第47話 銃撃戦
「包帯、お前にかかってるからな」
「任せな。ただし、人間が投げるものだ。ミスっても責めるなよ」
唯一の対抗手段は用意できた。あとは時を待つのみだ。
先頭の戦車との距離が縮まってきた。だいたい20mってとこか。そろそろだな。擲弾を手に、オーロンが言った。
「全員戦闘準備はできてるな?」
「いつでも」
クレイが銃を構えて言った。オーロンは深く息を吸い、擲弾のピンを引き抜いた。そして、戦車の履帯部分に転がすように投げた。すぐさまビルの影に隠れ直す。機銃がビルの端を削った。それと同時に爆発。吹っ飛んだ部品が宙を舞った。
「よし、成功…!」
オーロンが小さくガッツポーズをとったところをクレイが叩いた。
「アホ、行動開始だ」
言うと同時に、ビルの陰から飛び出し、戦車に向かうクレイ。危ないぞ!
「機銃と砲台は生きてるからな!気をつけろ!」
「はいはい、黙って見てろ!」
クレイは叫び返しながら戦車に駆け上った。上部には入口となるハッチがついている。まさか…。
「敵の皆さーん!鉛玉のお届け物でーす!」
ハッチを開き、中にゲリラ撃ちを披露する。ここからでも鉄と肉が弾ける音と悲鳴が聞こえてくる。
「さーてと、鹵獲されたらやり返すよなぁ!?」
クレイが叫びながら無人となった戦車に乗り込んでいった。
「歯車、行ってくれないか?多分あいつ戦車の動かし方わからん」
「…了解していいのか?」
クレイがハッチから手を振っていた。悪巧みした笑顔を浮かべて。俺は素早く戦車に飛び移り、ハッチから中に入った。
「うえ…」
入った瞬間に鉄の臭いが鼻につく。足元の肉塊からだろう。死体は何度見ても慣れない。もっとも、人殺す仕事してるやつが言うセリフじゃないけど。
「歯車、砲塔を旋回させるやつどれ?」
「ここをこうするだけ。…これは習ったはずなんだけど」
「気にするな!」
「で、旋回させて何する気?」
ゆっくりと戦車を旋回させながら言った。
「それはな…」
クレイが砲弾を抱え、装填した。俺は全てを察した。
「吹き飛べぇええ!!」
レバーを思いっきり引き、砲台が低く重い唸り声をあげる。弾は真後ろの戦車に直撃した。
「おおー砲身がオダブツだ!もう一発!」
運良く砲身に命中し、後ろの戦車には反撃の手段が無くなった。すかさず二発目が放たれる。
「…つまんねー」
二発目は装甲に傷をつけただけでなんともなかった。
「よーし三発…」
三発目を撃とうとするので慌てて止める。
「待て、足元のやつらと一緒の運命を辿りたくないならそろそろ出るぞ」
「えー?俺もっと大砲撃ちたいー!」
「うるっせぇ出るぞ」
ご機嫌斜めなご様子のクレイを引っ張り、ハッチを開けようとした時、クレイが言った。
「…こいつら、少年兵だ」
「あ?何?」
身を屈め、足元の死体を見た。確かに、身長も顔も成長途中で少年兵らしかった。跳弾が貫いたであろう部位から血が広がっている。
「確かに少年兵だな…」
「カルンツァミアもついに人手不足か?元々の人口はうちの2倍くらいあったのに」
フン、生まれた時代の為にたった十数年の生涯に幕を閉じるのか。皮肉なもんだな。
「暴風、外出るぞ。相手はエリートとかなんとかだろ?対応は早いはずだ」
「了解」
ハッチを開け、外に出る。後続の車両から5、6人の兵士が出てくるのが見える。全員少年兵だ、マジかよ。しかも、俺たちが出てきたことに気づいた瞬間、撃ってきた。しかも頭があった位置だ。クソ、射撃の腕も優れてやがる。
「トリガーハッピー野郎め…」
戦車の陰に隠れたあと、クレイが呟いていた。俺は無言で銃を構える。場所がバレた以上、ここにいるのは悪手でしかない。囲まれて蜂の巣で終わりだ。
「歯車、別れるぞ」
クレイが呟くように言ってきた。
「了解、被弾は抑えろよ」
クレイは小さく頷き、銃を構える。俺は戦車の陰から相手を確認した。一丁前にアサルト持ちやがって…。とりあえず先撃ちするか。俺は陰から身を乗り出し、二発撃った。それに反応するように敵もアサルトを撃ってくる。
「…クソ」
無駄に銃の腕前はいいな。すぐに頭を引っ込めたからいいが、銃弾が耳を掠った。危ねぇな。
「歯車、俺行ってくるわ」
クレイがニヤリと笑い、陰から飛び出す。…おい、被弾は抑えろって言っただろ。容赦なくクレイに浴びせられる銃弾の雨。ギリギリのところでかわしつつ、敵の側面に滑り込むように入っていった。
「銃撃てないねぇ!!!」
そしてクレイが銃を乱射した。狙う必要もなく、敵兵が倒れていく。かわすスペースも、隠れるスペースもないからだ。かろうじて戦車の側面に逃げ込んでいるやつらがいた。でもな、
「そこは射線が通るんだよねぇ!」
隠れたつもりであろう敵の少年兵に正確な射撃をお見舞いする。程なくして見えている敵は全員死んだ。
「暴風、危ねぇよ」
「被弾してないからいいだろ」
クレイが服を軽く払い、足元に倒れている死体を観察し、言った。
「確かにこれは山岳部隊の紋章だな。にしては噛みごたえないんじゃねぇか?敵国基準のエリートってこんなもんか」
そう言った瞬間、後ろから銃声が二発した。そして鋭い痛みが俺の右肩と右膝を襲った。
「ぐぁ…」
「そうかもな、うちのエリート気取りどもはその程度の実力さ!」
膝を撃たれたせいで立てねぇ…。苦し紛れに撃ったやつの顔を見る。見覚えがあった。ランディから見せてもらったあの顔だ。南部戦線にいるはずだろ…なんで。
「…おい、俺の相棒に何してんだ?」
クレイがそいつのことを睨みつけた。そいつは飄々と答えた。
「一対一の勝負を邪魔されたくないなぁ、って思って。君もこの前線で暴れまくってる「強者」ってやつらしいじゃないか。僕と一対一でやってくれるよね?」
クレイの表情は変わらない。冷徹に言い返した。
「普段だったらおもしれー雑魚がきたなって思うけど、面白くねぇ雑魚がきたらしいな。乗りたくねぇけど、乗ってやるよ」
そいつは薄っぺらい笑顔を浮かべ、言った。
「ふふふ、よかったよ。逃げるようなビビリじゃなくて」
クレイの表情は全く動かなかった。完全にキレてる状態だ。唇を動かさずに言い返した。
「自己紹介はもういいよ」
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