第2話 残酷な真実

「それで…私に仲を取り持ってもらいたいと…」

「そうなんだよ!あいつ本当に口聞いてくんねぇんだぜ⁉︎」

 俺は、登校後、心葉の怒りに触れない様、ひっそりと授業を受けた、そして、昼休み現在、昨日の制裁の愚痴を霊子に漏らしていた。

「私は、罪に対しての正当な罰だと思うのだけれど…それに、加害者のを助ける義理が被害者にあるのかしら?」

「ヴっぐうの音も出ねぇ…まじかよ〜霊子が頼みの綱だったのによ〜」と机にへたり込む。

「まぁ私に言わせれば自業自得ね…」

「はぁ〜」とへたり込んだ自分の腕の間から霊子が読んでいる本がチラリと見えた。

「いつも思うけどよ、それ、何読んでんの?」素直な疑問がふと口から出ていた。

 霊子は、振り返るとブックカバーを取った本を見せてきた。

「ん?霊魂、霊は、助けを求めている⁉︎へぇーこんなん読んでんだ!巷じゃ霊子には、霊感があったり除霊までできるって聞くけどよ!そこんとこどうなん?」

「出来るわよ…」

「まじかよ!すげぇな!御神札とか使って除霊すんの?」と思わず立ち上がってしまっていた。

「呪ったり憑依して人に危害を加える様な霊には、使うわね…幽霊は、基本的にこの世に未練があって成仏出来ない人なの、私は、少しだけ手を貸しているだけに過ぎないわ」

「基本的って他に何かあんのかよ?」

「それは…悪霊への転霊ね」

「何だよその転霊ってのは?」

「転霊は、幽霊が悪霊になる事、嫉妬、妬みや嫉みによって悪霊化するの、時間が経過で悪霊化した例もあるわ」

「へぇー、専門家みてぇだな!」

「幽霊ってね…自分の見たい物しか見ないのよ…だから…自分が死んだ事にも気付いて無かったりするのよ…」と霊子は、少し悲しげにそう言った。

「まぁ俺には、わかんねぇけどよ、あんま皆んなにそう言う話しない方がいいぞ、馬鹿にする奴もいるだろうからよ」

「あんたが聞いて来たんでしょうが」と霊子は、小声で愚痴を溢す。

「ん?なんか言ったか?」

「何でもない!それよりいいのかしら私に構っていて…」

「ん?何でだ?」

 霊子は、何も言わず窓の方に指を刺した。

「ん?ん⁉︎」

 俺は、良く目を凝らしながら霊子が指差した方向を見ると、そこには、体育館があり男が心葉の手を引いて体育館の裏側に入っていくのが見えた。

「オイオイオイオイ!何してくれちゃってんの⁉︎」

「俺ちょっと言ってくる!」

「は〜い行ってらっしゃい」と霊子は、手を振って見送った、タイミングを見計らった様に田中が霊子に近づく。

「あら、何かしら田中くん?」

「少し話いいか?」

「etc…」


 俺は、「浮気は、ぜってぇ許さねぇ!」と全速力で階段を飛び降り、下駄箱を駆け抜け、体育館へたどり着いた、そして、二人にバレない様に体育館の角に座りながら身を潜め盗み聞きを始めた。

「はぁ…はぁ…浮気だったら絶対許さねぇからな!゛あれは!三組の池田〜ぎりぎりぃっ」

 二人の間には、妙な沈黙が流れていた、そして、その沈黙を破ったのは、池田の方だった。

「心葉ちゃん…僕と付き合ってくれないかな?」

 池田は、この学校随一のイケメンである。

「知ってるでしょ?私には、彼氏が居るの…だから…ごめんね…」心葉は、池田を冷たくあしらった。

「いいぞ!心葉!言ってやれ!」


「彼氏って…秋山の事だろ⁉︎だったらっ」

 バチンッ!それは、いきなりの事だった、池田の言葉を遮る様に心葉のビンタが池田の右頬にクリーンヒットしていた。

「人との弱み付け込む男と付き合うなんて…お断りよ」

 池田の顔は、青くなりながら膝から崩れ落ちた、そして、心葉は、俺の隠れて居る方へ向かって歩いて来た。

「やばいっ!やばいっ!どうする⁉︎このままじゃ盗み聞きしてた事がバレちまう」とキョロキョロと周りを見渡しているとスマホがポケットから落ちたのだった。

「やばっ!バレる!」俺は、目を瞑りうずくまった、

「………………」

 俺は、恐る恐る目を開けると心葉は、立ち止まって数秒俺を見ていたが何事もなかった様に校舎へと戻って行った。

「何だよ…何か言ってくれよ…」


 教室に戻ってからの授業は、集中できずに過ぎていった。そして、放課後、俺は下駄箱にいた。心葉は、下駄箱から靴を取り出そうとしている。

「もういいんじゃねぇか?俺ももう反省したからよ、許してくれねぇか?頼む!」と頭を下げる、が心葉は、見向きもしない。けど俺は、諦めなかった、帰り道の河川敷、公園、交差点、までの間、謝り倒したのだ、そして、たどり着いた先は…

「いい加減許してくれよ〜」と俺は、視線を家に向けた。

「つうかここ俺ん家じゃね?」

 心葉は、インターホンを押した。呼び鈴が鳴ると母親の声が聞こえてきた。

「はーい」

「心葉です!」

「あっ心葉ちゃん!今開けるわね!」

 鍵が空きスタスタと心葉と俺は、家へと帰って来たのであった。


 俺達は、台所へと足を進めた。台所には、壁側の中央にシンク、右側にガスコンロ、左側には、冷蔵庫が並んでいる、台所の中央には、ダイニングテーブルあって椅子が四つ配置されている、その内の一つに俺は座った。心葉は、隣の和室へと入っていった。

「母ちゃーん!麦茶出してよ!」母ちゃんに頼むが皿洗いをしていて聞こえてない様だ。

「ありがとね〜心葉ちゃん!ここんとこ毎日来てくれて…」

「いいえ!私が来たくて来てるだけですから!」

「たくっ自分で出せってか」俺は、仕方なく立ち上がり冷蔵庫に向かう途中に和室で正座している心葉の姿があった。

「何でそっち居んだよ!こっち来て座ればいいじゃん!」と和室を覗き込む。

「………………おい…………何だよ…………………これ…………………」

 俺は、何が起こっているか分からなかった、心葉の前にあった物は…

「あの子も………きっと………喜んでるよ」

 仏壇だった…それも…俺の遺影が飾っていたのだ。

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秋の扇 Ikki @Adgjkl33

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