3.エリザベス VS カリナリア 2nd.


 年末年始が過ぎ、新年を祝うパーティーが王城で開かれた。

 今日のエリザベスは、新年にふさわしい紅白のドレスを着ている。もちろん、エリザベスの代名詞ピンヒールも忘れない。

 王城で開かれるダンスパーティーは、婚活会場でもある。第二王子の婚約者になるべく、各令嬢がダンスを披露する。

 イザークの婚約者のためエリザベスは参加しなくても良いのだが、婚約者が王族のため、場を盛り上げるための前座として呼ばれた。

(わたくしが前座なんて、失礼しちゃうわ。でも、仕方ないわね。わたくしのダンスが上手すぎるのがいけないのだわ)

 わたくしってば罪作りな女。

 エリザベスが頬に手を当てて悩ましげにしていると、イザークが歌い手の立ち位置へ行く。この日のために雇われた他の歌い手が驚いたようだが、何かを伝えてその場から離れる。そして、ダンスがよく見える位置に行った。

(あらあら。そんなにわたくしのダンスが見たいのかしら)

 イザークの行動を誇らしく思ったのも束の間。

 前座のためにエリザベスが舞台に上がると、背後から足音がした。前座はエリザベス一人のはず。そう思って振り返ると、にっこりと微笑むカリナリアがいた。

「あなたっ」

 なぜここにいるのかと、黒地に青いレースがついたドレスを着るカリナリアに抗議しようとした、そのとき。

 パッと、エリザベスとカリナリアの二人に照明が当たった。そして曲の始まりを告げる、弦楽器伴奏の音。

(っ! この始まりは!!)

 女王と親しくあるため、エリザベスは五年間でよく使われる曲とダンスを全て覚えた。だから、踊れるのだが。

 カリナリアが、自分の顔に陰ができるように下を向く。いや、舞台に上がったときから下を向いて踊る体勢になっていた。まるで、伴奏が始まるよりも先に流される曲を知っていたかのように。

(っ。イザークね)

 歌い手に伝えていたのだろう。イザークは、カリナリアを見ている。

 混乱しつつ、エリザベスもソレアを踊っていく。踊れは、する。しかしソレアは切なさや寂しさを表現し、最後に強く生きる救いを見いだす曲だ。最後の、強く生きる救いを見いだす部分はテンポが速くなる。が、それはあくまでも最後。曲のほとんどは、ゆっくりとした動きを求められる。

 女王が提唱した「曲調に合わせた表現をする」は、もちろん衣装も含まれているのだ。新年にふさわしいと選んだエリザベスの紅白のドレスは、場違いということになる。

 踊りながら会場を見れば、イザークも第二王子も、その他女王に近いとされる貴族らも、皆カリナリアのように落ち着いた色合いの服装だ。

 女王のお気に入りと自他共に認めるエリザベスの、失態。

(これは、偶然? それとも……)

 クリスマスパーティーでも、カリナリアは青のドレスを着ていた。しかし、誰が新年を祝うパーティーで、落ち着いた色を選ぶというのだろう。

 ソレアが終わる。

 それは、エリザベスの敗北を意味していた。

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