は歩きながら考えた。
俺は誰なんだ。
確かに俺はレナルドだ。
だが、日本人の蒲生兼人の記憶が確かにある。
記憶どころではない。
俺は間違いなく蒲生兼人だ。
さらにだ。
なんなんだ、この処刑のおぞましい記憶は。
夢だとするにはあまりにも生々しすぎる。
「(多分、殴られて頭が混乱しているんだ。ちょっと頭を冷やそう)」
俺は自分の部屋に戻った。
厳密には自分の部屋ではない。
ここはカールマン王国フィルマン辺境伯邸の客室だ。
本日は辺境伯派の貴族の子弟が一同に会している。
毎年一回、十歳から十三歳までが対象だ。
レナルドの記憶によれば、俺が参加するのはこれで三回め。
つまり、俺はいま十二歳だ。
そして、そのたびにディオンと
◇
俺は一時間ほどだろうか、ボーとしていた。
突然頭の中にあるメッセージが浮かんできた。
『図書室へ行きなさい』
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