第14話 英雄と主人公

「ネメシス=ブルーム……? 彼は、当時の魔王と相討って亡くなられたはずでは……」

「深手は負ったが、生きておる。この先でな」


 RPGゲームというものには、ラスボスが付き物だ。得てしてラスボスというものは自分の私利私欲のために勝手に世界を征服しようとしたり滅亡させようとしたりする、はた迷惑な奴なのだが――


 ネメシス=ブルームも、例に漏れずそういうテンプレなタイプだった。

 だが、違う所もある。


 それは――


「ちょっと待ってくれ。ネメシス=ブルームの名は私も良く知っているが、彼は大英雄だろう? 世界中の多くの人間から慕われていたらしいじゃないか。それが、災厄……?」


 彼は元々英雄だった……という点だ。

 戦争を終わらせた英雄として、今でもネメシス=ブルームに感謝の祈りを捧げている人は多い。王都の噴水広場に彫像があるという事実からも、彼が世間からどれくらい慕われていたのか分かる。


 だが、彼が英雄となったのは……ある意味で必然だ。

 そういう風に、のだから。


「奴は最強になることにしか興味がないただの戦闘狂バトルジャンキーじゃ。自分が最強になるためなら手段を問わない。先程のルーナの様子を見れば分かるじゃろ?」


 ミズキは、目を見開いた。


「なっ、まさか――」

「他人を操ってまで自分と戦わせようとする。体を、心を操り、その意志に関係なく戦おうとする。完全に異常者じゃな」


 確かにネメシス=ブルームは戦争を終わらせた大英雄だ。それは事実。

 だがその実態は、戦いの場に身を置きたいがためにわざと戦争が起こる様に仕向けたのだ。


 己が最強となるために。

 人々を操り、憎悪を煽り、戦争を誘発させた。


 魔王を討った一人の男。ここだけ聞けば、それはまさしく勇者の物語だ。

 だが違う。彼に勇はない。他人を思いやる心も、優しさも、何も持ってはいない。


 あるのはただ闘争本能だけ。


「奴は人の皮を被った――ただの獣じゃ」


 しんと、辺りは静まり返った。

 ルーナもミズキもこの事実を上手く呑み込めていないのだろう。当然だ。王都の中央に彫像がある程の人間が、あのネメシス=ブルームが、そんな異常者であると急に聞かされても困惑するだけ。


「しかしまぁ、心配はいらん。不用意に近付いて奴を目覚めさせなければなんの問題もない。奴は封印されておるからな」

「封印……ですか……」


 人間側にも、ネメシス=ブルームの異常性に気付いた人物はちゃんといた。だから封印したのだ。


 奴はいずれ世界を滅ぼす存在。

 原作では、最強となった自分と張り合える相手がこの世には存在しないので、全てを無に帰して一から世界を作り直すとかほざき始めるのだ。新たな世界で、自分と対等に戦える相手が生まれてくるように。


「うむ。じゃからまぁ、この話は頭の片隅に留めておく程度で良い。それよりも今はミズキの治療が先じゃ。さっさと帰るぞ」


 封印されている以上、現時点で奴が目覚めることはない。

 さえ、与えなければ。


(ミズキの治療が終わったら、テオの様子でも見に行くかの……)


 鍵となるのは、やはりテオである。

 主人公がこの場所に到達しなければ、封印は解かれないのだから。


 コヨリ達は元来た道を引き返す。

 なんだか、胸騒ぎがした。



 ***



 コヨリ達が『静謐な宝玉』のあった小部屋から立ち去った後。

 少し離れた位置にある遺跡から、一人の男が姿を現した。


「どうやら、バレずに済んだみたい」


 ――テオである。


 コヨリ達が地下迷宮に来た時、彼もそこにいた。授業が始まる前に少しでも強くなろうと、地下迷宮で訓練をしていたのだ。


 なぜ彼がコヨリ達に声をかけなかったのか。挙げられる理由はいくつかある。

 既にお礼としてスイーツをご馳走したとはいえ、テオはコヨリから『ついてきたら絶交』を言い渡されている身である。ここでまた出て行ったら、今度こそ嫌われてしまうかもしれないという不安があった。

 また、なんでこんな所にいるのか? と聞かれた時に、特訓していたと言うのは少しばかり恥ずかしいという気持ちもあった。


 色々理由は上げられる。が……それ以上にテオは、ここで出て行ってはいけないような気がしたのだ。ただの直感だが、テオはそれに逆らおうとはしなかった。


「ちょっと遠くて聞き取れなかったけど……何話してたんだろう?」


 コヨリと以前出会ったルーナ、そして知らないエルフの女性。アラド学院の生徒でないコヨリ達がここにいるのは何か理由があるのだろうが、テオには皆目見当もつかなかった。


 テオは小部屋に足を踏み入れる。中はがらんとしていて、何かが置かれていたであろう台座があるだけだ。


(コヨリちゃんはこの台座にあった物を取りに来たのかな? ……ん? それって泥棒なんじゃ……)


 テオはそこまで考えて首を振った。地下迷宮に、更に奥があるなんてテオは知らなかった。もしかしたらここは未発見の迷宮なのかもしれない。

 だったら、ここにあるものは最初に見つけた人のものだ。冒険者が各地の迷宮を探索する時もそういう暗黙の了解があったはず。


 辺りを見渡しても、他に気になる所はない。

 テオはそのまま小部屋を出ようとする。ついでにこの辺りを探索するのも良いかもなぁなんて考えた、その時――



「――ッ!?」


 異様な気配を、感じ取った。


 それはある一点から来ていた。見た目はただの壁だ。

 だが、テオには分かる。


 何かが、いる。この先に。


「な、んだ……?」


 テオはゆっくりと壁に近付いていく。

 すると、唐突に頭痛が襲ってきた。


「ぐっ……!」


 頭が割れるように痛い。頭痛と眩暈で体がふらふらと揺れる。

 テオは思わず、


 瞬間、頭の中に響いたのは――誰かの声。


『来い……来い……者……テオ……』


 その声に聞き覚えはなかった。

 だが、直感的にテオは思った。


「ネメシス=ブルーム……?」


 いる。この先に。

 ネメシス=ブルームが呼んでいる。


(大英雄ネメシス=ブルーム。僕の憧れの人が、なんでこんな所に?)


 テオにとって、ネメシス=ブルームは憧れだった。

 戦争を終わらせた大英雄。ほんの100年前まで争いの絶えなかったこの国を、この世界を救った真の


 小さな頃から絵本を読み聞かせてもらっていた、勇者の冒険譚。

 ああいう風になりたいと思った。あんな風に人々を救う、希望の光になりたいと焦がれた。


 その人が、この先にいる。


「でもこれ……封印……? なんで……?」


 この壁の向こうにいるのは確か。だが、これより先は特殊な結界で封じられているのが分かった。

 解除するには正規の手段を用いるか、圧倒的な魔力で破壊するしかない。


「そうか……強くなればいいのか……そうすれば、ネメシス=ブルームに会える」


 なら選択肢は、一つしかない。


 テオはゆらゆらとその場を離れる。

 その身に、テオ以外の何者かの魔力が覆い重なっていた。魔力はするするとテオの体の中にまで入り込んでいく。


「強く、ならなくちゃ……」


 その瞳が、暗く怪しく光る。

 そのことにテオ自身も気付いてはいなかった。




――――――――――――――――――――――――

あとがき

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