オモチャに囲まれて僕は何とか生きてます

第1話 ここはどこ？

「ここ、どこ？」

目を覚ますと目に映ったのは大きな青い空だった。僕に外で寝る趣味はなかった筈だ。

起き上がるとそこは大草原。

目の前には赤々とした草が一面に広がっていた。

赤い草？なんだこれ。

足の下に生えている雑草はペンキを零されたように真っ赤だった。

そっと触れてみる。

「熱っ」

感触は普通の雑草と全く変わらないが、葉脈に沿って撫でてみると葉温の変化を感じた。

なんで草原が真っ赤なのか？

これほど急激に発熱する草というは現実に存在するのか？

それ以前にここは何処なのか？

そして僕は何故ここで眠っていたのか？

さまざまな疑問が浮かんでは消えていった。

とりあえずは警察か？連絡しないと。

ポケットをまさぐってスマホを取り出そうとする。あれ？ない。

というかこの服はなんだ？

自分で購入した記憶のないベージュ色の麻の服を着ていた。

これから僕はどうすれば良いのだろうか？

僕の名前は遊詰（ユヅメ）　集（シュウ）。１９歳。

痩せても太ってもいないが、背が平均よりも少し低いのを気にしているカレー屋で働くフリーターだ。　

よし、自分のことは覚えている。

何もわからないままでは行動もできない。

まずは自分のことから思い出して、少しずつ記憶を掘り起こそうと僕は試すことにした。

昨日はバイトは休みで図書館へと行った。

そこでしばらく本を読んで昼になり、元々僕が暮らしていた叔父夫婦の家にいる子供達にプレゼントを購入しようと玩具屋に行ったのは覚えている。

・・・それでオモチャを選んでいて、あっそうだ。地震が起きて俺の方に棚ごとオモチャが倒れてきたんだっけ？

「で？なんで玩具屋で事故に遭ったら大草原で目覚めるんだ？」

普通は目が覚めるのなら玩具屋か、病院だろう。誰が草原に放置するというのか？

あり得ない。

記憶を辿って昨日？の出来事を思い出したところで役には立たなかった。

だからといってずっとここにいてもしょうがない。

探すのは人だ。その人にここが何処なのか尋ねるところから始めよう。

方針が決めれば後は行動あるのみ。

不安な気持ちには無視を決め込んで僕は立ち上がった。

ギュオオオオオオオン。

「うわっ」

しかし僕は動き出すことが出来なかった。

立ち上がった瞬間に空からとんでもなく大きな咆哮が放たれたからだ。

「なにあれ？」

空には鳥がいた。

それは普通だ。鳥が飛ぶのは当たり前の事だ。しかしその鳥は見たことがないくらいの大きさの生物だった。

僕がこの目で見たことのある最大の動物は象か鯨だろうか？

それよりも二回りほど大きな怪鳥が大空を舞って叫んでいたらどう思う？

・・・僕死んだかも。

僕は目覚めて早々死を覚悟する羽目になった。

「やばいやばいやばいやばい」

僕は直ぐに座り込み辺りを見回す。

身を隠す場所を探す為だ。

しかしここは大草原。

隠れる場所など何処にもない。

「お願い、見つけないで」

僕は怪鳥に見つからないように願いながら出来るかぎり身を縮めた。

目を瞑って悪夢が去るのをひたすら待つ。

ただ僕は拳をぎゅっと握り恐怖に耐えた。

長い時間そうしていたような気もするし一瞬だった気もする。

だがふと我に帰ると咆哮は聞こえなくなり怪鳥は姿を消していた。

「これ夢？」

しかしそれは力一杯握り込んだ拳から伝わる痛みが否定した。

「あり得ないほど大きな怪鳥、一面に広がる赤い草原、それに加えて突発的な事故の後の知らない場所での目覚め・・・ははは、これってまさかファンタジーなやつ？本好きが高じて脳みそ壊れちゃったのかな？」

一応、様式美としてやっておくか、

「ステータス」

自分で言ってて何を馬鹿なことを、と思いながら口にする。だが結果は予想とは違っていた。

《　名　前　》　ユヅメ　シュウ

《　年　齢　》　１９

《　種　族　》　人間種

《　レベル　》　１

《　職　業　》　玩具屋

《　スキル　》　言語　　

　　　　　　　　玩具購入1

　　　　　　　　玩具修理0

　　　　　　　　玩具召喚0

「出ちゃうんだ、これは困ったね」

それはまごうことなきステータス画面だった。

「はぁ、これが夢じゃなければ一体なんなんだ」

僕はバタンと倒れて草原に仰向けになった。

本で見たことあるような事が僕の身にも起こったということだろうか？

大きな不安が襲って来たが、どこかで胸が踊っているような高揚も感じていた。

今頼りになるのは目の前のこれだけ。

僕はおもむろにステータスという言葉に反応して浮かび上がった半透明の画面に触れると画面が切り替わり文字が浮かびがって来た。

【ごめんね、こっちのミスで局地的（きょくちてき）な地震が起きて君死んじゃったみたい。でもこれって凄い確率なんだよ、だって君以外は誰も怪我すら負ってないんだから。運が悪かったと思って、あっちでの生活は諦めてね。　

でも大丈夫。

こっちの世界で生きられるように体とスキルを与えてあげたから。服はサービスだよ。それも貴重なものだから捨てちゃダメだよ。

まぁ捨てられないんだけどね。

言語のスキルは書いたり話せたり出来るようになるよ。

便利でしょ？

それと玩具のスキルは玩具に潰されて死んじゃった君にお似合いのスキルだよ。少し遊びが過ぎたかな？玩具だけにね？

伝えたいことは以上です。じゃあ後は元気に楽しんで。その気になれば人は何処（どこ）でだって生きられるから頑張ってね】

それは巫山戯た内容だった。

他人の人生をめちゃくちゃにしておいてなんて言い様なんだ。

「ごめんねじゃないよ。僕、今日からここで暮らしていくの？」

僕は空を見ながら途方に暮れた。

「最後にホロホロ亭の塩チャーシューラーメン食べたかったな」

こうして僕の異世界での生活が始まったのだった。