13話
「…………」
「…………」
告白した。
独白した。
自分の罪を告白した。
自分の罪を独白した。
濃く、吐くように。
毒を吐くように。
全く白くなく。
真っ黒な告白を。
した。
「…………」
自分でもわからない。
何で彼女に話したんだろう。
耐えられなかったからかもしれない。
彼女の瞳が。
抱えられなかったからかもしれない。
彼女の言葉が。
「………………」
「………………」
彼女は何も答えず。
目を丸くして。
何を言われたかわからないような顔で。
どうしたらいいのかわからないような顔で。
僕を見つめていた。
「……………………」
それもそうだろう。
彼女は本当に何もわからないんだから。
彼女は何が本当かわからないんだから。
おかしくなった彼女にとって自分は月なんだから。
今、僕が何を言っても。
今、僕に何を言われても。
理解出来ないんだ。
「………………」
堪らず、目を反らす。
月から、彼女から。
自分から。
目を逸らした。
「…………」
僕はどうすればいいんだろう。
僕は何をすれば許されるんだろう。
「……………………」
違う、許されるのは僕じゃない。
僕は許されちゃいけない。
考えるのは彼女の事。
「知ってるよ」
想うのは彼女の事。
「大地君が私を襲った事」
彼女はどうしたら。
「私が月なんかじゃない事」
救われるんだろう。
「わかってるよ」
僕に犯されたという悪夢から。
「全部、ね」
覚めるんだろう。
「…………」
「………………」
「…………………………」
逸らした目を向ける。彼女を見る。
彼女は、僕を見ていた。
彼女は、僕を見て笑っていた。
目を細めて。
頬を吊って。
三日月のように。
口を歪めて。
笑っていた。
「知ってるよ、大地君が私を襲った事も、私が月なんかじゃない事も」
「わかってるんだよ、全部」
僕は何も言えず。
身動きも、瞬きも、呼吸も、唾液も出ず。
ただ立っていて、経っていて。
彼女の言葉を待つしか出来なかった。
「知ってて、わかっててやったんだ」
「今までの事」
学校の休み時間、友達と会話するような気軽さで、気兼ねさで。
穢した相手に話かける、僕に話しかける。
踊るような足取りで。
近づいて、話しかけて来る。
「ねぇ。大地君」
恋人がするように。
愛撫するように。
耳元で語りかけられる。
「自分が犯した相手と一緒にいて」
「その相手に好きって言われて」
「どう思った?」
脳に入り込んでくる。
望の声が。
気持ちが。
「話す度に、一緒にご飯食べる度に、優しくされる度に、名前を呼ばれる度に、手を繋ぐ度に、笑われる度に」
「私を好きになった?」
「嬉しかった? 苦しかった? 寒かった? 喜んだ? 辛かった? 憎んだ? 楽しかった? 悲しかった?」
「どう感じた?」
「胸が痛かった? 心が痛かった?」
「止めてほしいって思った? 泣きたいって思った? 消えたいって思った? 無くなりたいって思った?」
「だからやったんだよ」
「そう思って欲しかったから」
「全部、大地君のために」
「全部全部、大地君のため」
「だって大地君、私の事好きなんでしょ?」
「だから襲ったんでしょ?」
「私の事を」
「だから守ってくれてるんでしょ?」
「私の事を」
「小さい小さい、償いのために」
「ねぇ。答えてよ」
「罪悪感で死にたいって思った?」
「いっその事、私を殺したいって思った?」
「思ったの?」
「思ってくれないと困っちゃうな」
「そうじゃないと」
「大地君と一緒にいた意味ないじゃない」
「話した意味も、一緒にご飯を食べた意味も、優しくした意味も、名前を呼んだ意味も、手を繋いだ意味も、笑った意味もなくなるじゃない」
「好きになってくれないと」
「もっと好きになってくれないと」
「もっともっと好きになってくれないと」
「自分を***した男なんかと一緒にいた意味ないじゃない」
「答えてよ、答えてよ、答えてよ、答えてよ、答えてよ、答えてよ」
「答えて答えて答えて答えて答えて答えて答えて答えて答えて答えて」
「ねぇ、大地君」
「………………」
彼女の唇の艶が見える。
彼女の息遣いを感じる。
彼女の瞬きが聞こえる。
彼女の肌の匂いが香る。
彼女の呼吸の味が伝わる。
まるでキスするような距離で。
告白される。
彼女の怒りを、怨みを。
目を細めて。
頬を吊って。
三日月のように。
口を歪めて。
笑いながら。
どこまでもどこまでも。
真っ直ぐで、純粋な気持ち。
憎しみ。
「……ぁあ…………」
そうか。
これは彼女の復讐なんだ。
僕が、僕の小さな罪悪感を誤魔化すために。
彼女と一緒にいるのを選んだように。
彼女は、彼女の怒りを突き刺すために。
僕と一緒にいるのを選んだんだ。
僕の罪を責めるために、蝕むために、杭い込ませるために。
彼女自身が罰になるのを選んだんだ。
「…………」
そうか。
そうか。
そうなんだ。
理解した僕は。
僕が出来る事は。
「―――――――――――――――――――――――」
逃げ出す事だけだった。
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