紗和が伝える統合失調症ならではの苦悩

星咲 紗和(ほしざき さわ)

第1話 見えない戦いの日々

統合失調症――この病気の名前を耳にして、何を思い浮かべるでしょうか?

「妄想」「幻覚」「危険な人」など、偏ったイメージが先行することも少なくありません。しかし、実際にこの病と共に生きる当事者にとって、その姿はもっと複雑で、深い苦しみを伴っています。


私が最初に統合失調症の診断を受けたとき、心のどこかでホッとした気持ちがありました。「これで、何が自分を苦しめているのかがわかる」――そう思ったのです。でも、それは同時に長く険しい道のりの始まりでもありました。


幻聴や妄想が日常の中で突然現れることがあります。例えば、誰もいないはずの場所で、誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえる。それが頭の中でぐるぐると回り続けると、現実と虚構の区別がつかなくなっていくのです。さらに怖いのは、それが「普通」になってしまう自分。気づいたときには、自分自身を疑うことさえ忘れてしまうのです。


「どうしてこんなふうになってしまったんだろう?」

そんな自問を繰り返すたび、答えのない苦しみに襲われます。誰に話せばいいのか、どう伝えればいいのか――その答えが見つからないまま、ただひとりで耐える日々が続きました。


特に辛いのは、周囲に「普通」に見えることです。外見だけでは、この病気の苦しみを理解するのは難しいでしょう。それでも、「あなたは普通だよ」「甘えているだけだ」と言われるたび、見えない戦いを無視されているような気がして、心が張り裂けそうになります。


統合失調症は、ただの「心の病気」ではありません。それは、見えない敵と毎日戦うことを余儀なくされる、生きるための戦いそのものです。この病気の苦しみを少しでも知ってもらえたら――そんな思いで、このエッセイを書き始めました。


私たちは皆、それぞれの人生を生きるための戦いを抱えています。その一つが統合失調症であることを、どうか心に留めていただけたら幸いです。次回は、この「見えない戦い」が私に何を教えてくれたのかをお話ししたいと思います。

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