カエデ少尉とヤマト王国物語 二つの日本民族の悪霊祓い

@D3A299

第1話 穢れの襲来とカエデ少尉

細長い国土に背骨のように山々が連なる日本列島。

 8月も終わろうとしている日の夜。

 人の住まない小さな山の小さな峠の林に、早朝に出発した偵察戦闘団第1小隊第1分隊はいた。 そこから後方5分ほどの距離に同第2分隊がいた。

 昨日の大雨で行軍は難儀。着いた峠の開けた部分は泥状化し、まだ林内雨りんないうや幹を伝って落ちる樹幹流じゅかんりゅうがあって居心地は悪かった。

「ここがそうなの?」偵察に同行していたミカ軍曹が、月明かりの中で確認するように尋ねる。士官学校同期の言い方が抜けない。

「ミカ軍曹!」カエデ少尉が、下方を見ながら、またかと、たしなめる。

「失礼しました。少尉」ミカ軍曹が少尉の背中に、舌を出しながら謝る。

 カエデ少尉はミディアムヘア。卵顔でやや小柄で、少し細身の体型。

 ミカ軍曹は耳下からのショートツインテール。丸顔。カエデ少尉よりは少し背が高い。

 ブラックオリーブの軍服。認識票以外に階級、個人を示すものはない。

 峠の西側。ソーラーパネル設置で開拓された山の斜面が、降り続いた豪雨で滑り落ち、峠から麓へ山肌が追いかけるようにごっそり崩れ落ちていた。

「結界の勾玉まがたま」をまつった地中のほこらも地滑りに巻き込まれ勾玉まがたまも割れたのだろう。」結界は消失していた。

「ふもとの設備修復に人が入るだろう。この地域の結界設置は当面見送りだな。不便になる。丸見えだ。軍曹、現場を念写しておいてくれ。……念写は苦手だ。」カエデ少尉はそういって振り向いた。

 「ピンボケ多いですものね」と軍曹がニコッとする。「フン!」カエデは答えない。

 軍曹の念写をまって、二人は、それぞれ銀色の日本狼にまたがった。

「戻るぞ。」小隊長のカエデがそうい言って銀狼にささやく。2頭は流れるように小隊本体に向かう。

 月がくっきり見え、明かりをつけていない宿営地を照らす。第1分隊18人は半数交代で食事中だった。

【早朝本国に戻る。結界がなく危険極まりない。移動準備のまま仮眠】第1,第2分隊にテレパシーで伝える。 

 私の名は、カエデ。

 偵察戦闘団第1小隊全36名の指揮官です。着任して一年。

 士官学校初等科に6歳で入学。18歳高等科トップ卒業。

 戦術学、兵器学、一般教養はトップ成績、アシハラノナカツクニ環境科学専攻。

 テレパシーは初級。白兵戦戦闘選択は体術。ギリギリ及第。

 部下に警護と育成を兼ねて第一王女がいます。士官学校同期。

 (私の親友と本人は言っているらしい。)

 専攻は機械工学。白兵戦闘剣術、御神結力(オンカミムスビのチカラ、神の力ともいわれる)とテレパシーは上級ランク。

 卒業成績は2番目。1番はワタシ!。

 でもね、士官学校時代は水素と酸素、H₂&O₂エイチツーオーツーとかHOエイチオーとか言われて発火すると大変だったらしい。

 今は私の部下、軍曹です。

 この国は王族が国民を守るため先頭に立つ完全皆兵文化。

 王族は戦いを指揮するため小隊の中で副官として経験を積んでいく。

 そして順次大きな部隊の副官で研修しながら階級を上げていく。

 だからヤンチャな姫のお守りと言ったところだった。2週間前の豪雨まで。


 翌午前6時少し前。太陽はすでに強い。6時までの最後の当直についていたミカ軍曹は、いやな気配を感じた。テレパシー=精神感応が高い分、察知能力も高い。ゆっくりまわりの林、草むらを見渡していく。 何かいる。禍々まがまがしいものだ。

【カエデ、危険を感じる!】テレパシーを送る。殺気に押され階級どころではなかった。

 少し間があって【了解。第1分隊全員戦闘準備。第2分隊守備陣形】【各分隊装甲兵 中央配置】矢継ぎ早にカエデ少尉からテレパシーがオープンチャネルで送られる。

【ミカ軍曹状況送れ】。

【11個体。黒い影をまとって、大きさや形不明。第2分隊とわが分隊の中間、崩落した西側 西北西から急速接近、 7体はこちらに 4体は第2分隊方面に】ミカから、オープンチャネルで第1第2分隊全員に送られる。

【第1分隊装甲兵西北西展開】【第2分隊も戦闘準備に変更。装甲兵、西南へ展開】【各分隊神装弓兵構え】第1小隊装甲兵12名が大剣を構え前衛に移動し神装弓兵が第2列に構える。彼らは白兵戦部隊である。まだ何も見えない。草むらも動かない。しかしけがれの気配は急速に広がる。

 突然それは姿を現した。大きな頭とあごを持つその7体は、一瞬にして第1分隊正面兵7人をくわえる。大剣はけがれの突進の勢いではじき返される。猛烈なスピードだ。2頭の銀狼は素早くその獣側面へ爪を立てるものの降り飛ばされる。7体は、噛みこんだ兵士を少し上を向いて呑み込み、次の兵士をくわえ嚙みちぎる。神装弓兵が破魔矢を放つ。14本の青白い光の矢は直前の7体の「穢れ」の体に吸い込まれる。確実にその破魔矢は体内を焼いているはずだが、けがれの動きは止まらない。そして次弾を放つ前に弓兵も噛みちぎられていく。7体の攻撃に戦力が分散される。

 偵察部隊の武装じゃ話にならない。

 目の前に奴らが急速に迫る中で少尉は思う。【第1、第2分隊 各自強制転移。急げ!銀狼は王国へ戻れ】カエデ少尉が指示する間にすでに第1分隊12人の兵が喰われた。

 【各自転移急げ】テレパシーを送る。ヤマト王国軍兵士全員が持つ転移珠てんいだまは、ヤマト軍に与えられた緊急避難神具。最も近い「転移門」設置場所に飛ばされる。

 

 目の前に「けがれ」が迫る。

 【ミカ!神遷!早く!】。

 士官になって1年で終わりか。ミカだけは守りたい……。

 カエデは帯剣を抜きミカ第1王女の前にでる。穢れの前足の爪がカエデの左肩から左腕までえぐり、左手首の転移珠の腕輪をちぎり飛ばす。カエデは穢れの方へ倒れこむ。

 大きな顎と歯列が眼前に迫る時、ミカ軍曹が少尉の髪をグイッと引っ張る。

神遷しんせん!」カエデ少尉の髪をつかんだまま、ミカ軍曹は左手の転移珠を右手で押さえ唱える。転移珠が砕け、穢れの顎が少尉の頭を噛む瞬間、少尉と軍曹は転移した。

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