10話

「僕は君を好きになれない」


「君が僕を本当に好きだとしても」


「僕が君を好きになっちゃいけないんだ」


そう告白した。


自分の罪を告白した。


濃く、吐くように。


「………………」


「………………」


「……ごめん、困らせちゃったね」


「私が月だから……」


悲しそうに言う。


「……違う」


僕はそれを跳ねつける。


「そうだよね、地球を壊しちゃう私の事なんか、好きになれないよね」


寂しそうに言う。


「……違う」


僕はそれを踏みつける。


「でも、私は」


「それでも私は……」


「違う!」


疲れたように言う彼女の言葉を。


僕は叩きつけた。


「……違う」


これは告白。


「君は何も悪くない……」


全く白くない告白。


そして独白だ。


「僕は君を…………」


彼女に言うわけじゃない。


ただ自分に対する懺悔。


「僕は君を……っ」


彼女を見る。


爛々と、朗々と、煌々と輝く月を背にする。


爛々と、朗々と、煌々と輝く彼女を。


小さく、細く。


美しくも恐ろしい彼女を。


とても恐ろしい彼女を。


彼女を見る。


彼女の瞳を見る。


彼女の瞳の中に映る夜を見る。


彼女の瞳の中に映る夜に映る僕を見る。


まるでその中に答えでもあるかのように。


応えでもあるかのように覗き込む。


望み、込む。


「…………」


そう。


彼女の瞳の中に。


僕の瞳の中に。


月の中に。


夜の中に。


「……僕は」


真実はある。


「…………」


「………………」


「……………………」


真っ赤に染まった世界の中に。


真っ赤に染まった瞳の中に。


現実はあった。


「……君を……」


僕が見る世界は全ては赤かった


なぜなら。


身体中を循環する血液は月の引力によって頭へと溜まって行く。


血流疾患性脳障害。


通称兎病。


「――襲ったんだ」


僕は、兎病だった。

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