現代版の『縁結び』 ~ 微笑む女 ~

崔 梨遙(再)

1話完結:1700字

「どうしたんですか?」


 1人の女性が、夜のベンチに座って頭を抱えている男性に声をかけた。


「あなたは?」

「通りすがりの者です。何かお悩みですか?」

「はあ、悩んでいますけど」

「片想いで悩んでるんですか?」

「なんで、それを?」

「商売柄、こういうことには敏感なんです」

「商売?」

「私は、『ご縁を結ぶ』女なんですよ」

「縁結びですか?」

「そうです。あなたの片想い、ご縁を結びましょうか?」

「是非お願いします。お金なら幾らでも」

「料金はいただきません。では、結びます。“でるえなかいがねー!”はい、結びましたよ。明日には、あなたは片想いの相手と両想いです」

「僕は成金太郎です。あなたは?」

「“縁結びの女”です。では、失礼します」


 翌日、太郎は片想いの相手の麗華から告られた。早速、一緒にその日の夕食を。


「太郎さん、この後は?」

「ん? どこか行きたいところがあるの?」

「太郎さんが相手なら、結ばれたい気分なんです。って、女にこんなことを言わせないでくださいよ」

「わかった。ホテルに行ってもいいかどうか? ママに聞いてみるから」

「ママに聞かないとホテルにも行けないんですか?」

「うん、なんでもママに相談して決めるんだ」

「キモーイ! マザコンじゃん。私、帰る」

「え! ちょっと待ってよ」



「また、あなたですか? ご縁は結びましたよ」

「告られましたけど、その後でフラれました。ホテルに行ってもいいかどうか? ママに聞こうとしたら、女の娘(こ)が“キモイ”って言って帰っちゃいました」

「また、誰かと縁を結びましょうか?」

「縁結び女さん、あなたはとても美しいですね。僕、あなたと結ばれたいです」

「拒否します」

「お金なら幾らでも」

「私はお金に困っていません。あなたは私の好みのタイプじゃないんです」

「じゃあ、僕はどうしたらいいんですか?」

「とても貧しくて、“お金持ちなら誰でもいい!”と思っている女性との縁を結びます。それでいいでしょう?」

「金持ちなら誰でもいいって、酷くないですか?」

「でるえなかいがねー! はい、結びました。明日を楽しみにしてください」

「ああ! 縁結び女さん! 僕と……」

「あなたと結ばれるのは嫌です」



「何かお悩みですか~♪」

「はい。ずっと悩んでいて、ずっとベンチに座っています」

「片想いでお困りですか~♪」

「はい、そうなんです。相手は金持ちのお嬢様で、僕みたいな貧乏人には手の届かない存在なんですよ。でも、好きなんです」

「私は縁を結ぶ女です。ご縁を結びましょうか?」

「いや、でも、僕と付き合ったら、迷惑になると思います。迷惑をかけたくないんです。僕なんかが手を出してはいけないんです」

「あなたはイケメンだし、好きな女性のこともよく考えられる男性(ひと)です。自信を持ってくださいよ。でるえなかいがねー! はい、結びましたよ。明日を楽しみにしてください~♪ こちらもイケメンからの相談だといつもより『やる気』が出ます~♪ では、失礼します~♪」


「また、あなたですか~♪ 結ばれたでしょう?」

「はい、告られました。夢みたいでした。でも、僕の住んでるボロアパートを見たら、僕を軽蔑するような目で見て、去って行きました」

「あら~酷い女性(ひと)ですね~!」

「いえ、いいんです。彼女は、きっと僕よりも素敵な男性と幸せになるでしょう。僕は彼女の幸せを祈ります」

「他に気になる女性はいませんか~?」

「え! ……実はいます」

「誰ですか~?」

「縁結び女さん、あなたです。あなたは美しい。それに優しい仕事をしてらっしゃる。でも、僕なんかと付き合ってもらえるわけが無いですよね?」

「いいえ~♪ そういうことなら私とあなたのご縁を結びますよ~♪」

「いいんですか? 僕なんかと付き合ってくれるんですか?」

「付き合う? いいえ~もう結婚しましょう~♪」

「マジで? 僕は嬉しいですけど。僕は貧乏だし。貧乏だから学校も行ってないし」

「お金なら私が持ってるから大丈夫ですよ~♪ あなたは優しいし、私の好みのイケメンなのよ~♪ もう呪文は要らないわね~♪ 今日から私の家で一緒に過ごしましょうよ~♪」

「はい、喜んで」



 縁結び女は、結局イケメンが好きだった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代版の『縁結び』 ~ 微笑む女 ~ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画