ゆとりど真ん中

ぼっちマック競技勢 KKG所属

ゆとり教育?何が悪いんです?

 閑散とした居酒屋の中、二人の男がカウンターに座っていた。


「大室さん、32でしたっけ」

「そうだよ。今日で32」

「てことは...ゆとりど真ん中の世代っすか」

「そうだね。君は20だから、もうゆとりは終わっちゃってるのか」

「そうですね。てか、正直ゆとりって笑。まぁ避けれて正解だったんじゃないすか」


 若い方の男はバカにするかのような嘲笑を浮かべる。

 大室と呼ばれた男はまたか、と思う。


「なんだい。若いくせに言うじゃないか。よし、じゃあ教えてやろう。ゆとり教育ったやつの良さをな」


 そういって男は話し出す。


 ▲


 俺は、九歳の頃父を亡くした。死ぬとかそう言う概念を理解し始めていた頃だったから、事実はスッと胸に入ってきたんだ。


 なんも悲しくなかったといったら嘘になる。

 だけど、その事実自体はそんなに心に響かなかったんだ。その頃、父と母は口論ばかりしていてその生活に終わりが見える音に俺は心のどこかで安堵してたんだ。


 母は違ったようだけどな。めっちゃ後悔してたぞ。


 俺の心に響いたことは、虚無感だった。人は失ってから初めて気づく。大切なものを失うと言うことも、その時初めて知った。


 そうすると、どうなったと思う?


 大切なものみんな、ぼやけて見えるようになっちまった。


 だからな、はっきりと見える大切なものを求めた。どこまでもどこまでも、探したぞ。学校でも、家でも。


 だけどそんなものはなかったんだ。どんな存在も明日には消えてしまうかもしれないんだ。そう思った時、どうしようもなく感情がぐらついた。


 今みたいな強気の俺からじゃ考えられないかもしれないが、あの時は周りにすごい左右された。周囲の言ったことに身を任せて、動いてた。


 だって否定するとさ、そいつらが消えてしまいそうでそれが恐ろしかったんだ。


 だけどな、そんな俺にも転機が訪れたんだ。


 それがゆとり。わかるか?ゆとりだ。ゆとりが俺を助けてくれた。他のやつらはろくでなしになったのかもしれないけど、俺は今みたいになった。俗に言うエリートだ。


 そこは誰も否定できやしない。


 先生達も大人達も自分を信じていいと言ってくれた。ゆとりが推進されたからなのか、本心なのかはわからない。だけれど俺は少しずつ自分に見える世界を信じられるようになったんだ。


 大切な存在がはっきりと見えるようになった。掴めるようになった。ぼやけたまんまの意味のない存在じゃない。自分をしっかりと支えてくれる存在に。


 自分を貫けるようになったのもこの時からだ。


 他のやつらも、いっつも自分を信じてる。決断をしたその瞬間は自分自身の意見にしがみついて、後になって後悔する時も今の自分の感情に身を委ねる。


 なのに奴らは周りに合わせるんだ。滑稽だと思わないか?本当の自分でさえも周りに先導されて。みんなそうだ。


 だからその群れの中に、自分を本当の意味で信じてやれるやつが必要なんだよ。そして、気づいた。これに気づいて実行できる度胸のある奴だけが人を引っ張れる奴になるってな。


 だから俺は俺を信じる。いつだって自分を疑わない。

 今、考えてることを信じるんだ。


 ゆとり教育ってのはな、その意味で本当の自分を引きづり出せる教育なんだ。周りは何にも言わないで、本当の自分自身を信じられるようにしむける。


 俺の自論だけどな。


 そのゆとりが軽蔑視されるようになったのは、一重にその代の出来が悪かったからだろう。みんなに任せすぎたせいで、人は楽をする方向に向かっていった。


 人の本質を引き出しすぎたんだな。だからバカばっかし。


 俺?俺は勉強したからな。勉強したほうがいいとい思ったから勉強したんだ。言われたからじゃない。自分が思ったからだ。そして、今にいたる。


 立派な人格を持って、自分を貫き通せる男が生まれたんだ。


 どうだ?わかったか?ゆとりのすごさ。


 仮面をかぶって、自分を隠すんじゃない。仮面を取り去った本当の自分を見せられるようにしたんだ。だって偽りの姿形に意味なんかない。見出しちゃいけないから。


 とにかく!ゆとりはすごい!

 もう、色眼鏡で見るなよ?

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ゆとりど真ん中 ぼっちマック競技勢 KKG所属 @bocchimakkukyougizei

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