悪魔の選択
暦海
第1話 犯罪者
「…………」
幼少期の、ある冬の日のこと。
声も出さず、ただぼんやりと佇む。そんな私の視界には、随分と酷い有り様の住まい――つい先日まで三人で暮らしていた、私達家族の住まいが。そして、壁の至るところに描かれた誹謗中傷の数々。……うん、もはや溜め息すら出ないや。
……まあ、仕方ないのかな。だって、この家の
そういうわけで、当然の如く何処に行っても私の――凶悪殺人犯の血縁者たる私の居場所などなく。悪事千里を走る――そんな故事はどうやら正しかったらしく、何処に行っても私の存在は知れ渡っていた。村一番の有名人さえ真っ青なほどに、この村において私の存在を知らない人などいなくて。
……いや、居場所がないだけならまだいい。いいのだけど……何処に言っても私に向けられるは誹謗中傷、更には石を投げつけられることも屡々で――
「……はぁ、はぁ……」
ともかく、疲労困憊の身体を引き摺り走る。そんな私の出来ることは――とにかく、逃げること。何処でもいい、どんなに不便な所でもいい……とにかく、誰もいない所に――
……それで、どうするの? その後、どうにか命からがら生き延びて……それで? 私は、誰のために生きるの? いや、そもそも今までだって、生きてる理由なんてあったの? 仮に……もし仮に、
……ううん、答えは否。考えるまでもなく、否。ただ、今とは違う種の苦痛があっただけ。だったら……うん、もはや何処で息絶えても構わない。なんなら、今ここでだって――
「…………あれ?」
目を覚ますと、視界に映るは見覚えのない木組みの天井。あの柾目、そして香り……恐らくは檜かなと思うけど、そんなことはどうでもよくて。そんなことより……確か、あの時、意識がプツリと途切れて、そして――
「――良かった、目が覚めたんだね」
「…………へっ?」
すると、不意に届いた柔らかな声。少し驚きつつ声の方向へ視線を向けると、そこには
さて、彼の話によると……どうやら、独り道端で倒れていた私を此処――彼の自宅まで運び寝かせてくれたようで。きっと、良い人なのだろう。だけど――
「……ひょっとして、ですが……私のこと、知らなかったりします?」
そう、おずおずと尋ねてみる。ここが何処かは定かでないが……それでも、この村の住人なら私のことを知らないはずは――
「――うん、知ってるよ。セリアさん、だよね?」
「……はい」
すると、なおも柔らかな微笑のままそう問い掛ける美男子。いや、問うと言うより確認かな。まあ、それはともあれ……知ってるなら、どうして――
「――だからこそ、かな。犯罪者の子ども――そんな理由だけで理不尽な仕打ちを受けている君だからこそ、手を差し伸べなきゃならないと思ったんだ」
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