ホワイトルーム・ザ・ラストナイト

小粋な馬鹿

貴方は〝ホワイトルーム〟を知っているか?

元は【人間サンドバッグ屋さん】として広まった店だったが、常連である金持ちのお偉方が、警察の目を掻い潜り、自身の悪趣味を隠蔽する為に、格好付けて〝ホワイトルーム〟と呼ばれたのが始まりだった。

〝ホワイトルーム〟に籍を置く女は皆〝 風呂に浸からせる。熱した鉄板の上に裸で立たせる。豚や犬と交尾させる。糞を食わせる。

……果てに死体と成り果てたとしても、その処分さえ引き受けてくれる。

表でやれば一発でお縄につく行為を、〝ホワイトルーム〟は金さえ払えば全て許容するのだ。


また、〝物〟には階級が存在する。階級の判断には〝物〟が常に肌身離さず身に付けている首輪を見ればいい。

先ず〝ホワイトルーム〟内の〝物〟の中でも最低ランクであるブラック。社会的地位を失い、実の親に売られた畜生共である。顔や体には吹き出物だらけで醜い姿をしており、汚らしい牢屋にも似た部屋に閉じ込められている。

ブラックはごまんとおり、一体千円で取引されているため、金持ち以外の客にも買われて、夜な夜ないたぶられては処分されている。

ブラックに続いて、ホワイト、シトリン、ガーネット、サファイア、アメジスト……と〝物〟の価値が上がると共に、待遇と環境も上がっていくシステムだ。

アメジストまで来れば値段は億にも近しくなるが、どれも皆、まあ息を飲むくらいこの世と思えないくらいの身麗しい姿かたちをしているのだ。

アメジスト用の部屋は、壁が無く開放的で広々としている部屋で、その中心には噴水があり、ちょうど真上が天窓となっている。

部屋には薔薇の甘い芳香が漂い、そこらかしこで傾国とも常少女とも言える〝物〟達が楽しそうに歓談し、水を掛け合ったり、新鮮なフルーツを口移しで食べさせあったり、互いに裸になって抱きしめあったりして……。

そうして、とろんと微睡んだ目で客を見ては巧みに誘うのだ。

そんなアメジストを一度味わってしまえば、二度とブラックには見向き出来ないだろう。

〝ホワイトルーム〟で遊ぶのならば、上等の〝物〟と触れなくては勿体なくなるのだ。

……因みに余談ではあるが、首輪には小型の爆弾がついているらしい。勢いは凄まじく、体の一片も残さない代物なんだそうだ。滅多には起こらないが、万が一〝物〟が〝ホワイトルーム〟から逃げ出した際に、証拠隠滅の為に起動されるのだという。あとは気まぐれで。


__そして、その階級の対象外であり、真の最高級品。選ばれた人間のみ通されるという一室に御座すのだという、誰もが喉から手が出る程手に入れたいとある〝物〟が〝ホワイトルーム〟には存在する。

燃え盛る炎にも似た、パーマのかかった赤色のロングヘア。

ボディラインを強調させる、深いスリットの入った緑色のミニドレス。

アメジストとダイヤモンドで作られた爪。

雪のように透き通った肌。

ジルコニアでさえ己の存在を恥じてしまうくらいの美貌を持つ絶世の美女。

〝ホワイトルーム〟の女王こと〝艶花ナユ〟。

かつて私も其れに惹かれた一匹だった。

我が身を、我が心を。

我が最愛の艶花ナユに捧ぐ。

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