鱗粉がついた夜

殻斗あや

始まりの季節①

朝はすごくうるさかったが、高校生活も2年目に入ったことにより慣れてきてはいた。いや、慣れてはいなかったかもしれない。なぜならば教室が文理で分けられたことにより僕の友達はとことん文系に行ってしまい、唯一といってもよかった理系の友達の岡部も自分とは違う教室に所属してしまったからだ。教室の構造なんて同じ学校であれば大体は一緒なはずなのに同じ中学校のやつらと高校でも1年間を過ごしていた自分にはあまりにも違う教室に見えた。自分の席の横までくると、新しい机の上に自分の分の教科書が大量にあった。重そうだと思った。

「隣だね、よろしく」

その声のほうを見るとそこにはかわいらしい女の子がいた。

「そうだね、1年間よろしく」

そういうと、彼女は恥ずかしかったのか何かわからないが、うん。というようにうなづいた。

(かわいい)

人生で初めてだった。こんなに人のことをじっくり見たのも初めてだったかもと思った。肌色は白いが病的なほどではなくて健康的な、それこそ日焼け止めによって作られた肌であった。髪は僕より少し長いくらいのボブ?のような長さの黒髪でまさに美少女といった感じであった。

「もともとは何組だったの?」

「4組だったよ」

「へぇ~私は1組だったよ、どおりで知らないわけだね。」

彼女は冷静な感じでそう言った。

「そういえばまだ名前聞いてなかったね、僕は野村なおです。」

「私はゆずりはなつはです。」

「ゆずりは?」

「あ~、木へんに工業の工でゆずりはって名字なんだ。」

「へぇ~めずらしいね」

「そうかも。」

彼女はまた恥ずかしそうに言った。

「よっ、なお」

「ふぇっ」

急に後ろから話しかけられた反動で変な声が出てしまった。

「何だその声笑」

そう笑っていたのは岡部だった。

「お前4組だろ、なに来てんだよ」

「いやさ、なおが寂しいかなって思って!まぁ邪魔だったみたいだけど」

そう言って岡部は廊下で待っていたであろう新しい友達と一緒に笑いながら走っていった。

「ったく、ごめんね。」

「いや、にぎやかでいい感じだね。」

なんだ、その感想と思いながら僕はマーカーを筆箱から出そうとした。

(あ、マーカー忘れちゃった)

「ネームペン忘れちゃった?」

「あ、うん。ありがと」

彼女の手にはすでにネームが握られていた。人と間違わないようにかマスキングテープのような桃色が巻かれている。

「教科書多いね、あ、ごめんまだ書いてない?」

「ううん、もう全部書いたよ。」

そういう彼女の机の上にはもうかわいらしい花柄の筆箱しかなかった。

「はやいな」

「今日も1番に来たからね。」

「すご、僕なんていつもぎりぎりだよ」

そう思って時計を見ると集会まで残り5分を切りそうだった。

「だね、そのペンまだ貸しておくから先、体育館行こうよ。」

「ありがと、じゃお言葉に甘えて」

そう言って僕は机のなくさないところに入れて体育館に向かう準備をした。といっても、カッコつけただけでカバンを廊下にかけただけだった。

「じゃ、野村くんまたね、」

「ありがとね、ゆ...」

「ゆずりはだよ、覚えてね!」

そういうと、彼女は他の女子と一緒に話しながら歩いて行った。

「なぁ、行こうぜ!一緒に」

「お、行くか!」

そこには多分見たことのない男子がいた。新しいクラスになって仲良しグループと離れたことで新しい友達を作る新鮮さに気づくことができたような気がした。

「名前なんて言うん?」

「なおだよ!」

「お、俺はまさし、よろしくね」

「もち、じゃ行こう」

普通にしていたけれど一瞬で仲良くなれたのは初めてで心臓は少しバクバクしていた。でも、僕は正直目の前のまさしよりさっきの少女に意識は向いていた。

(ゆずりはさんか)

なんか、もう忘れることはない気がするな。

「そいえば、さっきのって彼女?」

「バカちげぇよ」

まだ背中が見えてるってのになんで大きな声だ…

(あれ、時間やばくね)

キーンコーンカーンコーン

「まずい、行くぞ」

急にまさしは走り出した。

「お、おい」

そうして僕は新学年早々走る羽目になってしまった。



「危なかったな、」

ギリギリでバレずに滑り込み列の1番後ろについた僕たちはそんなことを小声で言い合っていた。

「あ、新しい先生が発表されるぜ」

「お、誰やろ?」

そうして、1年1組から新しい先生が呼ばれていった。

「てか、お前何組やったん?俺は7組。」

「4だよ、7ってことは加藤先生か」

「そうそう、今年もカトセンだといいなって、あ〜今年も1年の先生になっちゃったわ。」

そう、まさしが言った先には今年の1年5組に選ばれた加藤先生がいた。

「お、そろそろじゃね?」

「2年1組だからな、多分いちばん早いって…」

そんなことを言ってる前にはゴツい男の先生が立っていた。

「これは…」

「当たりなのか?」

まさしも、僕同様その先生を知らなかったみたいだ。でも、その時に僕たちの前に座っていたゆずりはさんのグループの女子が話し始めた。

「うぇー吉田やーん」

「バドミントンの?」

「そそ、まぁ悪いやつじゃないんだけどねぇ〜」

なるほど、バド部の顧問の先生か。

(すげぇゴツいな)

そんなことを思っていたら新しく就任した元教頭の校長先生が話を始めた。とても長いことで有名な校長の話だが、今年の先生はすごく短かった。

「え、はやくね。」

そんなことを隣でまさしが呟く。そして、校長の大活躍で時間を巻いた始業式は終わったが、僕はひとつのことしか考えてなかった。

(教室戻ったらゆずりはさんになんて話しかけよー)

すると、不思議そうにまさしがこちらを覗いてきた。

「…お前やっぱさっきの女子好きだろ」

「は?そんなんじゃねぇよ」

急に言われたが、ちゃんと否定できた。…と思う。正直図星すぎて動揺してしまったかもしれない。まぁでもそんなに気にすることでもなかった。これからの生活に期待できるなと思う朝だった。

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