僕等のラグナロク
川野遥
序章 That day the world fell apart
2029.12.31 18:05 Tokyo,Japan
2029年の大みそか。
ニホンは元より世界中が残り少なくなった去り行く年を、思い思いに楽しんでいる。
そうした空気は、しかし、ある時間を境に一瞬にして変わった。
ニホン時間の午後6時。
通電している全ての液晶ディスプレイに、突如として高めのツインテールが特徴的な無表情な少女の顔が映し出された。
少女は、表情と同じくらい感情の無い声で話を始める。
『こんばんは。お楽しみのところ失礼するわね』
ほぼ全ての者が、突然の液晶の乱入者に顔をしかめた。
それぞれが思い思いに、電源を切る、あるいはページやアプリを閉じるなどしてこの不愉快な事態に対応しようとする。
しかし、それを数回ほど続けても、何をしても全く反応がない。
ディスプレイに映ったままの少女は「はぁ」と呆れたような溜息をついた。
『残念ながら、貴方達が何をしても消すことも変えることもできないわ。重要な報告があるので世界中のあらゆる端末を乗っ取らせてもらったの。
時間にして5分ほどだから我慢して頂戴』
すべての端末を乗っ取ったという、というにわかには信じがたい言葉。
しかし、周囲を見るとあらゆるテレビ、モニター、液晶ディスプレイからラジオといったものから同じ少女の声が無機質に響いている。
多くの者はそれでもしばらく手を尽くしていたが、やがて全ての手段が通用しないことを確認すると、諦めたようにモニターに視線を向ける。
『私は
報告よ。これから1時間後、世界で最初に2030年を迎えるキルバス共和国・ラエン諸島の日付が変わる瞬間、この世界は終末を迎えるわ』
どよめき、悲鳴のような反応があちこちから沸き起こる。
特に、新年行事のために不夜城となっていた都会では、参加者が不安げな顔をして商業ビルのモニターや自身の携帯電話を眺めている。
『私達の研究によるところ、この日を境に宇宙の定理が変わってしまうわ。真空崩壊のような事象が付近で起こると考えてちょうだい。
だけど、絶望する必要はないわ。私達の計算が確かなら、真空崩壊により世界が崩壊した後、ほどなく世界は再生すると見込まれているの。
世界の崩壊に対する装置……私達がラグナロクチェンジャーと呼んでいるもの……が発動するはずよ。
ただし、計算が間違っているとか、正確に作動しない場合はそのまま終焉を迎えるわ。
その場合は申し訳ない、とあらかじめ言っておくわね。
でも、私達が滅ぼすわけでもないわけで、どうあっても結果は変わらないのだし許してほしいところよ。
……報告は以上。あまり前から教えて楽しくない日々を過ごさせるのも可哀想だけど、何も知らずに世界が終わるのも気の毒でしょ? だから、発生1時間前というこの時間に伝えることにしたのよ。
これからの時間については好きにしてくれればいいと思うわ。世界が終わらないように祈ってもらってもいいし、残り1時間しかないのだから、大切に使ってもらってもいいでしょう。もちろん、世界崩壊を食い止めるべく努力してもらってもいいし、頑張るのなら応援してあげるけれど、多分無駄な労力に終わると思うわ。あまり深入りしないことをお勧めするわね。
時間をいただき、ありがとう。それでは皆さん、良いお年を』
ツインテールの少女はピッと右手で敬礼するような仕草をして、そのまま消え去った。
あとはそれまでに合わせていた映像や、携帯の画面に戻る。
しかし、戻ったとしても多くの者は落ち着いてはいられない。
そこからの1時間、多くの者が情報収集に励むが、世界中で同じことが起きており、しかもそれぞれの機器に搭載されている言語に応じた言葉で同一の内容を語っていたらしい。
一体、何が起きるのか、世界中がその一時間を不安に過ごした。
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