空き缶文学短編集
空き缶文学
初日
一日が過ぎた。
誰かにとっちゃ特別だ。
三六五日を跨いで、一日目に戻る――いや、進んでるともいう――ブルーな気持ちを吹き飛ばす橙に燃え盛る日の丸が、灼灼と俺達の前に現われる。
甘酒をひとつ、舌に残る甘さが表情を歪めた。
土を蹴り歩き、敵意ないひと吠えが後ろから、隣にやってきた。
愛嬌ある顔で口を開け、純粋な目で見上げている。
ボーダー・コリーという犬種——名前は忘れた――ヒト以外の哺乳類は厚着しなくても平気なんだから、羨ましいもんだ。
こっちは顔以外全部防寒してるっていうのにな。
冷気が頬や鼻を痛めつけ、吐く息は真っ白、吸えば少し苦しい。
「綺麗な初日の出ですね」
背後から青年に声をかけられた。
ボーダー・コリーは尻尾を振っている。
「また来たのか、こんな朝っぱらに」
「えぇ、絶景ポイントを教えて頂いたんですから。あの、いつ頃、こちらに」
優し気な声と眼差しに懐き、隣に立つ青年の足元を走り回った。
「それは俺が決める、つまり、まだだ」
甘酒をもうひとつ、甘さで歪む。
「老衰を待つつもりですか」
「老衰だって? お前の方が先に老衰で死んじまうな」
「……また、会いに行きます。どうかお元気でいてください」
ボーダー・コリーはひと吠えした後、今度は俺の足元に伏せた。
足音が遠く、聞こえなくなった辺り、また甘酒をひとつ。
「あぁ」
空に浮かぶ灼灼とした日差しが、痛みと苦しみを溶かす……――。
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