第18話 白い天使
翌日。クレイとペアで見張りをしていた時だ。
「さっむ…そろそろ防寒具が着てきた方がいいな」
歯をガタガタ震わせながらクレイが呟く。今は11月、もうそろそろ雪が降ってきてもおかしくない季節だ。
その日の夜、部屋でくつろいでいると、オーロンが窓の外を見て言った。
「雪だ、ほら見てくれ」
ちらっと見ると確かに雪がサラサラと降っているように見える。
「白い天使が降りてきたって言うんだよね、幻想的だなぁ…。中身は空気中のチリなのに」
カールとオーロンがのほほんと外を見ている中でクレイは顔面蒼白だった(まるで雪みたい!)。
「白い天使が降ってきた?白い悪魔が降臨したの間違いだろ。最悪だ、去年はもうちょい先だったのに」
クレイは極度の寒がりで、毎年毎年冬に苦戦していた。
「まあまあ、冬は必ず来るんだから、早いか遅いかの違いだろ」
クレイは全く同意できないという顔で首を横に振った。
翌日、雪は積もっていなかったが、かなり冷え込んだ。
「おーい、クレイ?起きろ?食堂行くぞ」
「無理、毛布から出たくない、寒いの怖い」
オーロンとカールが二人がかりで毛布を引っ剥がし、クレイを連行していった。
食事をしていると、ヘルテル代理司令から通達があった。
「本日から、この私、エンテーヌ・スタルフィン・ヘルテルが司令となる。これからもよろしく頼む」
タウナーの死後、ヘルテルが司令に就任した。
「いやぁ、これからまた前線で大暴れできるぜ」
ソーセージをかじりながらクレイが言う。心なしか口角が上がっているように見えた。暴れられることに喜んでいるのか、ソーセージの旨さに喜んでいるのか、できれば後者であることを願いたい。が、そうじゃないのが現実だろうな。
「また怪我すんのはやめろよ?ただでさえ物資不足で栄養不足なのに、無駄な怪我はしないようにな」
カールがホットココアを飲みながら言った。
「大丈夫大丈夫、怪我に無駄もクソも無いからな」
クレイがヘラヘラ返すので、カールはため息をついていた。
「…屁理屈が過ぎるぞ」
カールは額に手を当て、やれやれというふうに首を振った。そんなことお構いなしにクレイが捲し立てる。
「んなことより!なんでお前だけホットココアあるんだよ!」
「さぁ…?俺は普通にヘルテル司令からもらったんだがな?」
「はぁ?司令お前にだけ優しくない?どうやってもらったんだよ?脅したのか?」
「いや、食堂入った時に「先の件は災難だったな、これからも頑張ってくれ」ってなんか渡されただけだよ」
「はぁ?」
クレイは開いた口が塞がらないようだ。その時、オーロンがニヤニヤしだしてヒソヒソ話し出した。
「…なあ、ヘルテル司令はカールのことが好きなんじゃないか?」
「「はぁ?」」
クレイとカールの声が重なった。
「それは司令として上下関係がしっかりしてないんじゃないか?あと、野郎に好かれたとしてもな」
カールが冷静に物事を見て言った。が、オーロンには届かなかったようだ。
「あのな、一つ大事なこと言うぜ。ヘルテル司令は女性だ」
え?マジで?ちなみにヘルテル司令はなかなかにイケメンなんだ。
「え?本当かよ?見えないんだが」
クレイが驚きと興奮が入り混じった表情になる。
「よかったじゃねぇかカール!先越すなよ〜」
調子に乗ったクレイがニヤニヤして囃す。
「よかったじゃねぇか、じゃねえんだよ。軍として見たらダメだろ」
とは言いつつも、満更ではなさそうなカール。おい?むっつりスケベ?しゃーない、言ってやるか。
「あのなお前ら、ヘルテル司令がカールを好きだって確証はどこにも無いからな、勘違いすんなよ」
「えーじゃあなんでホットココアくれたんだよ」
口角が上がって仕方ないカールは周りが見えていないようだ。どうやってこいつ説得しようかな、と考えてる時に、ベルがけたたましく鳴った。これは…空襲警報だ。相変わらずわかりづらい。
「もうちょい休ませてくれないかなぁ!?」
そう言いながらもクレイが急いで席を立つ。
「この話はここで終わり、急ぐぞ!」
オーロンが席を立ち、カールも続いた。こうして俺たちは現実に引き戻された。
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