秋の扇
ikki
第1話 罪と罰
とある秋の朝、スズメの鳴き声が耳へと届き俺は、目を覚ました。霞む視界には、適度に散らかった部屋が広がっている、家具は、勉強机、テーブル、小さなテレビと俺が寝ているベッドしか無いシンプルな部屋だ。オシャレな部屋に憧れる時もあるがやり方がわからないのでこのままになっている。
「んっー!はぁー!」と布団の中で背伸びをしヘッドボードに手を伸ばし時計を手に取ると時刻は、八時を十五分示していた。
「ヤッベッ!」
学校のホームルーム開始時刻は、八時四十五分、俺の家から学校まで歩いて四十五分は、掛かる、この時点で遅刻に片足を突っ込んでいる事を瞬時に思考した。
俺は、飛び起き制服に着替え「行って来まーす!」と家を飛び出した。
「ん?」母は、「行ってらっしゃい」と言う暇もなかったと見える、それもそうだ、俺が着替えに費やした時間は、わずか三十秒だったからだ。
いつもの通学コース、公園の時計を見ながら走り抜け交差点に捕まってしまった。
「これなら間に合うんじゃねぇの?さすが俺だぜ!イヒヒッ」
「ん?」何となく視線を電柱の根本に向けるとそこには、瓶に刺してある花、缶ジュースが置かれていた、その交差点は、少し見晴らしが悪く、そのせいで誰か亡くなったのかと思いつつ、手を合わせ一礼した後また走り出した。
俺の名前は、秋山 紅葉、近くの高校に通う普通の学生だ!友達にも恵まれ、そして彼女にも恵まれ!大事な事なのでもう一度言おう!彼女にも恵まれ!順風満帆な高校生活を送っている!この遅刻も青春の一ページであると言う事なのだ!
そう思いながら走っていると河川敷へと辿り着いた、この河川敷を真っ直ぐ行けば川沿いにある高校が俺の高校だ、ちらほらと学生が歩いているのを見ると遅刻は、免れた様だ、走る速度を緩めると前方に見知った彼女の後ろ姿が視界に入って来た、そーっと近づき肩を叩いてみる。
「おっす!参ったぜ!朝起きたら八時十五分過ぎててよ!遅刻するかと思ったぜ…」
振り返る彼女の名前は、紅 心葉、スラリとした体型で切長な目元にポニーテールが似合い、セーラー服に身を包んでいる、つまるところ俺の彼女なのだが…心葉の顔は、徐々に歪んでいき汚物でも見る様なそんな目つきで俺を見下していた。
「この…は…さん?」心葉は、俺の言葉に応答は、せずに再び歩き出したのだった、俺は、心葉に付き纏う。
「なぁ昨日の事なら謝るからよ〜ごめん!ほんとっごめん!」と目を瞑りながら手を合わせた、恐る恐る片目を開けると見向きもせずに歩いて行ってしまった。
俺は、気の触った事をしたか昨日の出来事を振り返って見る事にした。
あれは、昼下がり、現国の授業から始まった…
「この様に、秋の扇というのは、中国の漢の時代、班婕妤という官女が帝からの寵愛を失った気持ちを秋になって使われなくなった扇に例えた悲しい詩なのよね…ほんと…共感しちゃうわ…うう…」
教壇に立ち秋の扇という詩を説明しているのは、俺の担任、石井 由美、通称ユミちゃん!三十四歳絶賛婚活中の現役教師なのだ!
「ユミちゃん、振られてばっかだからな笑」俺は、傾けた椅子に座りながら由美ちゃんを煽る。
「どうせ私は、一生独身ですよーうわーん」由美ちゃんは、その場に座り込み泣きじゃくっているそれを見て笑っていると横腹に衝撃が走り気付いた時には、椅子から投げ出されていた。
「紅葉!あんたいい加減にしなさいよ!ユミちゃん謝んなさい!」
そう叱り付けて来たのは、心葉だった、俺は、どうやら心葉にドロップキックを喰らったらしい。
「イテェな!心葉!なにすんだよ!」
「あんたがデリカシー無い事ばっか言ってるからでしょうが!もうっ!」
「出た出た!二組名物、夫婦喧嘩」坊主頭の男子が口を挟んだ、彼の名前は、田中千尋このクラス随一のエロ野郎である。
「何が名物だよ!」
「何が名物よ!」俺と心葉の声がハモっていた、二人共少し顔が赤くなった。
「それよりユミちゃん!俺がユミちゃん貰ってもいいんだぜ?」
「ほんと?」とユミちゃんは、上目遣いでそう言った。
「田中も何適当な事を!ユミちゃんも魔に受けない!ユミちゃんには、もっと良い人出来るから!」
「ほんと?」
キーンコーンカーンコーンと会話を割く様にチャイムがなった。
「ほらユミちゃん元気出して次の授業の準備しないと」
「はーい」とユミは、とぼとぼと教室を後にする。
「はーい!男子!次体育だから速く出てって!」と心葉の一声で俺を含め男子全員ぞろぞろと教室を出る、そして肩を叩かれる、叩いたのは、田中だった。
「よう!相棒!ニヒッ」と不敵な笑顔をかましてきた。
女子の着替えタイムが終了した後、教室へと戻った、そして、田中は、教壇に立っていた。
「次の授業の百メートル走、これを使って女子達のアーンな姿やこーんな姿を記録してやろうじゃねぇか!」とボールペンを差し出して来た。
「ん?ただのボールペンじゃねぇか?」
「チッチッチッ!これは、ただのボールペンじゃないんだぜ、昨日アマソンで届いた、ボールペン型カメラなのだ!このスマホに映像が入ってくる優れ物だ!これをお前が胸ポケットに入れて歩くだけで俺は、映像を入手出来るって寸法だ!」
「それバレたら心葉にめちゃめちゃボコられるパターンのやつじゃね?」と俺は、心葉の鬼になった形相を思い浮かべ、顔から血の気が引いていくのがわかる。
「すまん…俺には、荷が重い作戦だ…他を当たってくれ…」俺は、頭を抱え田中の申し出を拒否した。
「そうか…なら仕方ない…この手は、使いたくなかったが…」田中は、カードの様な物を広げ表面を見せて来た、それは、カードではなく写真だったのだ、それも、心葉が映っている、少し際どい写真まである。
「おっお前!俺の彼女だぞ!」
「お前の彼女だけじゃないぜ!」服の下からデカいアルバムを出しパラパラと見せて来た。
「先輩、後輩、同級生!先生から清掃のおばさんまでこの学校に出入りする女性は、全て網羅してある俺の大切なコレクションなのだ!惜しいが心葉ちゃんの項目に在る写真をお前に譲渡すると共に金輪際心葉ちゃんの写真を撮る事を辞めてやろう!これでどうだ⁉︎」
「脅されちゃあしょうがねぇ…でも一つ条件がる」俺は、ちゃっかり胸ポケットに心葉の写真を収めた。
「これ以上何が欲しいんだよ、俺は、もうこれ以上のカードを持ってないぜ?」
「後でそのアルバム見せてくれよな…」と俺は、照れながらそう言った、そして田中は、徐に肩を組んできた。
「お主もスケベよのう…ムッツリ屋…ニヒヒッ」
「いやいや…オープン様程では…ニヒヒッ」と二人の下卑た笑い声が教室に響いていた…
そして、壇上に戻った田中は、作戦内容を語り始めた。
「話を戻すがターゲットは、コイツだ!」と黒板の中心に強く貼り付けた。
「ほう…」田中が貼り付けた写真には、図書室で読書に耽っている黒髪ロングの女の子が映っていた。
「紅葉も知ってると思うがコイツの名前は、九条 霊子隙をあまり見せない奴だ!」
「そりゃ知ってるよな、俺の前の席だし…ちょいちょい喋るしな…」
「今日の百メートル走で少しは、隙を見せる筈!俺の計算式じゃ…」と田中チョークを持ち計算式を書き出した。
「ドゥルルドゥルルドゥルルドゥルル•ドゥルルドゥルルドゥルルドゥルル」
「効果音を自分で付けんじゃねぇよ…でも…すげぇ!全ての答えがπなってやがる!」
「身長百五十九cm上から九十一、五十九、八十七!ボンキュッボンボデェをしてやがるんだ!想像して見ろ!汗で透ける胸元!露わなうなじ!チラ見えする臍!こんなにも心躍る物があるだろうか!」
「お前そこまでっ…クゥー!やってやろうぜ!俺は、お前に全力で協力するぜ!」
「わかってくれたか!相棒!」
俺と田中は、硬く拳を握り合ったのだった!
俺と田中は、校庭へ、そして、体操を終え木陰で身を潜めていた。
「これをお前に授ける!俺は、ここから見守ってやる!」と田中が胸ポケットにボールペンを刺した。
「任せとけ!」と俺は、自信満々に歩き出した、霊子は、今、百メートル走の順番が来るまで列をずれた所に一人で準備体操をしている。
大丈夫だ!俺!ただ歩いとけばいいだけだろ!簡単じゃんか!と自分を鼓舞する、後二十メートル…十五メートル…十メートル…後少し…
「紅葉何やってんの?」と話掛けられた相手は、心葉だった。
「うっ…へ⁉︎なっ何って百メートル走の準備に決まってんだろ!」俺は、変に声が上擦ってしまっていた。
「紅葉!くっちゃべってねぇで作戦を遂行しろ!」と田中は、焦っている。
「ふーん…男子の番まで時間あるのに?」心葉は、疑う様な目付きで俺の顔を覗き込む。
「ばっ馬鹿!良いタイム出す為には、な、入念なアップやストレッチが必要な訳よ!understand?」
「気合い入ってんじゃん」
「カッコいいとこ見せてやっからよ!楽しみにしとけ!イヒッまぁあっちでストレッチすっからよ!じゃっじゃあな!」と俺は、再び歩きだす。
「…………………」心葉の視線は、痛かったがどうやら切り抜けられた様だ、ふぅ〜危なかったぜ…
「ふぅ〜ヒヤヒヤさせるぜ…まったく」と田中は、安堵した。
俺は、やっとの事、体操をしている、霊子に接触を心見る。
「よっよう!調子どうよ?」
「ん?調子も何も普通だけど…」
「へっへ〜そっか普通か〜」と俺は、思いっきり胸を張り体操を始めた。
「で…何が言いたいの?」
「何でもねぇよ、俺も準備体操しに来ただけだからよ!気にせず体操を続けてくれ」
霊子は、ダイナミックな身体を揺らしながら不思議そうに体操を続けた。
「いいよ〜、いいよ〜良く撮れてるよ〜」と田中は、鼻の下が伸びていた。
「次ー!九条!小池!佐藤!田口!」先生の呼び声で霊子は、行ってしまった。
「これで田中も喜んでくれんだろ!」
俺は、ボールペンを掲げながら田中の元へ舞い戻った。
「田中やってやったぞ!」
「でかした!紅葉!クックックッ、お前も見るか?」
「いいんですか〜?」自分でも顔が緩んでしまっているのがわかる。
田中のスマホから撮った映像流れ始め霊子のダイナミックな身体が映し出されていた。
「ゲヘヘ」
「ゲヘヘ」俺は、下卑た笑いを浮かべていた、そして、スマホが影で見えなくなってしまった。
「おい!全然見れねぇぞ!もっと明るくしろって!」
「ちょっと待ってろ」
「あんた達ね〜」聞こえて来たのは、心葉の怒りに満ちた声だった。
俺は、恐る恐る振り返ると鬼の形相をした心葉の姿がそこにあった。
「ちっ違うんだ!こっこれは、田中がやれって!」
「おいっ!てめっ裏切んのかよ!」
「問答無用!」
俺達は、心葉の怒りの鉄拳によりボコボコにされたのだった。
「田中は、スマホの動画全て削除!」
「うっそー!それだけはー!」
「うるさい!エロ野郎!」
「紅葉は…」
「一週間口聞かない刑に処す!」
「え〜まじかよ!」
俺は、昨日やらかした罪の精算中という事を実感したのだった。
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