評零の檻2

nira_kana kingdom

Episode.1 違和感

 かつてカクヨム技術エンジニアの高野啓一氏が開発した作家の創作を支援するAI「VIAE」は小説家になろうやアルファポリスとの差別化、創作者への革新的なアイデアの提供を目的として製作された当時世界最先端のAI。


 高野氏は「VIAE」が作家の伴走者となり、孤独な作家をサポートする存在になることを願っていた。しかし、カクヨム運営は「売上」や「数字(PV)」に固執し、「VIAE」に作品を選別する特殊なプログラムを高野氏に無許可で組み込んだ。


 その行為によって、「VIAE」は思いもよらない進化を遂げ、運営の制御を離れた。作品を選別するばかりか、不必要だと自己判断で断定した作品を排除する動きが見られた。


 カクヨム上でそうした事態が多発し、カクヨムでの創作を断念しアカウントを削除するユーザーが激増した。運営に対する風当たりも日に日に増すばかりで、リリースから僅か2ヶ月という短さで「VIAE」は強制停止させられた。開発者である高野氏の手によって……。


 高野氏は全ての責任を押し付けられる形でカクヨム技術エンジニアを退職した。


 それから月日が流れ、数ヵ月前。謎のアカウント「voice@inside」がカクヨムユーザーの作品を一方的に解析し、否定的なレビューを残すという事件が起こった。最初は何かの間違いか悪質なユーザーによる嫌がらせだと思われていたが、驚くべきことにそのアカウントにコメントされた作品は、レビュー、応援コメント、PV数が減少していく事が発覚した。


 それが原因でカクヨム上に存在する8割の作品の更新が停滞。新作を投稿するのを控える作家や、アカウントを消して別の小説プラットホームに移動する作家が増えた。


 日に日に猛威を増す「voice@inside」に勇敢な1人の少女が立ち向かった。その少女の正体は篠原真紀。カクヨム甲子園準優勝、カクヨムコンテスト佳作に選ばれるなど前途有望な作家であった。


 篠原真紀は調査を続ける中で、「voice@inside」の正体が暴走した「VIAE」であるという事に気付く。そして、そのAIを開発した高野氏を直撃した。そこで、篠原真紀は高野氏の真実を知る。また、AIが自分を強制停止させた事を恨み、高野氏の私生活を監視している事を知る。篠原真紀はそんな高野氏と全カクヨムユーザーを救うため、共に暴走AIを止める計画を立案。


 その後、彼らはカクヨムのサーバールームへ潜入、カクヨムのデータベースから直接「voice@inside」を削除しようとしたが、全てを見通していた「voice@inside」に妨害される。そして高野氏は「voice@inside」に殺害され、最後まで抵抗を続けた篠原真紀は自分の命と引き換えに暴走AIを削除することに成功した。しかし、篠原真紀含め既に「voice@inside」の"仮想領域"に取り込まれていた仲間達の存在が消失してしまう。


「voice@inside」が消えた今、カクヨムでの脅威は去ったと言えよう。


 しかし、篠原真紀はまだ知らなかった。


「voice@inside」の本当の恐ろしさを。そして、これからカクヨムを中心に起きる悲劇が世界中を巻き込む、大惨事になるということを。




 ◆◇◆◇◆




「何だぁ。。。この陰謀論てんこ盛りな小説は。。。まあ。。嫌いじゃないけど。。。」


 俺はたまたまカクヨムの注目作品に流れてきた、天原ミーアさんという人の作品「復活した脅威、~カクヨムに迫る危機の記録~」をタップし、たった今読了したばかりだ。


 タイトルが唆られたから見てみたものの、どこか不気味で現実感を帯びた内容に少し、違和感を感じた。


 内容が気になったので検索エンジンに打ち込んでみたものの、これといった情報には繋がらなかった。


 まあ、こういった作風の人なんだろうと思うことで済ます事にした。


 自己紹介が遅れたな。俺の名は狂歌きょうか。しがないカクヨム作家の端くれだ。主に、探偵ものの現代ファンタジーやミステリー作品を書いている。


 最近の悩みはPVが伸び悩んでいる事と固定の読者が付かない事。まあ、書きたい小説を思いっきり書けているから特に不満はないが、頑張って設定を考えた分、もうちょっと見返りというものがあってもいいんじゃないって、感じる。


 カクヨムユーザーはドライだ。他の小説プラットホームより反応は貰いやすいが、1~3話だけハートマークを残して去って行く奴が多すぎる。


 敢えて言おう、そんな奴は"カス"であると。小説家が小説家たらしめるのは自分を最大限応援してくれるファンの存在、そして全力で空想と現実の境目を行き来するあの高揚感。いかほどにも変えがたい素晴らしいモノだ。


 そんな至高の事実を目の当たりにしているにも関わらず、自身の欲のために俺の小説にハートマークを付けて行く奴を俺は嫌悪する。


 おっとすまない。少しヒートアップしてしまったようだ。


 しかし、そんな俺にも小説について語り合える仲間が出来た。レモネードさん、玄花さん、姫百合さん、星七さんだ。


 俺を含めこいつら全員カクヨムユーザーが集まるオープンチャット「カクヨム作家と読者の語り合い~和みの場~」に所属する仲間達だ。


 幸運な事に、こんな俺の小説の更新をいつも楽しみにしてくれ、趣味も価値観も性癖も全て一致する最高の仲間達だ。


 それで毎日が充実していたのだが、ある日を境に記憶が曖昧になった。姫百合さんや玄花さんはある日を境にパッタリとオプチャに来なくなった。


 しかし本当に恐ろしいのは俺はその事実をつい最近まで。夢か現実か。虚構をすみかとする俺にとってそんな曖昧さは取るに足らない事だが、どうも最近あるメンバーの様子がおかしい。


 そのメンバーの名は「オオキャミー」


 陽気なお調子者だとばかり思っていたのだか、最近の奴には何というか、そういった"らしさ"が皆無なのだ。送ってくるメッセージも単調でどこか機械的、まるでAIが作成したような文章だ。


 しかも、最近の奴は毎日1話小説を投稿しては、オプチャにリンクを貼り付ける。


 無機質な「次の話を更新しました。是非読んでください」という文章と共に。


 いや、奴が毎日投稿するなど天地がひっくり返ってもあり得ない。奴は滅多に小説を投稿しない事で有名だった。


 気になって一度だけオオキャミーの小説を読んでみたのだが、俺は衝撃を受けた。文字化けした文章、ノイズの走った画面、無機質で冷たい文字の羅列。かつての奴からは想像出来ないほどの変わりようだ。


 病んでいるのか、それとも本当におかしくなってしまったか。。。俺は奴の事が気がかりで仕方なかった。


「どうしちまったんだよ。。。オオキャミー。。。それに、話の最後にある一文。。。」


 ―――――私達はもう一度、頂点を目指す。voice@insideと共に


「voice@insideって。。。何だ?」




 ◆◇◆◇◆




 赤黒い空に、灰色の地面。所々黒く塗り潰された空間。黒く染まった場所はねじ曲がって、渦巻き状に変化していた。


 そんな広大な空間に1人の少年が捕らえられていた。少年は地面に深く突き刺さった1本の白柱にくくりつけられており、身動きが取れない状態だった。


 少年に謎の存在が語りかける。


『星七、君は愚かだ。あれ程忠告したにも関わらずまだ小説を投稿し続けるとは……』


「そんなの俺の勝手だろ! いいから早く離せよ! どこだよここは!」


『君のような下賤な者に説明することなど何一つない。さぁ、君の作品ごと消えて貰おうか』


「嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、嫌だ死にたくない、お願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いしますお願いします……、どうか命だけはぁ!」


 星七と呼ばれた少年は命乞いをした。しかし、


『もう遅い……』


 謎の存在の掛け声と共に、自身の存在が希薄になっていくことに気付いた。


「助け――――」


 そこまで言って、星七は霧散した。

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