【短編】思考する二人
カエデ渚
序
格子窓から、外の景色が見える。ほんの狭い世界だ。大きな幹を持つ木が一本あって、その周囲には背の短い草があるだけ。時々小動物が無警戒にうろついているのが見えるが、僕にとっての唯一の娯楽は、そんな変化に乏しい窓の外の変化を見つけることだけだった。
窓の外は僕の世界に含まれない。
だって、見えるだけだから。
僕の世界はとても狭い。立ち上がって、5歩も歩けば端から端へと歩いたことになってしまう小さな世界だ。
僕じゃなければ、この世界を、部屋、と表現したのかもしれないな。
でも、物心付いた時からここに閉じ込められて、僕以外の人間の存在すら知らず、頑丈に閉ざされたドアの下部から毎日決まった時間に差し出される保存食のブロック以外は、この部屋への来訪者は居ない。
この世界の住人は僕だけだが、実はもう一人いる。
ソイツは、僕の頭の中に住んでいて、絶えず色々なことを喋り掛けてくる。
時々鬱陶しくもなるが、僕が言葉を覚えたのも、多くの知識を得られたのもソイツのおかげだ。僕の知らない事を多く知っていて、僕に多くのことを教えてくれる。
これは、そんな小さな部屋で生まれて育った人間と、そんな小さな部屋の小さな人間の小さな脳の中に存在したナニカとの。
奇妙の共同生活の話だ。
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