第2話 サーシャと私。

「――ねえ、サーシャ。今日は何にする?」

「……うーん、そうだね。質の良い野菜もたくさん手に入ったことだし、ポトフなんてどうかな?」

「うん、賛成! いまから楽しみっ」



 色とりどりの風車が並ぶ、緑豊かな街の中。

 鮮やかな朱に染まる空の下を、和やかなやり取りを交わし歩んでいく私達。すぐ隣にて穏やかな微笑を湛える彼はサーシャ――あの日、私を助けてくれたあの端整な男性で。


 あれから、およそ七年――私は、14の歳を迎えた。



 

 あれから、サーシャと私はあの村を離れ少し遠くのこの街へと移転した。予てから、この街に住むつもりだったから――そう、彼は話していた。


 ひょっとすると、それは一定の事実を含んでいたのかもしれない。それでも……まあ、流石に察せないはずもなかった。それが、もはやあの村に居場所などなかった私のための選択だったということは。


 それからも、サーシャはずっと優しかった。あれからも、辛い時、苦しい時はあったけど……それでも、あれから死にたいと思うことはただの一度もなかった。だって……私の傍にはいつも彼がいてくれて、暖かく寄り添い支えてくれたから。……だから、


「……セリア?」


 ふと、不思議そうに呟くサーシャ。不意に、私が彼の腕を引き寄せ絡ませたから。……うん、分かってるよ。きっと、届かないってことくらい。それでも――



 ――それから、ほどなくだった。卒然、あの人が現れたのは。





「――あの、セリアちゃん。やっぱり、私のこと避けてる?」

「……いえ、そんなことは」


 それから、数ヶ月ほど経て。

 リビングにて、少し浮かない表情かおで尋ねる優美な女性にたどたどしく答える私。一応、こちらとしても気をつけてはいるんだけど……うん、やっぱりごまかし切れないようで。



 私がドローテさんと知り合ったのは、およそ二週間ほど前。突然、サーシャから彼女を紹介されて。一ヶ月ほど前に知り合い、昨日お付き合いすることになった女性ひと――突然、そんな紹介をされて。

 年齢は19とのことで、即ちサーシャとは一回りほども離れているわけだけど……まあ、年齢そこに関しては何ら疑念はない。サーシャは、実年齢より随分と若く――それこそ、20代前半くらいに見えたりするし……そもそも、恋愛に年齢としなんて関係ないし。


 なので、年齢そこに関しては何ら疑念もない。ないのだけど……ただ、ドローテさんがどうというわけでなく……ただ、こんな短期間でサーシャが交際を決意したというのが、どうにも違和感を覚えてならない。私が、戸惑う彼にしつこいくらい積極的にアプローチをした――ドローテさんはそのように話していたけど……でも、それにしても――



 ――ただ、次第に分かった。サーシャは、他ならぬ私のためにこの交際を受け入れたのだと。


 


 




 


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