第6話 仲間じゃなくて配下ができました
「本当にありがとうございました、神様」
そう言ってルーナはまた手を組んで祈りを捧げた。
コヨリは流石にむずがゆくなって、ぽりぽりと頬をかく。
「ルーナ、神様はやめるのじゃ。そんな大層なものではない」
コヨリの言葉に、ルーナはきょとんと目を丸くする。
「ど、どうして私の名前を……」
「え!? あー、えーっと……さ、さっきそこの男がお主の名前を言っておったではないか!」
「あぁ、そう言えばそうでしたね」
ルーナはすっと目を細めると冷ややかな視線を倒れている男に投げかけた。
冷ややかというのは大分聞こえが良い方で、最早絶対零度と言っても過言ではないくらいの冷たい視線だ。
「ぺっ」
と思ったら追い打ちの如く唾を吐きかけた。
(ル、ルーナが……ルーナが悪い子になってしもうた……!)
原作のルーナはおどおどしていて男性恐怖症という設定があった。もしそれがこの男達からの被害によるものだとしたら、コヨリが助けたことで性格をひん曲げてしまった可能性がある。
(まぁでも、別にいっか!)
男性恐怖症から男性嫌いにジョブチェンジした所でコヨリにはなんの問題もない。むしろ仲間に引き入れる上では好都合というもの。
「それで、その……神様……一つお尋ねしたいことが……」
ルーナは頬を赤らめてもじもじと視線を泳がせる。
真っ白な肌にほんのり差した朱色のコントラストが、非常に艶めかしい。
「ん、なんじゃ?」
「お、恐れ多いことは分かっていますが……その、お名前は……?」
「なんじゃそんなことか。よかろう。耳の穴をかっぽじって我の名をその胸にしかと刻み込むのじゃ」
コヨリはマントをばさりと翻す。特に意味はない。ただの格好つけだ。
腰に手をあてて仁王立ちし、ない胸を張り上げた。
「我が名はコヨリ! 最強無敵美少女にして天衣無縫の九尾族の生き残り! 不老長寿の法を求め旅をする――ただの、のじゃロリ狐っ娘じゃ!」
コヨリはばーん、と効果音でも鳴りそうな名乗りを上げる。
一瞬孤児院の先生の顔が浮かんだが、「あんまり自分が九尾族って言いふら――」辺りで脳内から追い払った。ルーナは仲間になるので例外だろう。そういうことにした。
しかしルーナはなんの反応も示さない。ただじっとコヨリを見つめていた。
(むっ……? さっきまでの感じなら拍手の一つでも飛んでくると思ったが、もしかしてスベったか?)
そんな一抹の不安がよぎった時、ルーナが突然ぽろぽろと涙を零した。
「えっ!? ちょ、泣い……なんで!? ご、ごめんねルーナ。ちょっと調子乗ったというかふざけすぎたというか、嫌だったよねそうだよね。私が変なこと言ったせいだよねごめ――」
「コヨリ様……なんて素敵なお名前なのでしょうか……」
「………………ん?」
コヨリはまじまじとルーナを見つめる。
「まるで私達に寄り添ってくれるかのようなその広い懐……名は体を表すとはこのことでしょうか……。聖女様のように神に選ばれしお方はその名にも神聖性を宿すと言いますが、コヨリ様はそれ以上――まさに神の如き神々しさです……。わ、私は……私は今……えぐっ……感動で心が震えていますっ……ぐすっ」
もうぽろぽろ、なんてレベルじゃない。
ルーナは嗚咽混じりに号泣していた。
これには流石のコヨリもちょっとだけ、ほんのちょっとだけ引いた。
「私は幸運です。こうしてコヨリ様に助けて頂けたのですから。こんな辺境の村までコヨリ様がいらっしゃったのも、私では推し量れない特別な事情があるのですよね」
「え、あー……うん、ま、まぁな!」
テオからヒロインを奪うため、なんてルーナの前では流石に言えない。
だからコヨリはニヒルな表情を浮かべて、なんかそれっぽい事をのたまうことにした。中二病魂が産声を上げた。
「我がここに来たのはな……
「運命を……」
「世界は悪意で満ちておる。我はもう、ルーナのような子を増やしたくないのじゃ」
「――ッ!!」
差別や偏見がこの世界に満ちているのは事実で、それをコヨリが不快に思ったのも事実だ。
しかしルーナを救ったのは、元々はコヨリ自身のためである。テオと結婚したくないがためという超個人的な事情。
だがそれは別に言わなくてもいいことだと、コヨリは思った。というか言える訳がない。そんな邪な理由で助けたなんて知られたら幻滅されてしまう。コヨリはヒロインに嫌われたくなかった。
「じゃあ、もしかして……不老長寿を求めているのも……」
なので、当然ここで馬鹿正直にのじゃロリ狐っ娘のままでいたいから! などと言える訳もなく――
「全てはこの世界を変えるため……この世の不条理を己が手で消し去るためよ」
「なん……てこと……」
本当は世界とかクソどうでもよくてただのじゃロリ狐っ娘のままでいたいだけなのだが、そんなことはおくびにも出さずにコヨリは微笑んだ。
「ルーナよ。お主の境遇はこの世界を変える一つの鍵になるやもしれん。だからもし他に行く当てがなく、お主が良いと言うのなら……我の仲間に――」
「承知いたしました、コヨリ様。このルーナ、コヨリ様の配下として全身全霊を持ってお供させていただきます」
「………………んん?」
おかしい。幻聴だろうか。
今とってもおかしなワードが聞こえた気がした。
「……配下?」
「はい。コヨリ様の理念を、信念を、大望を、私がこの身を捧げてご助力いたします。一生涯をかけて。それが半魔と蔑まれてきた私を、絶望の淵にいた私を、助けて下さったコヨリ様への忠義です」
ルーナは片膝をついて頭を下げる。
その表情も、声音も、全てが真剣そのもの。まさに魂をかけた誓いの言葉だった。
――適当に適当を重ねたぺらっぺらのコヨリとは違って。
「あのぅ……せめて対等に仲間とかで……」
「とんでもございません。私はコヨリ様の忠実な僕。対等などというのは私自身が許せません」
「あ、そうですか……」
コヨリは頭を抱える。
(どうしてこうなった!!)
どうしてもこうしても自分が適当こいたせいだが、コヨリはその事実を宇宙の彼方へ消し去った。
ただヒロイン達ときゃっきゃうふふな旅をしながら不老長寿の方法を探したかっただけだったのに――
目の前にいるのは自分を神と崇めるヒロイン。
頭痛がした。
「……とりあえず、王都にでも行くかの」
「はい、コヨリ様。どうぞ私の背中に」
「……ナチュラルにおんぶしようとするでない」
「お姫様だっこの方が良かったですか?」
「何を馬鹿なこと――それはちょっとアリじゃな……」
こうしてコヨリは配下と共に王都を目指す。
不老長寿の情報を求めて、そして別のヒロインを次こそは『仲間』にするために。
――――――――――――――――――――――――
あとがき
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TSのじゃロリ狐っ娘の最狂ラスボス計画〜ただ幼女でいたいだけなのに、なぜか原作ヒロインが配下になりました〜 八国祐樹 @yakuniyuuki
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