第2話 白き世界と2つの精霊 ②

>[最適化 完了]

>[実力行使を開始します]


 トリガーを引いた瞬間に魔法陣が光を放って回転し始めると同時に周囲の空間が蜃気楼のように歪み始めた。


 白い閃光がワイバーンの口を貫き、そのまま奴の上顎は血しぶきを撒き散らしながら吹き飛ぶ。


 反動によってソリの車体が一瞬宙に浮いた。


 さっきまでの速度の比ではない速さでソリが前進していく。


 クロスボウをそのまま足の上にのせてソリの手すりに肘をかけて、ふと空を見上げた。


 緊張と興奮によって疲れきった体から少しづつ力が抜けていく。


 空を見上げると吹雪はもう落ち着いていた。


 灰色の空の隙間から顔を覗かせていたお天道様はさっきよりも輝いていて少しまぶしかった。


 ここまでに起きた出来事がまるで夢のように思い出されていった、俺がアイツワイバーンを倒したんだ、確かにこの手でトリガーを引いて吹き飛ばしたんだ…。


 理解が現状に追いついてくると喜びが込み上げてきた。

 ””やった!””

 ””ついにやったんだ!””


 流れていく雲を眺めながら何度でもさっきまでの出来事を思い出していく、思い出しては噛みしめ、思い出しては噛みしめをひたすら繰り返す。


 しばらく余韻に浸っていると、急に強い衝撃がソリを襲った。

大きな石か何かに車輪がぶつかったのだろうか。


 とっさに手すりにしがみ付いたけど、それでも体がふわっと宙に浮いた…


>[ダメージを確認しました。]

>[直ちに状態を確認します。]


 目を開けると真っ暗な空間が広がる。


 周辺を見渡す限り何も見えない。


 周りを見渡しながらしばらく暗い空間を歩いていると上に小さな光が見えた。


 ””とりあえずあそこに行くとするか””


 その光に目標を定めて、また歩き始めた。


 そうすると目の前にその光に向かう階段が徐々に暗闇から浮き出てきた、まるで光がこちらを招いているようにたった今浮き出てきた。


 ひたすら無心で階段を上っていく。


 その間の時間は途方もないようにも、一瞬のようにも感じられた。


 導かれるようにその光に向かうとその光は徐々に人の形を成していくのが見えた。

 

 その光は白いオーラを纏ったスキンヘッドの男性のような姿をしている、彼の目の前にはSF映画の宙に浮くスクリーンのようなものがいくつか映っている。


 階段を上りきると彼はこちらに気づいたかのようにゆっくりと振り返ってきた。


 ””あの、ここはどこですか?””


 咄嗟に絞り出した質問をぎこちなく口にした。


 何かしてくるわけでもなくただただ彼はこちらをじっと見つめてくる…。


 特に話すそぶりもしないで見つめてくる。


 彼に見られている間は不思議と心から何かがポツンと抜けたような、偉大で強大なものを前にして本能的に動けなくなるときのような感覚に陥った。


 そんな僕の気持ちを汲み取る気配もなくただただ見つめてくる…。


 何か行動するでもなくただ見つめてくる。


 しばらくすると彼はこちらに堂々と歩いてきた。


 目の前まで来ると、また静止したかと思えば、急にその手でこちらの目を静かに覆ってきた。


 白い光の暗い世界を抜けて目を覚ますと乱層雲の隙間から青い空が見える…


 もしかしたらしばらくの間、気を失っていたのかもしれない。


横には横転したソリとソリの中にあった荷物が散らばっていた。


 ””あの人は大丈夫かな?””


 ふとソリを運転していた人のことが気がかりになった。


 周りを確認するために体の上に乗っかってるクロスボウをどかそうと両手でクロスボウを押した瞬間に味わったこともない程に激しい痛みが全身に広がった。


 クロスボウのほうをちゃんと見ると体にクロスボウが少し食い込んでいるように見えた。



 状況を頭で理解していても受け入れるのは簡単じゃなかった。


 試しにもう一度動こうとしてもたった今感じた痛みがそれを阻む、やるせない気持ちから思わず涙がこぼれる。


 きっとこんな姿見られたら、情けないなんて言われるかもしれないけど自分でもどうすればいいのかわからない。


>[痛覚を一時的に遮断しますか?]


””また、あの声だ。””

””凛々しくて堂々としている男の声だ。””

””お願いします…。””


>[承認を確認しました。]

>[3秒後に遮断を行います、行動には細心の注意を払ってください。]

>[尚、遮断時間は3分間です。]


””痛みを感じなくて良いなら、何でもいいや””


 しばらく空を眺めていたら、空に黒い点があることに気づいた。


 それを見ていると違和感が湧いてくる。こんなにも明るいのに星が見えるはずがないし何よりそこに張り付いてるように、ポツンと浮いてるように、世界一黒い物質を塗られたものを見ている時のような違和感を感じた。


 また、あの人のことが脳をよぎる。

””そろそろ、三秒経ったかな””


 恐る恐る手を動かしてみる…。

””あれ?””

””痛くない…””

さっき感じた痛みが嘘のように消えていた。


 そのまま両手でクロスボウをどかして立ち上がって体についた雪を手で払いながら周りを見渡した。


 地面にあった細長い足跡の向こう側に小さな人影が見えた。


 人影の後を追っていると分厚い毛皮のコートを着ている人が見えた。


””あの人だ!””

””よかった、生きていたのか!””


 その人のほうへ全速力で走る途中、足がピタッと動かなくなる。

””あれっ””

さっきまでの勢いでそのままどさっと雪に倒れた。

訳も分からないまま…。


””なんで…””


 金縛りにあった日の夜のように動きたくても動けない、息をしようにも雪が鼻に入ってきてそれも出来ない。


””結局死ぬのかよ、あれだけ繋いだのに···。””


 全てを諦めかけた時、雪のつぶれる音が聞こえる。


 音はどんどん大きくなりやがて音が耳のすぐ横まで近づいた。


””あの人が来てくれたのか?””


 そのまま体を持ち上げられ、おんぶされる。

そのまま、中に入った雪に構わず息をゆっくり大きく吸い込む。


 自分が情けなくて仕方がなかったがこの人に頼るより他はなかったのでその人に体を預けた。


 だんだんと体の体温が吸われていくのを感じる、寒いや冷たいというより痛い。


 代り映えのしない白い雪景が細い希望を打ち砕く、できることなら今すぐにこの人の手をほどいてさっきみたいに雪に埋もれていたい…。


 すべてを諦めかけていたその時、かすかに人の声が聞こえた。


 おんぶしてくれている人の歩くペースが速くなっている。


””間違いない、人がいる。””

””助かるかもしれない…””


 「大丈夫か!」


男の人の声が聞こえる、すると分厚い毛皮のコートの人は足をピタッと止まった。


 「そこで待っていろ、今からそちらに向かう。」


 声を張り上げてこちらに伝えているのにその声はとてもやさしかった。


 大きな幌馬車でこちらに向かっているのが見えた。徐々に車輪と馬の足音が近づいてきていることでわかった。


 「キューナ族のプリンセスじゃないか!」

 「それと…。君はあいつの子供か、兄弟たちはどうした?」

 「とりあえず中に入ってくれ、火を起こすからもう少しだけ我慢してくれ。」


 おんぶされていた僕を分厚い毛皮のコートの人の背中からゆっくりお姫様抱っこのように持ってそのまま馬車の中にゆっくりと乗せてくれた。


 「ほら、君も早く乗って」

 

 彼は分厚い毛皮のコートの人にそういったが、その人は手を振って断っていたように見える。

 

 「僕のお願いを断るのかい?」

 

 彼がそう言い放つとあの人は申し訳なさそうに馬車の隅に座った。


 助けてくれた人は古代ローマのような服装をしている長い髪をした白髪の好青年で僕よりも年上に見える。


 彼が自分の服から小さな木の枝を取り出してそのまま床に放り投げると木の枝は焚火に変わる。


 その後、彼は馬車後方の幕を下ろした。


「ハルリーナ、少し耳を塞いでいてくれ」


 彼は僕の額をやさしく触りながら呪文のようなものを口にする。


 「僕の名のもとに彼を祝福することをお許しください。世の矛盾に抗う術である彼を待ち受けるすべての苦難と絶望に彼が向き合えるよう、僕の名のもとに表の神々と精霊と摂理の祝福の一部を与えます。」


 彼はすべてを言い終えると分厚い毛皮のコートの人に終わりを知らせた後、そのまま馬車の外に出た。


 外の光が入らない馬車の中は火の暖かい光で照らされている。


 残された力で開けていた瞼は徐々に閉じてゆく。


 ””兄弟…。””



 


 

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