ヘレヴェール奪還作戦

第45話 作戦開始

「ヘレヴェール奪還?ようやく始まるのか、タウナーのクソ野郎のせいでだいぶ遅れたな」

「クレイ、死人を悪く言うもんじゃない」

不満そうに鼻を鳴らすクレイを横目に、解禁された食堂の飯を掻っ込む。今日の朝、カスピオス司令が話してくれた。新兵器を投入し、反転攻勢に移るということを。

「新兵器だぁ?そんな画期的なもんあるなら試験段階から導入しろって話だよ」

「試験段階は南部前線に導入されてたらしいよ」

クレイの悪態は止まらず、不貞腐れた子供みたいにチーズを挟んだパンにかぶりついていた。


数分後、ニコニコのクレイが隣にいた。こいつは手のひらをドリル並の速度で回転させたようだ。街の道路を行進していく新兵器を目を輝かせて見ていた。開発に成功した新型の重戦車。俺はやれやれと思った。全く、こいつは戦車に対する憧れがすごいな。

「…相手のミサイルに対し、こっちは戦車かぁ…」

呟くと、クレイに睨まれた。

「あのな、こうゆうのはロマンが大事なんだよ!」

「俺たちの命ロマンに預けていいのか…」

「俺死なないからね」

ふーんとドヤり顔のクレイに対し、オーロンは冷静だった。

「被弾のしすぎで鉛中毒なったり、刺されて集中治療室入ったアホはどこの誰だったかな?」

一気に表情が渋くなるクレイ。しかし、オーロンが言うなら納得だ。こいつはうちの部隊の中で随一に被弾率が低い。


夕食を済ませ、俺の部屋で少し喋っていた時だ。

「前線復帰はもうそろそろだろうな」

「クレイ、何回も言うけどさ、被弾は抑えろ!そしてハイリスクに走るな!」

「はいはい、わかってるって」

「もうそろ時間だ。ランディ、オーロン、ホテル戻るぞ」

「ほーいよ」

たわいもない話で盛り上がったあと、いつものように解散する。

「んじゃダレク、俺も部屋戻るわ」

「早く寝ろよ」

「へーい」

めんどくさそうな返事を飛ばすクレイを見送り、俺もベッドに向かう。

「あー眠れん。コーヒーなんて飲むんじゃなかった」

ふふふ、と自嘲が溢れる。食堂が出してる飲み物のバリエーションが多いのが悪いんだよ。全部飲みたくなるじゃないか…。

「あー…もう」

毛布を跳ね除け、カーテンをめくった。夜ならではの静まって真っ暗な世界が目に映った。人通りも少なく、昼間と対照的だ。

「いい雰囲気だよな…」

そのいい雰囲気をぶち壊すものも目に映った。

「炎…炎!?火事か?いや…あの光り方は」

背中を嫌な感覚が走った。

「間違いない…銃だ」

時々聞こえる重低音は砲撃音だろう。一体なぜ…ラァーク川前線が陥落したのか?だとしても防衛地点とか、補給地点が存在するはずだ。…いや、そんなことより、早く仲間に知らせないと!


程なくして街に警報が鳴り出した。病院内はパニックだ。

「クレイ!クーレーイ!!起きろコンチクショー!」

「何?何?早く寝ろって言ったのはお前だろ」

「敵襲!敵襲だよ!民間人の避難と迎撃」

「おっけすぐ行くぞ」

「切り替えはや」

クローゼットに飛び込み、戦闘服を引っ張り出すクレイ。俺も自室に戻り、戦闘服に着替えた。すぐさま廊下に飛び出し、階段を爆走する。

「ダレク!銃ない?」

「自分のやつしかない!」

その足で街中の方へ走る。ランディたちのホテルの方向だ。ホテルのエントランスに駆け込む。こっちもすごいパニックだ。皆揃って右往左往している。

「ダレク!クレイ!」

ランディの声が聞こえたのでその方向を向くと、人混みをかき分け、こっちに向かってきていた。

「おい、名前!」

クレイがたしなめる。

「ごめん…歯車、暴風、状況は?」

「武器がない!」

「武器の前に民間人の保護が先だ。ホテルの地下にシェルターがあるだろう。案内するぞ」

後ろから出てきたカールが言った。

「その役は俺がやる。歯車と暴風は応戦しろ」

「えー…たった2人で?」

「大丈夫、3人だ。包帯がついてる」

こいつ…こうゆうとこ脳筋だよな。

「おっけ任せろ!」

クレイ、乗るな。

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