第10話

 それからの日々は、必死だった。最期の挑戦を終わらせるために。最高のものに仕上げるために。ちゃんとかけているかなんてわからないけれど、見える。見る。意地でも、完成させる――!


「でき、た」



 僕の挑戦が終わったのは――十日後。

 命が絶える日の、朝だった。

 ――このあと、僕は意識を失った。




 ――周囲が、ざわざわしてる。なんだろう。

 いつものようにまぶたを開こうとする。――その動作だけなのに。その動きが、できない。動けない。

 ――あぁ、本当に僕は死ぬんだな。そのことを、痛く実感する。じゃあ、ここはICUだろうか?  時々鳴る電子音から考えてもそうだろう。あぁ、本当に死ぬんだ。もう二度と、心橙には会えないんだ。生まれ変わり? そんなの、人間が無理矢理生み出した希望でしかないよな。

 最期に、心橙の声が聞きたい。心橙に会いたい。死ぬことなんてわかってたはずなのに、今どうしても死にたくないって、生きたいって思ってる自分がいる。


 その、ときだった。


「十彩君! 十彩君!」




 ――心橙の、声。

 よかった。――ごめんな。謝りたかった。。何故遠ざけてしまったんだろう。少しでも時間を大切にしなかったのだろう?

 何かを遺すため? そんなのは勝手な言い訳だろうよ。少しでも、君の側にいたかった。

 ――今更こんなこと言うのは卑怯だよな。でも、でも、そうするしかなかった。何かあたたかかいものが頬を伝う。心橙はなおも叫び続けている。


「諦めないで! 生きて!」


 諦め……そうか、僕は諦めていたんだな。自分の命を。限界を。生きたいよ。少しでも長く、君の側にいたい。


「いつも、本当に楽しかった! 私が私でいられた! 本当に……ありがとう!!」


 ――そうか、僕は心橙のことを幸せにできていたんだな。よかった。本当に、良かった。それだけで、僕はどこへだって行けるよ。

 なぁ、君にかけたい言葉がたくさんある。君と話したいことがたくさんある。生きたい。死にたくなんてない。



 そのときだった。

 ――視界の霧が晴れたんだ。

 あぁ、この世界は、とても、とても綺麗だ。

 そして、ガラスを隔てて心橙と母がいる。それを実感できたのが、とてつもなく嬉しい。


 この世に、「奇跡」なんてないだろう。僕は多分もう少しで死ぬ。身体が、そう言っている。

 でも、神様はいた。僕に、この最期の時間を与えてくれた。


 夕陽が窓から差し込む。オレンジ色に輝く。


 僕の青春の色。


 これは、僕の色だ。


 これが、僕の色だ。


 君に、届け。




 享年十六歳。千景十彩の人生は――青春アオハルは、幕を閉じた。

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