第49話 処置
まもなくオーロンが現れた。
「おっと…ひどい状態だな」
「そりゃどうも」
大量の死体の中に俺たち二人が座っている光景は地獄そのものだろう。でも、この光景には慣れてしまった。
「とりあえず止血しよう。暴風、特にお前だ。頭から血が出てるぞ」
「え、あ本当だ」
殴られた方の側頭部を触り、手についた血を確認するクレイ。
「…暴風、痛くないの?」
「そんなに」
オーロンが包帯を取り出し、クレイの頭を診る。途端に表情が暗くなった。
「…これ多分割れてるぞ。暴風、平衡感覚はどう?」
「立てな…」
「おい!…やばい、こいつ意識無くした」
マジかよ、とりあえず病院まで運ばないと。
「クッソ、歯車立てねぇよな。貝殻とオカリナは別のところの制圧行ってるし。せめて車があれば…」
手段を考えていると、後ろのビルの陰に人影が見えた。目を凝らして見ると、それは敵兵だった。今殺したこいつらと同じ服で同じくらいの身長、間違いなくこの部隊の一員だろう。まずい、この状態で戦闘はしたくないな…。
「包帯、後ろ!」
俺は小さく言った。オーロンが拳銃を片手に振り返る。敵の少年兵はこちらに気づいていなかったようだ。
「ゲオルギー!撤退だ、こっちの小隊はほぼ殲…め…つ………嘘」
その少年兵の目が見開かれる。仲間たちが皆殺しにされた光景を目の当たりにした時の感情は、痛いほどわかる。その少年兵は見た目からして少し年齢が低いとわかる。こんなのトラウマになるだろう。軍人としてこんなこと考えるべきではないが。オーロンが銃を構えて言った。
「見ての通り、お前の仲間は全員死んだ。お前と俺がやり合っても、お前が死ぬことは明白だ。そして、見ての通り俺もお前とやりたくない。だからその手に持ってる銃を捨てろ」
その少年兵は消え入りそうな声で言った。
「捨てた瞬間に僕のこと撃つ気だろ…」
オーロンが冷静に言い返した。
「敵から生かしてやるって言われたのに、そのチャンスを無駄にする気か?」
少年兵は黙って銃を捨てた。オーロンが口調を崩さず言う。
「そのままそこに立ってろ。動いた瞬間撃つ」
そして、オーロンはクレイの応急処置を始めた。まもなくカールとランディが戻ってきた。二人とも血まみれだ。オーロンが顔をしかめて聞いた。
「….おい、怪我は?」
カールが冷徹に言った。
「全て返り血だ」
少年兵の表情が苦しそうだった。多分、彼がいた小隊を制圧したのはこの二人だろう。ランディが聞く。
「あの子は?」
「降伏兵だ。撃つな」
オーロンがクレイの処置をしながら言った。カールが話しかけてくる。
「ゲオルギー、ってやつはいたか?この部隊の隊長らしいんだが」
クレイをあの状態にしたやつ、確かゲオルギーって名乗ったよな。
「暴風とやり合ったやつだ。暗殺者みたいな異常な能力の持ち主だった。それがどうした?」
カールが言った。
「そいつは他部隊から最近入ってきたやつで、出生やらなんやらが全て不明らしい」
「…なぜそこまで知っている?」
「…敵兵を尋問しただけ。早めに吐いてくれたよ」
カールの表情は全く崩れなかった。
「そいつは今どうなってる?」
カールは無言で指を指した。あの子だった。不意にオーロンの声が聞こえる。
「おい!処置は終わった。担架とかあるか?」
カールが答えた。
「ビルの中に」
「俺と貝殻で担架を、オカリナは歯車とその子を頼む」
俺はカールの肩を借り、立つ。右足も右肩もめちゃくちゃに痛い。アドレナリンはとっくに切れていた。
「おい、早く来い」
カールが後ろに向かって叫ぶ。その子はゆっくりとついてきた。病院まではたったの数百mだ。急ぐぞ。
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