15、遺品《アーティファクト》3

 学術都市、中央区ちゅうおうく。東西南北中央の5区画に区切くぎられた、中央部。中央区はいわば学術都市の中枢部ちゅうすうぶとなっており、都市の運営うんえいに携わる建物が集中している。

 その建物たてものの一つこそが、ニューオノゴロ銀行本店だ。ニューオノゴロ銀行はただの金融機関ではない。この学術都市の運営うんえいに密接にかかわっている。いわば、都市運営にかすことのできない主要機関の一つだ。

 そして、今僕たちはその銀行ぎんこう本店ほんてんビルに入っていく。直後、まるで僕たちが入ってくることをかっていたかのように。いや、事実分かっていたのだろう、店長らしき人物が僕たちを出迎でむかえた。オールバックのつややかな黒髪くろかみに、ぴっちり着こなしたリクルートスーツとカイゼルひげが特徴の紳士しんしだ。

 吉蔵さんが、店長と一言二言話している。その後、にっこりおだやかな笑顔で付いてくるよう言われた僕たちは店のおくへと向かうことになった。黙って僕たちは、店長の後ろを付いていく。

 ……僕の背後はいごから、黙って付いてくる一つの気配けはいを感じながら。まあ、たぶんあいつで間違いないだろう。そう、僕は当たりを付けてだまっていた。

 ・・・ ・・・ ・・・

 店長のあとを付いていき、地下へ続く階段をりていく。地下3階、此処がニューオノゴロ銀行本店地下最下層だ。店長はさらにさきへ進んでいく。その先には、鉄製の扉が僕たちを待ち構えていた。店長はその扉の横にある操作盤そうさばんにパスコードを軽快にち込んでいく。

 打ち込む速度がかなりはやい。手慣てなれているなと、少しばかり関心しつつも黙って待っている。

 続いて、小型カメラにを近づける。どうやら、網膜もうまくをスキャンしているようでかぎが開いたような音が続いて鳴った。

 しかし、次の瞬間けたたましいまでの警報けいほうりだした。その警報に、みんなが一斉におどろいた。

「どうした、これはどういうことだ⁉」

「どうやら、誰か不審者ふしんしゃまぎれ込んでいるようです。妙ですね、今まで誰も気づけないなんて……そんなことは端的たんてきに言ってありえません」

 吉蔵さんのあせった声に、比較的落ち着いた声で店長が返す。

 それにしても、不審者ふしんしゃか。居るとしたら。

 まあ、あいつだろうな。そう思い、僕は……

「なあ、居るんだろ?栞。流石にもう、て来てくれないか?」

「……………………」

 驚くみんなを他所よそに、僕は虚空こくうに話しかけ続ける。

 これで返事へんじが返ってこなかったら、僕はただの痛々いたいたしい奴だなとこっそり自虐的なことを思いながら。さらにつづける。

「ここで、誰にも気付かれずに僕たちに付いてこれる人物が居るとしたら、栞くらいしか居ないだろう?たのむから、出て来てくれ」

気付きづいていたの?私のこと……」

「まあ、流石さすがにね」

 すごくもうし訳なさそうな顔で、栞がその場に突然出現した。あきらかに物理的な現象ではない、何らかの超常ちょうじょうがそこにはあった。どうやら、それがあの時栞がどこからともなく刀を取り出した理屈りくつらしい。いや、あるいは。

 最初から、刀を所持しょじしていたのに僕が気付きづけなかっただけなのか。

 まあ、それは今どうでも良いだろう。今は、警戒けいかいしているみんなをなんとか落ち着かせるべきだ。そう思い、みんなに声をかける。

「とりあえず、今はみんな落ち着きましょう。みんなの気持ちも理解出来ます、けど今はとりあえず用事ようじを済ませるべきでは?」

「良いのかい、晴斗くん。彼女は、」

「そうだよ、私は晴斗はるくんのことを……」

 昴さんと栞の言葉を、僕は片手でせいする。やはり、こういうのは苦手にがてだ。そうは思うけど、とりあえずいまはみんなを落ち着かせるのが最重要だろう。

 店長なんて、既に携帯けいたいに手をけている。こういうとき、落ち着いて冷静に対処できる人物はかなり有能ゆうのうだろう。この店長は、その点で言えば本当にかなり有能だろうと思う。けど、今は流石にってほしい。ここで警察けいさつを呼ばれてもこまる。

「とりあえず、今はみんな落ち着いて下さい。店長も、どうか携帯けいたいをしまってくれませんか?栞がここに居ることを気付いていて黙っていたのは僕ですし」

「気付いていたのかい?晴斗くん」

 昴さんが、さらにおどろいたようだ。うん、それはまあごめんなさい。

 とりあえず、今は本当にごめんなさい。はい……

「はい、確信かくしんしたのはついさっきですけど。恐らく一緒いっしょに居るだろうなとは思っていました。だまっていてすいません」

「いえ、それは良いんですけど、」

「良いんです。どうせこの際ですし、いっそ彼女しおりにも付いていてもらったほうが僕にとっては好都合こうつごうですし……」

「晴斗くん、まさか君は……」

 どうやら、昴さんは何かに勘付かんづいたらしい。けど、僕は苦笑をかえすのみに留めておくことにした。

 そのまま、僕は店長さんのほうへと向き直る。未だに店長さんは怪訝けげんそうな表情で僕のほうを見ている。

「とりあえず、店長さん。今は黙ってさきへ行きましょう。彼女は大丈夫です。他でもない僕自身が身分みぶん保証ほしょうしますので。今はそれでおねがいできませんか?」

「そうですか、では……」

 そう言って、店長さんは操作盤そうさばんを操作する。やがて、警報けいほうは鳴りやんだ。恐らくはまだ納得してはいないだろう。けど、み込んではくれたらしい。

 他のみんなも、しぶしぶそのまま付いていく。まあ、そこは僕のことを信頼しんらいしてくれているからだろう。まあ、その信頼をこれから裏切うらぎらないよう心に留めないといけない。

 それは、重々承知している。ああ、分かっているさ。

 その後、すすんでゆくと再び鉄のとびらが待っていた。今度はさっきよりさらに厳重そうな見た目の巨大かつ重厚な鉄扉だった。いかにも、金庫きんこらしい鉄製の扉だ。

 再び、店長は鉄扉の操作盤そうさばんにパスコードを打ち込んでゆき、網膜もうまくをスキャン。その後更に黒いカードを機械きかいに通した後、鉄扉の巨大なハンドルを回していき、そのまま扉を開いた。その先に、僕が受け取るべき家族の遺品いひんが眠っているらしい。

 そう思い、僕は巨大金庫の中を見てみる。その中には、

「バッグ?」

 巨大金庫の中には、一つのバッグがあるだけだった。それも、腰にくウエストバッグという奴だ。このバッグが、僕の受け取るべき家族の遺品いひんなのか?

 しかし、それを見た栞はどうやらそのバッグの正体しょうたいを知っているらしい。目を大きく見開みひらいておどろいた。一体、どういうことだ?

「これは、アイテムボックス?」

「アイテムボックス?」

 知らない名前なまえだ。いや、古いゲームか何かでいたことはあるけど。

 このなんの変哲へんてつもないウエストバッグが、アイテムボックス?

 ボックス?

「やはり、君はっているようだね。あるいは父親ちちおやから聞いたのかな?」

 どうやら、吉蔵さんは何か知っているらしい。苦笑を浮かべながら栞の言葉に頷き問いを返した。いや、だからアイテムボックスって何なのさ?

 それに対し、栞は首を静かに左右にる。

「いえ、父さんの研究けんきゅう資料しりょうを勝手にんで知りました。一応、私自身も父さんからぬすみ出したものを持っていますから」

「そ、そうか……」

 勝手に読んだとか、ぬすみ出したとか。いろいろと不穏ふおんな言葉が飛び出し、流石の吉蔵さんも口を引きつらせた。うん、まあ確かにその気持ちは分かる。

 僕自身、流石にそれはどうかとは思うけど。栞も結構豪胆だな。まあ、それは流石に僕自身何も言わないけどさ。沈黙ちんもくきんとはよく言ったものだと思う。

 まあ、ともかく今はこのアイテムボックスとやらのことだな。そう思考しこうを切り替えることにした。

 まったく、やれやれだ。まあ、ともかくこのバッグに僕のけ取るものが入っているらしいと、僕はさっすることにした。果たして、一体このバッグに何が入っているのだろうか?

 そう思い、そっとバッグを手に取りバッグのジッパーをけた。

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